033話 ごらんのありさまだよ!
「開拓地の警護に付けたゴーレムが襲撃を受けました!」
「場所は? 運河の西側か……向こう岸にも自警団の詰め所を――いや、いっそ町の規模で設備を整えるか?」
「カヤン、トヨーカ、ゲインから、町の防衛を委託したいと要請が……」
「それぞれの町にアイアンゴーレムが1体とストーンゴーレムが5体、それが限界だと伝えてくれ。指導できる人材についてはもう1人も残ってないが……自警団の見習いにゴーレムに詳しいのがいたはずだ」
アオの町に戻ってこれからに備えた俺たちだが、予想以上に状況は厳しい。
野盗と化した討伐軍の残党は周辺各地を襲い、物流と連絡を寸断し始めている。
オマケに実質滅亡したバキラ王国からやってきていた難民は数万人規模、この状況でただでさえ少ない支援が滞り、野盗の供給源には困らないときたもんだ。
そして最も深刻なのが……。
「森からの採集量が落ちています。狩猟の結果も悪く、湖で養殖している魚を分配出来ないかと陳情が……」
「ジリ貧なのじゃあぁぁ……次の豆類の収穫まで保たぬ、このままでは家畜に手を付けねばならなくなるのじゃ……」
近く――と言っても10km先の森からの狩猟採集も、急増した人口を支えるために毎日行ってれば当然底をつく、それは今後数年に渡って影響するだろう。
先を見越して養殖していた魚や家畜も同様、しかし手を付けなければ今餓えてしまう。
ギリギリでどうにか耐えていたバランスを、一極集中する事によって破壊されたミノー王国。
ひとつの地域で餓死者が出始めればその町の生産、技術力は落ち始める。
原料や食料を周囲からの供給に頼っていた技術系の町は飢え、道具の供給を頼っていた周囲の町は生活に支障をきたして生産力を落とし、さらに飢えていく。
相互に補完しあっていた関係は破綻し、螺旋を描くようにあらゆる生産能力が落ちていく。
町同士の関係だけじゃない、地域同士でも同じ事が起こるだろう。
ミノーで最も商業が盛んな街センバー周辺も、穀倉地帯であるニーネからの食料供給が滞れば、商売どころではない。
では皆でニーネに! となったら、職を持たない難民となっての大移動である。
ニーネは国内最大の穀倉地帯だ。
現在有る農地は大きいが、これ以上開拓する余地には乏しく難民の労働力は無駄になる。
来年以降を考えれば、難民達自身にも開拓をさせないとこの状況が続く事は明白なので、この選択肢も無い。
そして王都からアオの町、マダーニにかけての中央部の破綻と生産力の低下は、他の地域にさらに重くのしかかっていく。
もうお先真っ暗過ぎて笑うしか無い。
「この状況を引き起こした2人組が、今も元気に王宮で暮らしてるってのはギャグみたいだな」
「よくあの状況から生き延びれた物ですね、そこだけは感心しなくもありません」
「死んでおれば2人分の食料が浮いたのじゃがの。王国が求心力を完全に失ったとはいえ、妾達も飢えて死ねば元も子もないの」
国中のヘイトを集めてくれたんで、俺ですら反乱については成功する物だと確信が持てている。
……ただし、この危機を乗り越えられたらだが。
野盗になられるよりはと、受け入れられる想定の人数を連れて帰ってるんだが、それ以外にも勝手に住み着いたりしてる連中もいるからなあ……。
「あのまま反乱を続け、王都の軍と難民をぶつけ合って消費すれば状況も改善できていましたが、そちらがよろしかったですか?」
「それをするなら、あの1万人ほどを捕虜にとって穴を掘らせ、そこに埋めてしまえば解決じゃったの」
「怖いこと言うなよ……」
さすがにその決断は俺には難しい。
その後どんな顔をしてミュリエルやソフィア師匠に会えば良いんだ。
それでも一応、顧問達にはここを乗り切れるという目算はあるらしい。
それを信じて無ければ、俺も家族を連れて南の国境を突破してるところだ。
この先の冬を越え、反乱を再び開始するまでは忙しくて町から動けそうも無い。
だって言うのに、今日はこの後ちょっと気が重い用事が待っている。
そう――王女様とのお話し合いなのだ。
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