046話 次のお仕事!
「――使うとこの器の中に食料が出てきて、それを食わせると相手と会話ができて支配できる。そんな効果だな」
「やっぱり食器だったッスか、石で出来てるなんて変な魔道具ッスね」
「妙な手順を踏んでるって事は祭器の類かもしれない、おかしなデメリットも無くて効果が強力だし。これを持ってればミュリエルも今日からビーストテイマーだ」
「使ってた人と使われてた怪物の印象が悪すぎて、あんまり持ちたくない……」
スカートの裾を伸ばすように抑え、足をキュッと閉じながら口ごもるミュリエル。
大きくなってたはずの姿も魔力を吸われたとかで元に戻ってるし、かなり酷い目にあったらしい。
慰めようと思って近づいたら生臭い匂いがしてちょっと躊躇って、ミアに怒られたりなんかもした。
でもこの魔道具は本当に強力なんだぞ?
会話が出来るってとこが重要で、魔法の効果抜きでも仲良くなれれば支配の効果も魔道具使用の消耗も必要ないのだ。
もっとも相手の知能程度に合わせる必要があるんだが……。
「持ってて損は無さそうだよ? 道具はただの道具だし、使う人次第だよミュリエル」
「は~い……」
ミアにも説得されて、渋々と石の器を受け取るミュリエル。
今すぐに使える様な物でもないけど、今後それで身を守れる事もあるかもしれないしな。
刺客に襲われた直後なのに、戦場でこんな気の抜けたやり取りができてるのは、合流した後に親衛隊に追いつくことができたからだ。
先に城内に突入した自警団と傭兵団は、事前の予定通り街中にある食料貯蔵庫を確保に向かっているらしい。
この騒ぎに乗じて略奪されちゃかなわない、俺がいなくてもガエルが上手くやってくれてるはずだ。
「ユーマ様、軍旗の準備ができました」
「わざわざすまないな、俺に親衛隊の指揮権なんてないのに」
「いえ、フェリシア様の夫君であられるのです。我ら親衛隊が敬意を表すには十分過ぎる理由となります」
20人ほどの親衛隊員達を従えた隊長が、周到に用意されていた俺の旗を隊旗として掲げ、報告に来た。
俺の旗は黄色地に赤竜、この黄色はフェリシアの伴侶であるって意味なので親衛隊が持ってても不思議ではない……のか?
貴族もそうだが、親衛隊はやたら紋章旗を大切にするしな。
自警団なんか、たまに新人が掲げる旗を間違えてたりするのに。
フェリシアと親衛隊は王城を攻略中だが跳ね橋を上げられ、それを覆うように鉄格子まで降ろされてはすぐに突入! という訳にはいかない。
そこで足止めを食っていたせいで合流できたんだが、指揮官クラスを遊ばせている余裕なんかない、という事で一部隊を預けられたのだ。
本当なら後から来る顧問達の部隊に合流して、そこから動くはずの任務だったんだけどな。
「でも前にレティが、全然別の場所から城に侵入してるのを見た事あるぞ? そのルートは使えなかったのか?」
「抜け道には特殊な魔道具が必要ですが、現在はレティシア様に継承され専用品となっているとお聞きしています。使用の為にはレティシア様にこの場までお越し願わねばならず……」
「あぁなるほどね、そりゃフェリシアが許可するはずないな」
自分だけなら危険はいくらでも来い! 予想外の襲撃! なんて波乱、楽しい!
……ってな感じだが、レティが一緒にいたら安全策を取るしか無くなるからな。
チャンスがあれば自分の楽しみの為に全力を尽くすが、それはレティの安全に優先はしないのがフェリシアだ。
ましてや難攻不落の本拠地があるのに、敵の本拠地まで連れてくるなんて論外にも程がある。
しかしあの抜け道について詳細に知ってるとは、かなりな側近を付けてくれたみたいだなフェリシア。
「それじゃ、行こうかみんな」
「はい!」
俺達の次の仕事は一部の親衛隊と同様、私邸に籠もった貴族達を脅して周る事。
大部分は王城にいると見られてるが、一部がその外にいるらしい。
恩のあるポンポンヌー侯爵家もそのひとつなので、声をかけて略奪を受けないようにしなければいけない。
他の貴族に関しては宇宙大将軍が直接出向いたら、自暴自棄になって襲ってくるかもしれないので、その時はありがたく返り討って欲しいんだとか。
便利に使われてるなあ……。
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