021話 帰還、群衆の歓呼!
「フェリシア! ユーマ!」
「ただいまレティ」
追っ手を振り切り、町へ帰り着いた俺達を待っていたのは盛大な歓迎と共に駆け寄ってくるレティだった。
フェリシアを奪い返して町に戻ると先触れを出したんだが、どうもそれが町に広まったらしい。
住民総出どころか、旅装束で明らかに他所の町の人間までいるじゃないか。
正門から役場――アイシャいわく庁舎と呼べ――までを貫く町の大通りが人でごった返している。
ミアやタロ、傭兵たちも面白がって周りに愛想を振りまいてるが、先頭近くを進む俺とフェリシアには最も人が寄ってくる。
レティも途中で進めなくなって、人混みの中から飛び上がって腕を出して振ってるじゃないか。
「さすがに馬で進めば通れるだろうが、レティをあのままにするのはな」
「これからはこの様な事がいくらでもあります、ユーマ様にも慣れて頂かなくては」
そうは言うがなフェリシア。
奪還直後の様に横抱きにして俺の前に座らせたフェリシアが――到着まで数日あったので、もうえっちなパンツ丸出しではない――沿道の群衆に向けて微笑み、手を振る。
当然の様にそれに反応して歓声がさらに大きくなったんだが――。
注目を集めたフェリシアは、スッと手を上げてから沿道に向けて招く様に手を差し伸ばす。
フェリシアの一挙手一投足を見逃すまいとしていた群衆はその先へと視線を移し、周りから注目を浴びた人間は自分じゃない! と慌てて道を開け、そこからレティが転がりだしてきた。
「ミュリエル!」
「レティシア! ちゃんと約束守ったよ!」
おや? レティシアを迎えに行こうとして、ミュリエルが馬を降りてたらしい。
俺とフェリシアに駆け寄ってくるかと思ったレティは、ミュリエルの発展途上な胸に飛び込んでいった。
「ありがとう……! 何でも言いなさい、お礼するから!」
「レティシアの大切な人を助けて、お礼をもらおうなんて思わないよ」
軽々しくめったな事を言うもんじゃない、と思ったがうちの娘は大変良く出来た子だった。
俺と一緒に2人を見ているフェリシアも、微笑ましそうに……と思ったら。
何だか頬に指を当てて、考え事の最中みたいだ。
その間も「フェリシア様ー!」と声がかけられれば、そちらに向かって笑顔を向けるのも忘れないのはさすがの一言。
「レティシア……欲張りな子ね」
「妹が友達を増やすのは反対か?」
「いいえ、でも特別な人を何人も持つと大変ですわ。ひとつに絞ればこそ、どんな事でも出来る物です」
フェリシアはそこの所がハッキリしてるもんな。
ミュリエル経由で、レティシアの為なら俺達を敵に回すと宣言するくらいだし。
そうなったら味方だと思わせたまま、罠にはめるくらいはしてみせただろう。
いやほんと、グレアムじゃないが敵に回したくはない。
周囲へ笑顔を振りまいて、振りっぱなしの手が疲れたらフェリシアを抱く真似をして休み、頬が引きつる頃になってようやく役場が近づいてくる。
ひとまず顧問たちに帰還を報告して、その後にゆっくりと――。
「フェリシア様ー! このままアオの町にご逗留されるのですよね⁉」
「どうか神竜殺しと共に王都に巣食う者共を――!」
群衆から即答しにくい声が聞こえてくる。
……そういう政治的な発言は困る、答え方次第で変な意味に取られかねない。
ここは得意分野だろうフェリシアに任せて――。
「えぇ、ようやくユーマ様がこうして自分と共にあれ、と迎えに来てくだされたのですから。愛する方と共に住めるなら、わたくしにとってそこは王宮よりも素晴らしい場所ですわ」
――ふむ、誰それと争うだとか何の為にこの町に滞在するだとかには答えないか。
お年頃の王女様らしく、流した噂に沿う形で恋愛絡みの事情にすり替えて?
……あれ、ちょっと違和感が。
「ではユーマ様、町を指導なさっている方々へのご挨拶を済ませましょう」
「あぁ、そうだな。それが終われば、やっと家でゆっくり出来る」
「わたくしも楽しみです、ユーマ様とようやくひとつ屋根の下ですもの」
群衆はまだまだ周囲で騒いでいる。
……フェリシアはなんて言った? 俺の屋敷に住む? なんで?
しかも何で俺を見上げて目を閉じてんの?
なんか周囲が固唾を飲むって感じで、何かを待ってるんだけど。
え? これやらなきゃいけない流れ……?
俺達を囲む群衆は近い者だけで数百人。
そのプレッシャーは慣れない俺には半端ではなく、今更拒否して良い物とも思えない。
……しばらくの間を置いて、再度歓声が爆発した。
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