025話 砦でのご休憩と雑談
「訓練も兼ねて隊長抜きの士官のみで王都へ行軍って……大丈夫なんですか、お父様?」
徴用兵の軍と黄頭巾の、数だけは主力な部隊が先発したドドローム砦だが。
その指揮は有能な働き者であるテオドール顧問に一任され、俺やジローといった主要な隊長は砦で休暇中である。
この機会にソフィアやレティに手紙を書いたり、出来れば馬で全力で走って会いに行けないか画策したり――。
時間的には戻れそうだったが、帰って家族に会いたいのは皆同じなので、どうにかギリギリ我慢したけどな!
「王都にはまだ戦力が残ってるけど、それが打って出る事は無いからゆっくりしてろってさ。ユベール将軍が王都に呼ばれた頃に、俺達も出発だ」
「本当に大丈夫かなあ……」
俺にあてがわれた居室にこっそりと運んでおいた、この砦の元指揮官秘蔵のワインを昼から開けている俺とジロー、そして何故か混ざっている聖女様。
それを見てミュリエルが心配する気持ちは分かるが、敵を侮ってるとかそういう問題ではないからな。
前回の戦闘で俺達は、貴族や騎士の9割ほどを討ち取っている。
それら支配層は、この国の知識層でもある――それも積極的に軍事に参加するタイプの者達。
ぶっちゃけて言うと、今の王都には兵はいても指示を伝える人間がいないのである。
俺総大将! 以下雑兵! では2~30人ならともかく、まともな軍としては機能しない。
アオの町で士官教育なんてやってるのも、その間を埋める人材の不足を感じての事だからな。
「――そういう訳で、引退した軍人とか経験者を引っ張り出して軍を立て直しつつ、ユベール将軍とその部隊を呼び戻すまで敵は動けない……らしいよ」
「今のうちに攻めちゃえば良いのに、敵を待ってあげるなんて変な話だよね~」
「今王都を攻めるなら街を炎上させる覚悟が必要だからね、比較的穏便に相手に負けを認めさせる為の準備だよ、ミア君」
敵の親玉であるトゥアール公爵には、俺達がいまいち勝ちきれないユベール将軍という手札が残っている。
その名声は国内でも知られていて、敵の手札の中では間違いなく最強なのだ。
それを目の前で完膚なきまでに打ち負かせば、王宮側も諦めがつくという物である。
「簡単に言ったけど難しいッス。ごすじん達はここでワインとか飲んでていいッスか?」
「フェリシアは何かお仕事してますよ、お父様?」
仕事をせずにグダグダと酒を飲むダメ人間に厳しいウチの家族。
それに反論しようとグラスを置いたのは、良いワインを開けるぞとジローを誘いに行ったら途中でついてきた自堕落の化身だ。
「フェリシア王女は好きでやってる特別な働き者だから、他の人と比べる物じゃない。毎晩えっちな事をして疲れてそうなのは、勇者様と同じなのにね」
「家族の前でそういう話題はやめてくれるかな⁉」
というか何で知って……リゼットは戦死者の弔いや儀式の関係で、各陣営に頻繁に出入りするからか。
砦の部屋よりフェリシア自前の天幕の方が豪華だったりするから、あっちに寝室を持ってる嫁を訪ねるとこを見られたかな。
「……あまり好ましく思ってない者もいる。親衛隊の少年が凄い目で天幕を睨んでた、気をつけた方が良い」
「あぁ、アレな……」
「ミシェルくんだっけ? なんか思ってたのとは違ったって言ってたよね」
親衛隊でフェリシアの近くに配属されている金髪の少年、ミシェル。
えらく俺を敵視してるのは、出世のライバル的な物かと思ってたんだが。
フェリシアと楽しんだ後の会話で、どうもそうじゃなさそうだと分かってしまった。
それはもう、色々と正直に話してくれたフェリシアのおかげで燃え上がってその後に予定外の二回戦とか……。
「まあ、横恋慕みたいなもんだ。今からでも功績をあげれば、フェリシアとどうにかなれるんじゃないかってな」
「それは……いや、無い事も無い……か?」
「無いと断言してくれよジロー……」
結婚する前にフェリシアとは、愛人がどうとかって話はしたけどさ。
「レティシアから借りた騎士物語だとそういう話はたくさん出てきたけど、王族とか騎士って愛人とか不倫が当たり前なの?」
「違うよミュリエル、騎士は……少なくとも私にはそういう趣味は無い!」
この場の騎士代表ジローがミュリエルからの、若干軽蔑の混じった視線を受けてひどく慌ててグラスを倒しそうになってる。
……いや俺も騎士だけどね!
「まあ、あいつには他にも色々あるそうだよ。王女様の近くには秘密が多いんだ、ここで聞いた話は黙ってるようにな」
「そういう話は広まるの早いしね~」
町じゃ主婦の井戸端会議にも混ざるミアが言うと、説得力が違うな。
でもまあフェリシアがモテるなんてのは今更の話だ。
それが広まったところで何も問題はないんだが。
別の方のが広まったり、余計な足を引っ張る事になったりしなけりゃ良いんだけどな。
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