024話 布陣! 敵も味方も難民だらけ
出陣! とは言っても、布陣するのは町のある台地を下りたすぐそこである。
理由は簡単、町の設備に被害が出ないし、防御設備を築くのが楽だったから。
そして何より、一戦当たって打撃を加えたら町へ退くつもりなのだ。
撃退! というのが目標ではあるが、最終的に撤退に追い込めればそれで勝ちとする。
布陣の設営をしながら、タロとミアにそんな念押しの説明を行っているんだが。
「ちょっと消極的だよね~」
「結局籠城するッスか」
「何せこっちの兵があれだもんなぁ……」
町の自警団や住民も参加してはいるが、その大部分は流民、難民だ。
2人にだけ聞こえる愚痴をこぼしながら、台地のすぐ下に群れている兵隊さん達に視線を移すと、皆さんは元気に歓声をあげている最中だった。
「――敗北をすれば、わたくしも生きてはおりません。月の女神の元であなた方を待ちましょう」
フェリシアによる演説中だったか。
政局に翻弄される憐れで健気な王女様――という仮面を被ったフェリシアは、その容姿も相まって兵を構成する男性諸君に非常に人気がある。
今も「俺たちが先に行って姫様を迎えるんだ!」とか「哀れな姫君のために!」とかいう声がここまで響いてくるからな。
「あんなので良いの? もっとこういう理由で戦うとか、その後どうするとかは?」
「あそこで男共を煽ってる子によると『難しいことを言っても、理解できませんから』だ、そうだ」
わたくしのために戦い、死んでください。
そうすれば食事と寝床と、勝った時の良い気分を与えましょう! という事である。
ヒドいアイドルだ。
でもウケてるんだから、美少女って得だな。
「あれを率いて正規軍と戦うッスか……訓練したけど、僕でも3人相手に楽勝だったッスよ?」
「まあ数がいないと話にならないからな、仕方ない」
こっちが難民達を兵として扱ってるという事は、向こうも同じ事をしてくるって事だ。
こちらへ向かっているユベール将軍も直率の兵団は定員が1000人だそうだが、それ以外の兵を行軍中に集めているって話だからな。
「でも初撃で損害を与えられれば、アオの町は堅牢だ。落ちる見込みの無くなった町に無理な攻めをする事は無いってさ」
「えらく断言するね?」
「顧問が昔から尊敬してる人だからな、研究は飽きるほどしたそうだ」
ユベール将軍の特徴は、とにかく堅実であること。
堅牢な砦や街を攻めて兵に損害を出す事は無く、包囲しての兵糧攻めを選ぶのは間違いないそうだ。
実際難民達を兵として受け入れたアオの町が外部からの食料供給を断たれれば、1年も保つことは無いって試算になってるしな。
「反乱の旗印である俺とフェリシアを町に封じ込めれば、他の小さい反乱をチマチマ潰してハイおしまい。向こうの目算はそんな感じだろうって事だ」
「それなのに、籠城前提なの?」
「そこは顧問と軍師と悪い王女様がなんとかするんだと。結果的に最強の将軍が率いる鎮圧部隊が、町から撤退したって事実が作れれば良いそうだ」
悪巧みが得意な3人、特に悪い王女様は既に手を打ってあるんだとか。
「何事も事前の準備が大切なのです」と歴戦の老将をハメようとしている子は、今涙を浮かべながら兵卒の皆さんを心配するお言葉を並べていた。
末恐ろしい王女様だ。
そのお言葉が喝采の中でようやく終わり、タイミングを計ったように町から金属の円盤を打ち鳴らす音が響いてくる。
以前の襲撃の時にも使われた銅製の円盤だが、縁起が良いって事で正式採用されて今も使われているのだ。
「合図ッス!」
「来たみたいだね~」
アオの町の標高は高い場所で300m。
地上のこちらから確認できるのはしばらく後になるだろう。
演説を聞いていた皆さんが慌てて持ち場へ駆け出し、それを煽っていた王女様が台地につけられた坂道を登って町へと戻っていく。
その途中で――こちらへ向かって小さく手を振ってる? 持ち場は決まってるとはいえよく見つけられたな。
俺としては不満顔でお留守番中のミュリエルや、それを宥めるレティからの応援の方がやる気が出るんだが。
――音の合図からすれば、敵の数はおよそ3000。
まあ悪い王女様の応援でも、少しは欲しくなる数字だな。
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