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最強の娘と虚名を得た俺は、乱世から逃れられないので終わらせる!  作者: 楼手印
4章 軍師いわく「乱世エンジョイ勢が発生しました」
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021話 追撃! 4度目は……

 反乱軍に対し勝利に続く勝利を収め、王都の軍は連日沸き立っていた。

 重要拠点であるドドローム砦があっさりと陥落し、王都へと反乱軍が迫る――その緊張感から王都を出た物の、今は逆にそのドドローム砦の目前にまで迫っているのだ。

 反乱軍も神竜殺しも何するものぞ! ……と意気上がるのも無理はない。


「いかんな……これは、勝ちすぎてのぼせ上がっておる」


 王都軍の一画として参戦しているブロス伯爵は陣営を歩きながら、そこかしこから聞こえる笑い声に顔をしかめる。

 

「閣下は戦場に出た経験は無いとお聞きしていましたが」

「戦場でなくとも勝負の場はあるということだ」


  やや後ろを歩く傭兵団の長、グレアムが意外そうな顔をしているのが伯爵には振り向かずとも分かった。

 でっぷりと太った体に金糸や宝石で飾った服装、絵に描いたような悪徳貴族であり、本人もそれは自覚している。

 だが、その財産を築くためにはそれなりに知恵を絞ってきたのだ。


「相場が読めぬ時は細心の注意を払って勝負に臨む物だ。様子見で済ませられるならそれに越したことはないが、今回のようにそうもいかん場合もあるしな。しかし暴騰に次ぐ暴騰で稼ぎ時だと投資するような奴は、長続きせんよ」

「……だから確実性を期して自ら相場を操るのだと? 我が『旋風の九狼』は悪には加担しないと契約時にお伝えしておりますが」

「君と契約してからは何もしとらんよ、するような暇も無かった」


 神竜殺しの娘を誘拐し、相場を操っての荒稼ぎを目論んでからは、もう3年ほどが経つ。

 その後は失敗の穴埋めに奔走し、フェリシア王女と神竜殺しの婚約が成立しシャルル公子とフェリシア王女のそれが破談、宮廷の権勢争いの変化に対応していると国王崩御に英雄王太子の死、そして反乱である。

 本当に悪事など企んでいる余裕は無かった。


「しかし、戦場の事などは本当に何も知らん。専門家の君から見てどうかね? 今の状況は」

「所属旗と本陣を踏み荒らす程の快勝というのは、そうはありません。そもそも農民の反乱であれば、旗や本陣など持たないというのもありますが……」

「仮にも王女を担ぎ上げての軍だ、形式を取り繕ったのだろう。であればその旗を打ち捨てて逃げるというのは、余程の危機を感じての事ではないか? 兵が逃げ出さずに、まだ向こうに集っているというのはやはりフェリシア様の名によるものか」


 それに前回は騎士パラディールがフェリシア王女の馬車にまで迫ったという。

 腕のある護衛と親衛隊に阻まれて帰還したらしいが、王都軍が反乱軍を圧倒しているのは間違いないだろう。

 

「圧倒している、それは良いのだ。だが三度も圧倒していて、勝ちきれていないのだぞ? 次こそ慎重になるべきだろうに」 

「同感です、それにこの地形は――」


 王都から南へ広がる平野で戦っていた前回までと違い、相手の拠点であるドドローム砦の目前まで迫った事により、戦場は山地へと場所を変えている。

 グレアムが視線を向ける東西は、既に山がせり出して視界を狭めている。

 南北であれば彼の率いる重装騎兵隊は十全に戦えるが、仮に傾斜地での戦闘となると厳しい物がある。


「閣下、失礼ながら上層部に意見具申を――」

「貴族様方は心配なさっておられる!」


 横からの大声にグレアムが言葉を切る。

 どこから持出したのか、この食糧難の軍にあって酒を飲んでいる様子の兵士はおそらく徴用兵だろう。

 平民が貴族に声をかける事はまず無い。

 その男も一緒にいる連中に話しかける振りをしながら、こちらにわざと聞かせているようだ。


「こうして貴重な酒まで置いて逃げる連中だ、何が出来るってんだ? なあ」

「おうよ、神竜殺しとかいうのも出てこねぇ。王女様のスカートの中に隠れっぱなしだってな?」


 ゲラゲラと下品な笑い声をあげる酔っぱらい共に顔をしかめる。

 これが戦場でなければ無礼討ちにしても良いところだが、自分達の周りにいるのは数千人の徴用兵だ。

 それは本質的に反乱軍の参加者と同様の人間達である。

 この場で叩き斬り、その後に報復を受ける可能性がゼロではない。


「行くぞグレアム、この様な者共を相手にしている暇はない」

「……はっ」


 不快さから押し黙り、歩調を早めるが酔っぱらい共の不快な会話は大声。

 無視しようとしても、それは聞こえてくる。


「――だからよう、アレもしばらく聞いてねぇなって」

「アレ?」

「アレだよアレ……そうか、お前はずっと王都にいたんだったか? 俺は反乱軍との最初の交戦にも参戦してたんだよ」

「俺もだ、何回か参戦した連中と話すとアレを聞いたって話になるんだよ」


 不快だが、少しは気になるのか伯爵の足がやや遅くなる。

 自分が未経験の戦場についての話なのだ、この歳になっての初陣の者が耳を向けたとしても恥ずかしいことではない。

 そう自分に言い聞かせながら、後ろのグレアムが黙って歩調を合わせてくれるのに満足する。


「反乱軍が一気に攻める時にな、決まって同じ合図を使うんだよ」

「そうそう、なんつうか――金属製の楽器を思いっきり叩いたみたいな音が3回鳴るんだよ、その後はもう笑えるくらい蹴散らされて……」

「金属って――今、聞こえてるアレか?」


 反乱軍から奪った物を景気付けに配ったのだろう、酒の入っている者は少なくはない。

 その酔っぱらい達の喧騒が徐々に小さくなっていく。

 逆に大きく聞こえてくるのは――東西の山から立て続けに三度打ち鳴らされる、金属音だった。

ブクマ、評価、感想、誤字訂正等いつもありがとうございます!


ちょっと遅くなることが多くなってて申し訳ないです

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俺とポンコツ幼馴染と冒険とパンツ
― 新着の感想 ―
[一言] 9人だから九狼? なろうナイズの傭兵団とかギルド名の謎定期
[一言] ジャーンジャーンジャーン げえっ、反乱軍!
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