008話 ぼくのかんがえた かしこいさくせん
「気をつけろよ、一列になって――」
「一列も作れねぇよ! 半列分だろこの足場⁉」
自警団の総数は5百人、山道に連れてこれたのはその中でも古参の百人だ。
他よりも長く訓練を積んでいる事と、出来るだけ多く本来の役目に残す必要があった事。
それに俺が面倒を見られる限界を考えて……わりとオーバーしている数だけど。
人数と戦力のバランスに関して言えばミュリエルを連れてくれば本当に色々と助かったんだが、ミュリエルの存在を前提に本来の役目を与えられている以上、連れてはこれなかった。
本人は物凄く不満な顔見せてたけど、こればっかりは仕方ない。
そしてミアはどうしても必要なので、タロにはミュリエルの護衛に残ってもらった。
俺とミュリエル、ミアだけなら出発した翌日にでも砦に潜入出来るんだが、制圧となると人数が必要になる。
今回必要なのは強力な個人ではなく、まとまった数の力なのだ。
それでもフランツ団長には滅茶苦茶渋られたし、確かに俺を止めたと書面にまで残してきたんだけどな。
「おいユーマ……どう見ても行き止まりなんだが……」
「この石を登る、俺が行ってロープを渡すから皆はそれを使って登ってくれ」
「石ってか岩壁じゃねぇか⁉ 町の石切場でもこんなデカいの切り出してねぇぞ!」
残してきた団長のガエルを除く、俺が村に来た当時に立ち上げた初期メンバー3人に加え、この百人は古参でそれなりに長い付き合いなんで、物言いに遠慮が無い。
最近はユーマ様ユーマ様と呼ばれ続けてたんで、久しぶりになんか楽しくなって来るな!
「水……水残ってる奴いないか……? 水袋が破れちまって……」
「元々が3日分だからな……もう戻る分も残ってないぞ」
もっとも皆は慣れない山歩きに疲労困憊らしい。
皆に言わせれば「俺の知ってる山歩きと違う!」だそうだが。
それでも俺についてこれるのは、厳しい頃の村の生活を耐え抜いたメンバーだからだろうな。
疲労もそうだが、何より水と食料と燃料の少なさについて節約と忍耐が染み付いてる。
まあ、さすがに俺もこんなハードな登山をいつもしていた訳じゃない。
それでも身体能力に優れた獣人族が進軍ルートとして考慮しない、セツザー山脈の山奥だけで生活してたのは伊達ではないのだ。
父さんは「お前ならシェルパになれる気がするな」と言ってたが、正直意味は分からない。
――そんなこんなで。
「ほら、どうにか来れただろ?」
「死者が出なかったのが不思議で仕方ねぇよ……」
「いや、来れたって言っても……どうすんのよ、コレ?」
自警団初期メンバーのジルが指差すのは、砦の背後にそびえる崖。
俺が町と王都を行き来する時にも、何度か見上げた事がある。
これがあるから背後は万全、鉄壁と言われてるらしいんだが……そう言われてから改めて見ても、俺の頭にはずっと疑問符が浮かんでいた。
「皆毛布は持ってるよな?」
「そりゃな、この行軍中にこれが無かったら死んでるだろ」
標高自体はそんなでもないが、季節と風が悪かったしな。
そんな中で活躍するアイテム、自警団の毛布。
戦闘が考えられる状況で、屋外で包まれて眠るという使用目的から、とにかく分厚く頑丈に作られている。
ちなみに牛の毛を使っていてゴワゴワしてるので、使用感は良くない。
「……これをこう」
「ほう?」
自分の毛布を取り出し、体に巻く。
「そしてこう」
「……」
毛布をしっかりと巻きつけて、地面に倒れる仕草の後に手を出し、崖を指差してグルグルと回転させ、転がる様子を表現する。
崖の上に、百人分の沈黙が降りた。
「何言ってんだお前……俺達はてっきり魔法か何かでどうにかするもんだと……」
「そっちこそ何言ってんだ。ミアはここからゆっくり降りる魔法を使えるけど、1人ずつになるし体力と時間がかかりすぎるだろ」
「魔石があってもどうかな~って人数だよね、1日時間をくれれば出来ると思うけど」
そんな事をするくらいなら、ロープを下ろして降りた方がマシだろう。
でもそれも時間がかかり過ぎる、さすがにそんな訓練してないしな。
この襲撃は奇襲なんだ、味方の数が少ないし何よりも速さが命。
「いやいやいや……死ぬだろ⁉ 見ろよ! この高さだぞ⁉」
「真上から見てるから余計に傾斜がキツく見えてるけど、絶壁ってほどじゃない。角度にして……50~60度ってとこじゃないか?」
滑落すれば十分に死ねるだろうけど。
「よく見ろ、大きな岩の類はほとんど無くて大部分はむき出しの土だ。それでも普通に滑落すれば、跳ねたり妙な回転で体中の骨を折って死ぬだろう。でも毛布を体に巻いてれば石で体を切る心配はないし、最初から寝て回転方向を決めればそのまま下まで行けると思うんだよ」
「着地の衝撃は……?」
「耐える。俺が最初に行って、その後は魔石を使って柔らかい土を盛るから皆はそれでマシになるはずだ」
「ん~……? ユーマだけならミアが運べるけどね?」
これから実行する内容を全て発表した訳だが、その反応は相変わらずの沈黙だ。
俺の正気を疑ってる目だなあ。
まあ仕方ない、正直に言えば俺だってやりたくはない。
でも、だ。
「ゴーチェ、この砦の本来の攻略方法って知ってるか?」
「いや、俺は詳しくは覚えてない。ジルとギーはどうだ?」
「力攻めって聞いてるな」
「破城槌で門を攻撃しつつ、ユーマが土砂で城壁へ足場を作ってなだれ込む……だったと思うんだが」
ギーが正解だな。
事前の戦闘で砦の戦力を減らしておき、その後に砦を攻略する。
破城槌で門を壊せるのが先か、城壁を越えてその先の守備兵を突破出来るのが先か。
どちらにせよ、相手の兵士や防衛設備との正面からのぶつかり合いだ。
敵を全滅させる必要は無く、将軍なら劣勢がはっきりすれば砦を放棄して撤退するだろうと目されている。
「相手はこの砦に駐屯する正規兵と、数は減ってもユベール将軍の精鋭だ。その力攻めで徴用兵の半分は戦闘不能になる予定になってる」
「半分……? そんなにか、その後の戦闘はどうするんだ?」
「フェリシアの元には次々に黄頭巾の連中が集まる、練度で言えば徴用兵とは大差ないよ」
この出征で用意されている兵糧はおよそ3ヶ月分だ。
それはこの戦闘で減る人数も計算に入れられている。
……正直言って気に入らない。
ジロー達がいるであろう方角を指差し、この数年を共にした仲間達にそれを打ち明ける。
「向こうで戦ってる徴用兵は町への定住権で釣った人達だ。反乱を起こしてからもう1年以上、その間に開拓や訓練に従事してきたのは知ってるだろう?」
もちろんここにいる百人の様に、一人一人の顔と名前が一致するような関係じゃない。
それでも。
「彼らはもう難民じゃない、アオの町の住民だ。俺はその犠牲を可能な限り減らしたい」
崖から見下ろした砦は、背後に意識を向けている様子がまるでない。
南側、この予定日に合わせて前進を頼んだガエルやフランツら自警団と傭兵には警戒を向けてる様子があるが、それもまだ警戒程度だ。
南側の部隊だけで砦の攻略が出来ない事は、分かりきってるからな。
完全に油断している、これ以上のチャンスが今後あるとは思えない。
「この発案は俺が父親から聞いた話が元になってる。その戦記に登場する将軍は絨毯に包まって谷を越え、少数の奇襲で一国を滅ぼしたそうだ。なら――俺達にも砦くらいは落とせると思わないか?」
「しかし……」
ここで口論していても、中々決着がつかないだろうってのは予想済みだ。
だから、俺のやることはひとつ。
「計画は今言った事と、砦の城門に突入して開け、外の味方を呼び込むこと。それだけだ、理解したよな?」
「あ、あぁ……それだけなら。城門までの道もここから見え――」
「じゃ、ついて来てくれ」
言い残し――崖へと転がった。
「ちょっ……ユーマ⁉ ミアが運べるって言ったのに⁉」
「おい⁉」
おぉぉぉ追いかけて来てくれよぉぉぉぉっ⁉
毛布に包まれて外は見えにくいが、凄い速さで転がってる――というか、落ちてる!
跳ねてる! めっちゃ跳ね……ゴフッ⁉
腹打った……減速……どうにか減……?
直後に、体が平らな何かに叩きつけられた。
内側からバキバキと立て続けに何かが折れる音を聞いて――。
俺の意識は途切れた。
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失敗した!第4章、完!
今後のミュリエルの活躍にご期待ください




