014話 その頃、どこぞの野盗達
ミノー王国北西部。
国内最大である穀倉地帯があり、都市ニーネを中心としたトゥアール公爵家が治める地でもある。
だが現在は、その豊富な食料を狙ってか黄色い頭巾を巻いた者達による反乱と略奪が横行し、公爵家と王国の勢力に陰りが見えている事を証明しているような状態となっていた。
「――とまあ、そんな感じで噂を撒いてますんで、後は放っておいても参加者は寄ってくると思いますよ」
「一緒に略奪すれば飯が食える? 命の値下がりも歯止めがかからんねぇ」
軽い口調で言うが、歯止めどころか煽り立てて拍車をかけているのは発言した当の大男だ。
状況を説明していた細身の男と同様に、黒い毛皮を頭から被った異様な風体だが、元々が大柄で野性味のある雰囲気を持っているせいか、妙に似合っている。
「秋も深まってきたっていうのに、防寒具の支給すらしてませんからね。この毛皮を羨ましがる奴までいるそうですよ」
「そりゃいかんな、コイツは王女様からの大切な賜り物だ。それなりの活躍ってもんが無いと被れないと宣伝しといてくれ」
「正確には国王陛下ですけどね、我々に前科者だと分かるようにしろと条件を付けて毛皮を用意したのは」
犯罪者にも社会復帰の場を、とのフェリシア王女の請願を受けて崩御した国王が設立を許可した前科者のみで構成された集団。
それが彼ら、黒毛皮を被る者達の由来である。
その数は500に満たないが、社会復帰が難しい重罪人を中心にしており荒事を得意としている者が多い。
「しかし活躍? 例えば300人も兵を引き連れ、女子供に年寄りも含めてほぼ同数の村に攻め寄せて蹴散らされるとかですかね」
「ちょっと違うな、女の子1人に皆仲良くふっ飛ばされた思い出を忘れたか?」
「覚えてちゃ俺たちの上司に迷惑でしょう。代わりに処刑された替え玉にも、死後の月で合わせる顔がない」
数年前に断頭台にかけられそうになった彼らに持ちかけられた取引、その結果が現在なのだが……。
「しかし、やる事がこうまで変わらないとは思いもしませんでしたがね」
「何を言ってる。あの親のスネの骨を囓るしか能が無いのから、うら若き王女様に雇い主が変わったんだぞ。やる気が変わらんのか?」
「あいにくと直属の上司が、変わらず熊じみた大男でして」
肩をすくめる細身の男だが、上司と言う割に大男への態度は気安い。
大男の方にもそれを気にした様子はなく、2人の付き合いが深い事は居合わせた者には見て取れるだろう。
だが、今この場に居合わせた者は、それどころではなかったらしい。
「頭ぁ! なんかすげぇ将軍がこっちに来るって話があるのに、何で逃げねぇんだ⁉」
黒毛皮の一党と彼らに煽られて黄頭巾を被った者達は、ニーネ周辺で略奪行為を繰り返している。
その過程で町や戦った相手などから下っ端が余計な情報を得てしまう事も、ままあるのだ。
「この穀倉地帯を離れて、どこで食料を得るつもりで?」
「死んじまったら飯も食えねぇだろ!」
「道理だな、だがまあ俺らには俺らなりの考えってモノがあるんだよ」
国内最強と噂される将軍と、彼が率いる精鋭部隊。
それがこのニーネ周辺を荒らす彼らの討伐にやってくる、軽い気持ちで参加していた反乱者達に不安を呼び起こすには十分な噂である。
「考えって……すげぇ将軍に勝てるような、何が――」
「あん? そうだな……出した小便が直後にねじれて飛んでいくだろう。その理由を知ってるか?」
「しょ、小便……?」
唐突にまるで関係のない話を振られて戸惑う男だが、そうでなくてもそんな問には答えられなかっただろう。
しかし問われた内容が身近なものであった事から、中身の軽い頭を珍しく回転させ……それでも、答えは出ずに押し黙る。
「分からんか? 自分の体の事も分からん奴に、俺たちの考えが理解できるとは思えんな。答えが出たらまた来い、人に尋ねてもかまわんぞ」
「クソッ……分かったら教えてくれるんだな⁉」
立ち去る男に不敵な笑みで返し、見送る大男に細身の男が尋ねる。
「ちょっと雑では?」
「いや昔から気になっててな、ここで知れたらと。それに丁寧なのはお前が将軍相手にやるからそれで十分だ」
「また勝手な事を……」
かつてと同じ様に、率いるのは有象無象の雑兵達。
出した命令ですらロクに届かない手持ちの札で、最強の将軍に挑めという。
それでも細身の男は嘆息するだけで、逃げるつもりは無いらしい。
「取引とはいえ、恩は恩だ。義理は果さんとな」
「まったく……時間稼ぎだけですよ? 蹴散らされても良い兵が大量にいるのが不幸中の幸いでしたがね」
「さすが穀倉地帯だけあって、兵も大量に生えてくるって訳だ」
格安になった命を手駒に、国内最強の将軍に挑む。
義理とは言いつつも、そんな危険な行為に挑戦する理由。
それは彼らの表情に現れている。
――結局、彼らは楽しいからやっているのだ。
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