022話 ジャーンジャーンジャーン!
「鳴らせ鳴らせ! 走れ走れ走れ!」
「敵は油断しきってるぞ! 手柄の取り放題だ!」
俺が率いる自警団に傭兵団そしてゴーレムの混成部隊が、砦から見て右の山から飛び出していく。
向かい側にある山からもジロー率いる徴用兵の部隊が、手はず通りに姿を現す。
さらに敵の正面からはフェリシアの部隊が前進を開始し、背後には埋めてあったゴーレムが地面の中から次々と出現している。
四方を囲んだ完全包囲、おまけに敵はまだ反応を開始していない。
「このまま突っ込むぞ! 偉そうな奴を優先して討ち取れ、それ以外の連中は放っておいても逃げ出すからな!」
「ま~明日には黄色い頭巾巻いてても不思議じゃない人達だよね~」
難民やあぶれた流民を集めた徴用兵だ、金や食料が支給されれば所属なんか気にしないだろう。
「でもあんまりこっちに来られても困るッスよ? 食べる物無くなるッス!」
「そうならない様に、適度に追い散らすの、タロ」
敵の王都軍は貴族の私兵と騎士隊、それに徴用兵で構成されている。
身分や立場上、その2者の真中に位置しそうな正規の兵団は、国王と一緒に壊滅したんで下の方の連中に忠誠心って物は皆無である。
そして陣営の作り方にもそれは表れていて、身分の高い者達の陣と徴用兵達の陣はハッキリと分けられているのが見て分かる。
前後に徴用兵の陣を設け、中央に狙うべき貴族達の本陣だ、こんなに分かりやすい話はない。
「ヒャーハッハ! 火だ! 火をかけろぉ!」
「腐った貴族共を消毒だぁー!」
「やったーカッコイイー!」
自警団が緑色の上着を身に着け、士官教育を受けた者が揃いの羽つきベレー帽を被っているのと同様に、傭兵団もまた装備を揃えている。
自分のデザインした装備を纏う傭兵団の活躍に喝采をあげるミアだが――女の子には可愛いデザインを用意してきたのに、男に用意した物はかなり趣味が違う。
金属製の兜にはトサカの様な逆立つ毛が生え、肩パッドからは金属のトゲが伸びている。
大部分は硬い革製だが、要所々々に金属の鋲が打たれたその見た目は中々にいかめしい雰囲気を醸し出している。
ありていに言って、悪そうだ。
「ミアに鎧のデザインを任せたら……俺もああなるのか……?」
「む~なに? ミアのデザインに不満があるの?」
「いや強そうには見えるんだ……がっ⁉ 助かったミュリエル」
「えへへっ」
飛んできた矢に驚かされたが、それは魔力の光に弾かれてあらぬ方向へと逸れていく。
突入前にミュリエルがかけてくれた、矢避けの魔法の効果だ。
ありあまる魔力を持つミュリエルだが、ゴーレムを除いても千人を数える俺の部隊全員に矢避けをかけるのは無理がある。
なので、ミア特製の目立つ衣装を着た俺が先頭を駆けて、わざと注目を集めている。
町で生活してた時は赤を基調に金糸で竜の文様が入った物を着ていたが、今身につけている硬革鎧に合わせられたサーコートも中々の派手さだ。
火竜を討伐した神竜殺しだからと、基本赤と竜推しで初対面でも俺と分かる出で立ちである。
なので――。
「囲まれている⁉ あれを見ろ! ユーマ・ショートだ、神竜殺しの奇襲だ!」
「者共あの者を討ち取れ! 成した者は新たな英雄ぞ、褒美は金貨千枚でも足りぬと思え!」
……そんな声もかけられる。
でも弓矢の様に遠距離からならともかく、巷に流されている噂通りなら俺は超強い勇者様だ。
雑兵の皆さんは金貨千枚よりも己の命優先らしく、多勢で群がってきたりはしない。
それと……俺の計略? まだ勘違いしてる様子だな。
一発逆転とかを狙っての俺の奇襲だと思ってるなら、ここまで誘き出されたのも俺達の作戦だったとまだ気がついてないらしい。
お前達が言うべき台詞があるとすれば……「フェリシアの罠だ!」だな。
なにせここまで連れてきたのも、知らぬ間に酒まで掴ませていたのも、全部フェリシアなのだ。
「自分で剣を取る意思も無く戦場に出てきたか! 肥え太った無能な貴族共を一掃しろ!」
「ごすじんカッコイイーッス!」
「ありがとよ、ミュリエル攻撃に魔法は使わなくていい。危なそうな味方に援護だ。パトリスはミュリエルの周囲を警戒してくれ」
「はい!」
「任せてください!」
神竜の宝物庫から持出した剣を抜き放っているミュリエルだが、その攻撃方法は当然魔法によるものだ。
でもここまで圧倒している状況なら、味方の損害を防ぐのに使った方が良い。
やや緊張が見えるパトリスだが、ろくに訓練もしていない徴用兵よりはずっと強いので防御に専念すれば、とっさの事態は防いでくれるだろう。
平民の刃にかかって次々に討ち取られる貴族、鎧を身につける暇もなかったのか、中途半端な武装で矢を受けて倒れる騎士。
火に巻かれて焼かれる者や、投降してきた部下に首を持参された者。
ミノー王国の中枢を為す支配層が下剋上によって滅びていく。
この作戦の目的は勝利じゃない。
それだけならフェリシアが、あそこまで危険を冒す必要はないからな。
その目的は、旧支配層の殲滅である。
囲み、逃さず皆殺しにするのだ。
「パラディール卿お覚悟を!」
「ジロー・カステル! 騎士にあるまじき――⁉」
聞き覚えのある声と名前に視線を向けると、勢いをつけて他者を引き離した2人の騎士がぶつかる直前だった。
乗騎を駆けさせ構えた槍をパラディールが振るう――のを止め、すれ違うジローのさらに背後に向けて突き出す。
前に見えたジローは幻覚だ。
長く会って無かっただろうにそれを見抜いて、背景の幻覚の後ろに隠れた本体を攻撃したのはさすがに名のある騎士だが――。
「剣を、透明に……卑怯な……」
「勝たねばならぬのですパラディール卿、その上で私は私の正義を成しましょう」
前方に自分の幻覚を立て、さらに背景を映した幻覚の後ろにいる自分の体はあえてそのままで、武器のみを透明にしたか。
背景の幻覚を越えてジローの本体を目にしたパラディールには、とっさに透明な剣までも意識するのは不可能だったんだろう。
そこまで万全を期しておきながら、ジローが大きく息をつき動きを止めている。
敵は大混乱だし腕の立つ騎士を討ち取った騎士に、あえて向かっていく奴もいないだろうが、まあ……。
「ジローと合流する。貴族の陣営から離れていた者もいるかもしれない、気を抜くなよ!」
「はいは~い!」
既に8割方は討っているだろう、作戦は成功――。
「大将! 『旋風の九狼』だ! 北に抜けられるぞ!」
「あいつらか! 残った貴族の合流を許すな!」
重装とはいえ連中は騎兵だ、追いつけるかは怪しい。
後一歩で完遂のところをあの野郎!
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