017話 いざフェリシア奪還作戦、なのにいきなり想定外!
「ユーマ、やっぱり私もついて行った方が良いんじゃないかしら……?」
「勿論師匠が着いてきてくれれば助かります。でも何とかしてみせますよ、あなたの恋人を信じてください」
よっぽど迷っていたんだろう、出発直前になってそんな事を言い出したソフィア師匠の手を取り、笑いかける。
現在アオの町には学校が設立され、師匠はそこの責任者だ。
ここしばらくで明らかに物々しい雰囲気を匂わせ出した町と、ピリピリした大人を見て不安がる子供たちを、師匠が心配してるのは知ってる。
俺がこの町で暮らす事を選んだのも、そもそもは師匠の心の平穏のため。
師匠の感情を優先させるのが我がままだと指摘されても、それがどうした! と言ってみせるね!
そんなやり取りをしてから、現地へ馬で駆けているのは俺とミュリエル、ミアにタロにフランツ団長だ。
ジローにも来て欲しかったが、この後を考えると町やその周辺に領主が顔を見せないでは話にならない。
先発したサビーナさんやゴーレム隊もいるし、何より俺が駆る馬に遅れずついてくる頼もしい娘もいる。
俺の馬にはミアとタロが同乗しているが、そのハンデを考慮しても隣を駆けるミュリエルの手綱さばきには関心する。
「本当に上手くなったなミュリエル」
「せっかくお父様に教えてもらったもの、当然だよ?」
「ま~ユーマの一番の特技だしね、乗馬」
褒められてドヤ顔をするミュリエルだが、俺の教え方よりは大人の――前世と言った方が近そうな――記憶が戻ったせいだろう。
暇を見て教えてたんだが、一度大人になった頃から明らかに上達してたからな。
「前と同じ匂いが近づいて来たッス」
「そろそろか、道に迷わないかとちょっと心配してたんだよな」
「大将……あれだけ暇を見つけては測量してて、まだ道に迷ったりするんで?」
「それはそれコレはコレ。大体地図作っても顧問とアイシャが持ってっちゃうしな」
運送業者をやってた関係で、俺も王都や他の街には傭兵達と何度も往復している。
その際に測量してたのは……趣味、というとちょっと違うな。
一度町が襲撃を受けた影響か、変わった地形や使える地形を放置すると気になってしょうがないんだよ。
いつ襲われるかもしれない、実際にデータとして調べれば見た目とは違っていたりする。
経験からか、そんなふうに思うようになってしまった。
「予定地点だ、時間は?」
「大方予定通りってとこです、上出来な行軍ですよ」
公爵家の後継者である、シャルルの屋敷を視界に収める場所で周囲を見回す。
屋敷を挟んで逆側、森の一画に視線を向けると絶妙のタイミングで、木の陰から光が瞬く。
「向こうも準備は良いらしい、皆作戦は頭に入ってるよな?」
「大丈夫だよ、お父様!」
「問題ないッス!」
「ま~ミアはユーマと一緒にいるから……」
口ではそう言いつつも、ミアもまあ大丈夫だ。
タロはちょっと心配だが、逃げ足に関しては人口3000を超えてきたアオの町でも右に出る者などいないので、最悪の場合は1人でも帰ってくるだろう。
「今回の作戦目標は、フェリシアを奪還して町まで無事に連れて行く事。屋敷の警護に当たっている100人程度と戦う事は目的じゃな――」
「ちょっと良いですかい、大将」
わりと大事な確認の途中だったんだが、フランツ団長が無意味にそれを遮るとは思えない。
何事かとそっちを見ると、目標である屋敷を指差している。
何か見落としていたか……?
屋敷と、その周囲には警護の100人が――⁉
「傭兵団、狼の紋章……!」
「ありゃ厄介ですぜ、何せ俺達と同じく騎兵が主体だ」
いつだったか、師匠を連れ帰ると言って当時の村に来ていた元婚約者。
確かグレアムとか言った、あいつの傭兵団か。
そういえばフェリシアが伯爵と契約を結んだと言ってたが……。
「元々の警護兵はちゃんといるし、警護任務に騎兵を付けるってのもおかしな話だ。それに雇用主はブロス伯爵のはず……その護衛か? 何にせよタイミングが悪すぎる」
「今回の作戦、主体は王女様の親衛隊と聞いてるが、アレが参戦してくるなら相手をするのは俺達って事になりますな」
グレアムはフランツ団長と、その配下の黄金の熊傭兵団を知っていた。
敵に回したくないからだと言っていたが、団長もそれは同様らしい。
ただ騎兵が相手というだけなら、自信家の団長は厄介だなんて言わない。
ここまで来て……と、唇を噛む――が。
「傭兵は支払われた金の分しか働きませんが……これまで支払われた契約金分には、丁度良い相手ってとこですかね」
団長の言葉に、傭兵達が笑って応じる。
実際に戦う彼らがやる気を見せてるんだ、俺が臆してちゃ話にならないな。
それに、作戦通りに行けば――!
「よし、ちょっとばかり想定外もあったが、合図を待って作戦を開始する!」
「お~!」
傭兵達の野太い鬨の声はさすがに気が付かれる。
黙って頷いて見せる傭兵達と、ミュリエルにタロ。
そして俺に応じたのは体格よりは大きな、妖精さんの頼もしい声だった。
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