015話 次回の作戦内容!
「フェリシアがもう出発した?」
出陣前に会っておこうと思ったんだが、一足遅れたか。
でもこっちに伝えられてた予定だと、間に合うはずだったんだけどな?
出陣してしまうとさすがに中々会えないし、軍議で会えたにしろその後に時間をとって……なんて事もちょっと難しい。
なんせ町から来ている皆は、家族と別れての出陣だしなあ。
俺だけがフェリシアと会ってるってのは、やっぱり印象が良くないだろう。
なんで、出来れば出陣前にと思ってたんだが。
「仕方ないね、今度の作戦はフェリシアが中心なんでしょ? 早く出たりする事もあるんじゃないの」
「そうッスね。やっぱり王女様は敵にも味方にも人気だから、囮役にぴったりッス」
「まあ囮といえば囮なんだが……」
もうちょっと言い方があるような気がしないでもないぞ?
次の戦場はドドローム関所と山地を抜けた先、開けた平野部の予定だ。
ここを街道沿いに進み王都を目指す訳だが、当然敵は本拠地である王都に俺たちを寄せ付ける訳にはいかない。
絶対に迎撃に出てくるので、この街道での決戦という事になる。
兵は詭道なり! とか言って街道を外れて奇襲という提案が初期に無いわけでもなかったが、わりとあっさり却下されている。
ぶっちゃけて言うと、道に迷うのが怖かったのだ。
なんせ俺たち、素人の集団だからなあ……。
プロの軍人や軍隊でも道に迷う事はわりとあるらしいので、変わった事はしない方が良いという結論になった訳である。
「でもフェリシアの部隊が前に出て、負けるんでしょ? 戦わずに後ろにいるお父様の部隊も一緒に敗走してたら変に思われない?」
「良い質問だと思うけど、フェリシアの部隊はとにかく数が多いからな。それが敗走するとなったら、後ろにいる部隊にとっては敵の突撃と変わらないよミュリエル」
むしろ攻撃出来る分だけ、敵の突撃の方がマシという意見まである。
総崩れの前衛が敗走してきたら、少数の俺たちは一緒に退く以外の手段は無いのだ。
それが例え偽りの敗走でも――というか、フェリシアが率いている黄頭巾の構成員を考えれば、偽りが本物になる可能性だってあるしな。
――作戦会議でのやりとりはこうだ。
「次の戦では、フェリシア王女の部隊に前衛を務めてもらうのじゃ」
「あら、よろしいのですか? 先鋒は武人の誉れなどとも言いますけれど」
「フェリシアはああ言ってるけど、武人としてはどうなんだ?」
「先鋒を命じられれば確かに名誉に感じるが、それよりも王女を前に立てて自分が後ろにいるという事を不名誉を感じるな」
ごもっともである、俺も武人じゃないが妻が矢面ってのはちょっとな。
「そこは飲み込んで頂きたいですね。お二人の部隊は先の戦闘での損害から、今回は後ろに回されているという事にしましたので。フェリシア様には私が付き添いますよ」
「うむ、妾はドドロームに残って後方支援に腕を振るわねばならんからの。現場はテオドール顧問にお任せするのじゃ」
「せっかくの先鋒ですのに、お目付け役ですか?」
前回は陽動とはいえ戦場から離れ、自分の部隊だけが戦わなかったからな。
今回は意気込みが違ったんだろう、不満げな表情をフェリシアが見せている。
「先鋒ではありますが……最も重要な点として、勝って貰っては困るのですよ」
「勝っては困る……? ユーマ様のように、想定外な勝利も含めてという事でしょうか?」
「えぇ、先日の勝利については良くぞ、という以外にありません。ですが予定にない行動を取られては、今度の作戦目標を達成するのが難しくなりますので」
最初から俺への採点が甘いところのあったフェリシアはともかく、辛口の顧問も前回の指示を無視した俺の行動についてはベタ褒めなんだよな。
命令違反も功績を上げれば黙認される、戦場の不文律がどうのこうの……とかフランツ団長も言ってたが……。
なんかそういうのとは違って、俺が手柄を取りに行ったという行動自体がお気に召したらしい。
「次の戦では多数の貴族が参戦すると思われるのじゃ。後々の統治を考えれば、現在力を持っておる旧勢力にはここで退場願いたいと思っての」
「ですのでフェリシア様には前衛に立ち、3度負けて頂きたく思います。武人ではなくとも、負けろと言われれば不服ではありましょうが――」
舞台に上がり、全力で踊る事を目的とするフェリシア。
それを皆には具体的には伝えていないんで、そういう反応を予想したんだろう。
全力で勝ち、全力で負け、そのどちらも楽しむのだ――なんて言うフェリシア向きの作戦と役割だと思う。
その証拠に――。
「いいえ、勝利に必要な敗北であるというならば……わたくしもユーマ様の勝利に劣らぬ敗北をお見せしましょう」
これが実質初陣となる王女様は、めちゃくちゃ笑顔で言い切ってくれた。
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