026話 王城
俺の目的は究極の所、ソフィアさんに近くにいてもらう事だ。
それはミュリエルの為でもあるし、俺の為でもある。
勝手な事を言ってしまえば村を捨てて俺たちと移住してもらった方が、ソフィアさんの為にもなるだろう。
けど本人にその気が無いし、それをやってしまうと本気で村人に死者が続出するのは間違いない。
なので次善の策として村ごとソフィアさんを助ける。
今ソフィアさんが村で担っている仕事は――。
魔法の大量使用による水の作成、これが一番負担を与えている。
そして森の遺跡の管理。
日課の見回りと言っていたが、数百年変化のない遺跡を毎日見回る必要はない。
けどそれをしているという事は他に理由がある。
村の食料は森からの狩猟採集によって成り立っていると言っていた。
ソフィアさんの見回りは、おそらくその安全確保だろう。
野生の魔獣、モンスターは強い敵や魔力に対して敏感だ。
強い魔力を持った彼女が縄張りを主張し、魔力の残り香で周囲の危険な生物を警戒させてるんじゃないか?
似た原理の魔道具を、父さんが作っていたのでそれほど的外れでも無いだろう。
それでも野盗や魔獣、モンスターが現れれば魔法で解決を試みもするだろうな。
つまりソフィアさんは村の防衛も請け負っている。
王城の廊下を歩きながら、情報をもう一度頭の中でまとめる。
謁見の間に通され王様へ直訴!
なんて事はさすがに出来ないらしいが、あらかじめ用意した陳情書の提出と、口頭での説明を聞いてくれる担当役人の時間を確保してくれたらしい。
ジローさんはああ言ってたけど、頼んだ事はちゃんと叶ってる。
連絡先が分かったら手紙と感謝の品でも送らなきゃな。
案内をしてくれる人――俺からするとみんな服装が立派なんで立場が分からん――の後を歩きながら、そんな事を考えていると強い香りが鼻をくすぐった。
建物の中じゃなく庭側、匂いに釣られて目を向けるとバラ園……だな多分。
立派だなという以外に感想も出ない、自分の場違いさを改めて感じる。
でもミュリエルがこんな趣味を持ったら、また分からないじゃ困るんだよなあ。
そんな事を考えながらバラ園を眺めていると、中に人がいるのに気がついた。
おそらく同時に向こうもこちらが見ている事に気がついたんだろう、白いドレスの端をちょんと摘んで、柔らかく笑いかけてきた。
腰まである長い銀髪も綺麗だが、その仕草がまさにお姫様!
そんな事されたら狼狽するしかない、俺の格好は麻の服の上下に陳情書を丸めて革のベルトに挟んだ、庶民の中でも下の方なんですけど⁉
俺よりかなり年下、10歳になるかどうかって歳だろうに育ちが違うってのはこういう事かと思い知らされる。
狼狽える俺にもう一度笑みを向けたお姫様は頭を下げ、バラ園にいるもう一人に向き直った。
その手には……手帳? ちょっと似合わないアイテムだ。
話している相手はおそらく庭師、バラ園に興味でもあるんだろうか。
「どうかしましたか、先へ行きますよ」
「あ、はい! すみませんすぐに!」
案内の人に慌てて追いつき、お姫様の事を頭から追い出す。
今は大事な役目の途中だ。
え~と村に必要なのは、水の確保は俺がやるとして、防衛に関する人材と農業について詳しい人と――。
**********
王都で買った荷車に揺られながら村に入ると、誰かが見つけて報告していたのかソフィアさんと村長が出迎えに来ていた。
揺られて気持ち良く眠っている3人を置き、喜びのままに駆け寄って声をかける。
「ただ今戻りましたソフィアさん! しばらく会わない内に一段と綺麗になられましたね!」
「余計な事はしなかっただろうな」
「村長そんな言い方は……それにユーマさんもそんな話は……」
やるべき事をやり、俺たちは王都から戻ってきた。
ソフィアさんの困った顔もなんだか懐かしい。
「おだててもあなたへの態度は変わらないわよ。後でミュリエルを家に連れてきなさい、旅が体調に影響してないから診るから」
「俺が見る分には元気でしたよ、色んな物を見れて楽しんでました。でもお招きとあれば喜んで!」
「いえ、あなたじゃなくてね? 聞いてるのかしら?」
予算が数倍手に入ったので予定よりはかなり早く戻れたんだが、ソフィアさんと言葉を交わすともう一日早く帰っても良かったって気になるな!
だが至福の時間もつかの間、額を抑えながら黙ってしまったソフィアさんと、テンションの上がっている俺の間に入るように、お邪魔な村長が声をかけてくる。
「それで陳情とやらに手応えはあったのか?」
「あ~あれは……正直ダメだと思う。役人の反応が凄く鈍かったからなあ……」
「仕方ないわね……。でも随分大荷物で帰ってきたようだけど?」
「出来る事が増えたので馬と荷車を買いました。馬の飲水についてはご迷惑をかけますが、少なくとも当座の食料については問題がなくなりましたよ」
勇んで行った王都での収穫、陳情は予想通りイマイチだった。
だけど他に持ち帰った物はある。
とりあえず種や苗を試す前に、水の確保を始めていかなきゃならない訳だが。
さらにその前に必要な事がある。
ソフィアさんの手を取り、跪いて見上げお伺いを立てる姿勢を――手柔らかいな! 幸せ!
「ソフィアさん、とても重要で人生に関わるお願いがあるんですが」
「あなた……それは口にしないと約束しなかったかしら……?」
「いえ、その件ではなく。俺の師匠になってくれませんか?」
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