013話 聖女様の能力!
反乱軍の幹部会議を終え思案顔で、あるいは当たり障りの無い会話をしながら、各々があてがわれた部屋へと戻っていく。
フェリシアとの時間を作りたいところなんだが、俺も今得た情報を早いとこ整理してやるべき事をやっとかないと……。
とりあえずは俺の部隊に配属されてる自警団と傭兵団の長2人、ガエルとフランツとのミーティング。
時間が余ったら、ミュリエルと一緒にゴーレム製造……かな?
次の相手次第だけど、作戦内容も固まってて俺が余計な事をする余地はほぼ無いしなあ。
そんな事を考えながら、生活にあてがわれた部屋とは別の、部隊指揮官用の執務室に入る。
部屋の主は俺なのでノックとかはしないんだが、中からの話し声は聞こえてたんで、開けながら若干失敗したなと思った。
考え事してたから女の話し声がすると思っても気にしなかったんだが、俺の執務室なのでミュリエルがいるのは不思議でもない。
着替え中とかだったら気まずいし、今度からは気をつけよう。
「――体のサイズ、あるいは生態が大きく違う場合、産まれる子供は母体側に大きく偏る事になる。でも問題は無い、神様的に」
「それだと妖せ……お、お父様⁉ あの、リゼットが来てます……」
「あぁなんか話し中だったか、次からはノックするよ」
耳から入ってはいたが、そのまま言葉ではなく音として通り抜けていった話の内容だが、ミュリエルとしては聞かれたく無い話だったのか?
まあ若い女の子2人の会話だしな。
「……異種族同士でも気にせず愛し合え――とまでは言ってないけど、神殿的には禁止してないので、汝の為したいように為すが良い」
「何の話だ、なんの」
「リゼット! 外から押し付けちゃダメだよ!」
俺が入ってくる前の話の流れみたいだが、そんな事言われるまでもない。
異種族恋愛を否定してたら、俺は生まれてないからな。
ハーフエルフの俺から見れば、レティ以外は全員異種族だしなあ。
なんというか、当たり前過ぎて反応もしずらい。
「……まあそれはそれとして、今日はお使いで来てる」
「珍しいな、大神殿から何か言ってきたのか?」
ちょっと身構えないでもない。
太陽神――と、おまけの月の女神――を奉ずる神殿は、どこの国でも大きな権威を持った勢力だ。
この反乱についてはドワーフと同じく不干渉を貫いてたんだが、口を挟んできたとなると厄介な事になるかもしれない。
俺たち反乱軍の支持基盤は下層階級の民衆だが、それは神殿勢力にも当てはまる。
機嫌を損ねて王宮側に付く! とか言い出されたら一気に劣勢に立たされかねないからな。
「未だにウダウダ言ってくるけど、あの連中はスルーで。私はフリー、聖女なので」
「大神殿に拾われて育てられたとか聞いたのに、とんでもねぇ聖女様だな」
孤児や貧民の救済は色んな組織や個人がやってるが、育てた相手からあの連中呼ばわりされるとは……。
「聖女なのとは別に、ちょっと特別な才能があったんでこき使われてた。養育費分は100倍以上にして返してる」
「そりゃ大変だったな、怠け者なのはその反動か?」
「……じゃあそれで。反動、悪くない言い訳」
自分で言い訳とか言いやがった。
振られた仕事は意外にちゃんとこなすんだが、真面目なのか不真面目なのか判断が難しいところだ。
やらなきゃいけない事を後に残すんではなく、先に片付けて空いた時間をダラダラ過ごすタイプというか……。
やる事はやってるので、町では口を出し辛い存在なんだよな。
「それじゃお使いってのは? 聖女様にそんな指図を大神殿以外のどこが――」
「神様。ミュリエルをもっとちゃんと使いなさい、大事にしまっておくだけなら迎えをよこすぞ――だ、そう」
神様……? 前にも言ってた神託ってやつか?
いや、それよりも内容だ。
何で神様がミュリエルの事に口出しを?
ミュリエル本人も予想外だったのか、困惑した表情を浮かべてるしな。
母さんによると勇者と呼ばれる転移者を、この世界に呼んでいるのは月の女神だって事だ。
ミュリエルがいたのは帝国時代に勇者が作った遺跡の中。
かつて、ミュリエルがお父様と呼んでいた誰かもまた勇者だったらしい。
なら……そいつや帝国との関連か。
「俺は神様と何かやりとりを交わした覚えは無いんで、何のことかさっぱりだな……なにより、使え? 人の娘を道具扱いしてるのが気に入らない」
「従わない?」
「自分の能力をどう使うかはミュリエル本人が決める事だ……が、危険な事からは出来るだけ遠ざけたいな。聖女様は実力行使に出たりするのか?」
武器や生身で戦うならリゼット相手に負ける気はしない。
でも聖女か、一瞬で精神を支配するような魔法とか使われたらどうしようもないな。
治療系の魔法を使える事は知ってるが、他にどんな魔法の素質を隠し持ってるか分からない。
左手でミュリエルを下がらせながら、庇う位置取りを試みる。
そんな緊張感を漂わせるこちらに対し、聖女様は――。
「……めんどくさい。メッセンジャーは伝えるのが役目、それ以上の仕事なんてしない」
「良いのか? 逆らう俺が言うのもなんだが、神様なんだろ?」
「ユーマ・ショートは気に入られてる、混乱を起こすから。多少逆らってもたぶん問題は無いし、その意思に干渉するのは逆にご機嫌を損ねる……とかそんなので」
雑ぅ⁉
いや面倒な事にならないのは助かるけど!
つうか混乱を起こすからってなんだよ、俺は一生懸命やってるだけなのに!
あぁ……でも、気に入られてる? ならリゼットと揉めてもハンデ戦になったりするか?
そんな俺の考えを読んだかのように、リゼットが「ふっ……」と小者を見る様に息をついて両手を上げる。
「聖女と呼ばれるのは神の使いをさせられるから。お使いをしてる間は、多少の加護を得られる。2人相手くらいは余裕」
「加護? というか――やっぱり魔法か何かか!」
「リゼット⁉ お父様を傷つけないで!」
ヤバいのは精神操作系――!
相手を視界に収めていないと、少しは抵抗の助けになるかとミュリエルを自分の体で隠す。
やる気はなさそうだったが、万が一に備えて精神を昂ぶらせて――!
「聖女の力を思い知れー」
とんでもなくやる気の無い声とともに、リゼットの体から衝撃波の様な物が飛んできた。
弾き飛ばされて平衡感覚を失う、その前に背後にいたミュリエルにぶつかった⁉
背中を打つ衝撃に息をつまらせ、続いて仰向きに倒れた体の上に何かが倒れて……!
「グッ! ……ん、見えない? なんだ?」
「お、お父様⁉ 待って……!」
倒れた顔を起こすと少し暗い視界に、見える物。
両側に肌色、真ん中は白い布にピンク色の装飾がされたソレ。
肌色……というか、肌との間に出来た隙間が、ふとももをよじらせる度に動いて中が至近距離で見えそうに……。
「何するんだ……というか、何だこれリゼット!」
「さあ? 混乱が大好きな神様の加護だから、なんか混乱が起きる能力。何が起こるかは使ってみてのお楽しみ」
ろくでもない加護だな⁉
でも躊躇なく使ってきたという事は、相手が傷ついたりはしない確証があるんだろう。
行動を封じられるとなると厄介な能力だが。
「効果時間は?」
「1分くらい、でも連続使用も可能。私以外の神の使いにあったら抵抗しないのをオススメする」
「いるのか、他にも」
「知らない、でもいたって不思議じゃない」
たしかにな。
わざわざ能力を見せてくれたのは、それを踏まえての忠告か。
というか、これアレだな? 転移者の能力に近い物なんじゃないか?
なら何でもありって訳じゃなく、何らかの法則とか縛りが――混乱、か。
効果時間は1分、最初の使用からまだせいぜい20秒!
「ふんっぬ!」
「……っ⁉」
俺が反撃するとは思ってなかったのか、片手で顔を守りつつ下がろうとするリゼット。
だが俺の狙いは足下……でもなく、なんかそのへんに適当に、持ってた紙の束をぶん投げる。
「なに……きゃっ⁉」
「お父様、リゼット⁉ 何して……⁉」
思ったよりも可愛い悲鳴を上げたリゼットが、紙に足を取られてすっ転ぶ。
しかも倒れないようにと突き出した手が壁を突き、バランスを崩したままこちらへ……。
「なるほど、混乱だ」
「……次からは私も気をつける。とりあえず手を……やっぱり、動かさないで」
紙の束を投げて伸ばした手の上に、柔らかい感触がある。
膝下までのスカートを派手にめくれさせて足を開いたそこに見えるのは、目の前にあるミュリエルのと同じ形で色違いな布。
ピンク色の生地に黒い色の装飾という、聖女様のイメージとは違う意外な色合いの下着だ。
ぶっちゃけていうと、スカートの中に突っ込んだ俺の手のひらにリゼットのお尻が乗っている。
これ1分間は、何かアクションを起こすごとにさらなる混乱が……?
「手……手はダメ。……少しずつ脱げてきてる」
「お、お父様……私のも……動いちゃダメ! お父様のズボンも脱げてきてるよ⁉」
「いや待て待て、何もアクションしてなくても進行してないか⁉」
残り時間は半分ほど。
終わった後は……羞恥に染まったリゼットという珍しい物が見れたが、ミュリエルに怒られたのでVS聖女戦はどちらかというと、俺の敗北と言って良いだろう……。
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