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最強の娘と虚名を得た俺は、乱世から逃れられないので終わらせる!  作者: 楼手印
4章 軍師いわく「乱世エンジョイ勢が発生しました」
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035話 王都包囲軍では

 帝国時代に築かれた街であるミノー王都の城壁は厚く高い。

 かつてユーマ達が見上げた精緻な細工を施された城門は、王都に住まう民の自慢の種だ。

 それを知っている騎士が包囲側の将として対峙し、またその参謀もかつては王都の民である。

 

 次々と馳せ参じる黄色い頭巾を巻いた者達からの参陣の挨拶を済ませ、自分の帷幕へと足を向けながら城門に目線をやり――ため息を飲み込む。

 既にかつて仕えた主すら自らの手で討ちながら、何を躊躇っているのかと。

 今は1万を超える王都包囲軍の指揮官なのだ、胸を張り直して帷幕の入り口をくぐる。


「戻りましたか、毎日申し訳ありませんね」

「いや人材不足は仕方がない、まさかこの規模で副官すらつかないとは思わなかったが」


 外の視線を気にせずにいられる場所に入った事で、いくらか気が抜けたのか愚痴がジローの口から漏れる。

 いかにも疲れたと言わんばかりに肩を回すその姿に、何か書き物をしていたテオドールもメガネを押し上げながら苦笑する。


「ニーネは陥落したのです、近くフェリシア様がご帰還なされます。それに最後の戦にはアイシャ殿もこの場に来られるそうです、少しは仕事が減るでしょう」

「アイシャが? それは別の悩みが生まれるな……」


 後方での支援業務に当たっているアイシャだが、前線からの要望に応じて物資や人を送るのがその主な任務だ。

 アレをよこせコレをよこせと伝令の口や手紙を介して伝えられる内容に、頭を抱えて地団駄を踏んでいる様子が目に浮かぶ。

 自ら前線に足を運ぶとあっては、その恨みが噴き出すのは避けられないだろう。


「厳しいようですが、覚悟していたほどではなかったそうですよ? ユーマ殿が兵達から必要な物資とその量の実態について詳細に聞き取り調査を行い、資料を送っていたと手紙にありました」

「データを集めるのが趣味になっている所があるんじゃないか……? 今書いているのは、その手紙への返信を?」


 ジローの言葉にテオドールが一瞬ペンを止めて考える様子を見せる。

 

「……えぇそうですね。アイシャ殿とフェリシア様、そして王都の知人宛です」

「知人? この状況で届くのか?」

「商人は通しているでしょう? 彼らに預ければ問題はありませんよ。近くまで来たことですし……終わった後に会えるとも限りませんからね」


 食料に乏しいのはどこも同じだが、王都ほどの大都市ともなると外部から運ばねばならない生活必需品は多い。

 それを運ぶ商人を遮っては、貴族はともかく一般の住民に恨みを買ってしまうので通行を許可しているのだ。

 万を超える軍勢に包囲されながら、王都は今も人の行き来が盛んに行われているのである。


「ご家族もまだ王都にいるんだったか……」

「そちらは気にせずとも良いでしょう。フェリシア様やレティシア様のご親族など、王都に何人いるやら分かりませんよ」 

「それを言われるとな」


 貴族同士の血の繋がりなど、本人達といえど全て把握している者はほとんどいないだろう。

 

「仮に家族を人質として押し出してきても、攻撃を苛烈にするくらいの対応がよろしい。王都にいるのは私の弟達ですが私の性格は知っていますし、捕まった時点で覚悟するでしょう」

「規範としてはその様な物がありはするが……本当に?」

「さて?」


 メガネの反射で瞳の見えない顧問の言葉は、冗談と取って良いのか分かりづらい。

 沈黙するのも気まずいので、咳払いをして別の話題へと強引に転換する事にする。


「そういえばそろそろ、例の騎士一団が来る頃合いだろう? また包囲を解く事になるが」

「ジュスト卿でしたか、ニーネの敗残兵を王都に入れるのは必須事項です。今からでも包囲を解くよう指示を出しておきましょう」

「ユベール将軍の時はひどい有様だったからな」


 包囲軍の大部分は野盗と変わらないような黄頭巾の部隊。

 命令を出してもその通りに動かないなど日常茶飯事である。

 敵味方双方があの部隊は王都に入った方が都合が良い、そう思っていても攻撃をかける者達が出るほどに、統制が効いていない。


「フェリシア様がどうやって言う事を聞かせていたのか、不思議になりますよ。早くお帰りを願いたいところですね」

「もっともだ――が、そうなると……始まってしまうな」


 ミノー王国を二分した反乱の成否を賭けた一戦。

 それはもう目前まで迫っているのだ。

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