007話 公衆浴場! 覗きとは不届きな野郎だ!
「覗き魔?」
「えぇ、公衆浴場には何ヶ所か窓があるでしょう? そこに人影を見たらしいのよ」
ソフィア師匠がお茶を飲みながら、そんな噂話を口にする.
現在、町の住民の大半は外からの移住者だ。
だが他の町や村に定住している者が、わざわざこの町に移住してくるほど集落を守る壁を越えるというのは、生易しい物ではない。
なので、その大部分は難民や戸籍を持たない流民という事になる。
その中でも財産を持ち出せた者は居住権を買い、何らかの才覚や技術を持つ者は優遇して受け入れられている。
そのどちらも無い者は……残念だが、縁がなかったと言う他はない。
前者と後者は定住後にも違いが出るが、彼らには共通している事もある。
疫病を持ち込む恐れがあるって事だ。
旅の生活で体力や気力が落ち、不衛生を強いられていた彼らは病気への免疫力が下がっている。
そして彼らの間でそれが広まるのは、あっという間だ。
そこでその対策も兼ねて、町の衛生面を改善しようという提案がアイシャから出て、建設されたのが公衆浴場である。
「妾の住む町が不衛生など、あってはならぬのじゃ!」だ、そうだ。
「そうなると……誰かがこの体を見たって事ですか? 俺のソフィアなのに!」
「ちょっと……もう1回はダメよ?」
素肌に薄い上衣を羽織っただけの師匠に伸ばした手を、キュッとつねられる。
ダメか……でも諦めた意思を伝えつつ、肩を抱き寄せる手にお叱りは無い。
少し汗ばんだ柔らかい体、羽織っただけの上衣の合わせ目からは、服を着ている時よりも遥かに自己主張する膨らみから足の先まで、熱を残した肌が覗く。
……誰かが、見たかも知れない?
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「ま~許せる訳もないよな!」
夜中、大きな独り言を口にするくらいには腹立たしいのだ!
明日に師匠が魔法で確認すると言っていたが、もし犯人と鉢合わせしたら危険かもしれない。
当然護衛を付けたり、自警団にも周囲の捜索をさせたりといった提案はしてみたが。
「犯人の目星がつかない以上、あまり広めたくないのよ」
との事である。
考えたくもないが、自警団の中に犯人がいる可能性もあるからなあ。
というか、ほぼ完成済みの防壁の中にある公衆浴場が現場なのだ。
町の人間が犯人……人が増えると面倒になるなあ……。
そこで俺が夜中に何をしているのかというと、ちょっとしたお手伝いだ。
この時間は湯の入れ替えや掃除などに当たっているので、使用者はいない。
公衆浴場の周囲に人もいないので、こっそり調べるには好都合。
さて、相手の気持ちになってみよう。
俺が犯人だった場合、どうやって中を覗く?
窓に人影を見たって事は、かなりの至近距離から覗き込んでいる。
魔法や魔道具で姿を隠すとか、遠方からって手段ではない。
断定は出来ないが、犯人は覗きに適した魔法の素質を持っていない。
俺が魔法を使えないとして……覗きにあたって一番に考えることは――。
「……逃げる手段だな」
覗きは最悪バレても良い、正体がバレたり捕まるのが一番ヤバい。
何らかの刑罰、そしてその後は当然町からの追放処分だ。
というか、追放されなくても町にいられないだろう。
となると――見つかりにくい逃走経路の確保。
公衆浴場の周囲を歩いて観察する。
水を引く関係上、台地の北側にある斜面の先に出来た湖に近い位置に浴場は造られている。
防壁は町の全周を囲っているが、湖に面した部分は波止場になっている。
――泳いで一度町の外まで逃げるか?
内陸のこの地域では、水泳は結構な特殊技能だ。
父さんにそんな方法で逃げる事もあるかもしれないと仕込まれたんで、俺は出来るが自警団員にも泳げる者は少ないだろう。
まあ、可能性のひとつとして覚えておくとして、他の可能性は――。
「次に重要なのが、やっぱり見るポジションか」
見る為にリスクを犯してるんだからな。
浴場の窓は大きく分けて2系統、上か下かだ。
上にある窓はそこらの民家よりも高い位置にある。
崖登りが出来る奴なら行けるな、母さんに仕込まれた俺とか。
そして目撃情報があったのは下に並んだ窓の方。
窓自体は30cm四方程度の大きさだが、これを覗くなら地面に這いつくばる必要がある高さだ。
怪しい事この上ない。
でも例えば――こうしたらどうだろう?
魔法を使って土を移動させ、窓の下に適度なサイズの穴を作る。
俺は土精系統の魔法で出来るが、これは水泳と違って多少時間をかければ誰にでも出来るだろう。
ここに入って……何か布でも使って体を覆えばバレ難いんじゃないか?
俺の場合は――土で隠してみるか。
「……で、格子の隙間から窓をズラせば――」
今は木製の木板を全部どけて見るが、浴場の中は湯気で充満しているはずなので、覗きに必要な分が開いてる程度ならバレ難そうだ。
あ、イケね……木板を倒しちゃったか。
こっちからは格子が邪魔で戻し難いな……って、なんでこの時間の浴場に湯気があるんだ?
「うむ! 夜の風呂というのも良い物じゃの!」
「あたしは砂浴びとかで済ませてたんだけど、お湯ってのも良いよね~」
「リゼットさんが付き合ってくれるなんて思わなかったです」
「人が多いと面倒くさい、人が少ない時間に使えるなんてそうはないよ。ミュリエル、ユーマ殿に礼拝所に風呂を作る様におねだりしといて」
湯気の向こうに今入ってきたばかりといった雰囲気の、4人組がいる。
当然のように、肌色がたくさん見える。
声からするとアイシャ、イェリン、ミュリエルにリゼット?
……アレ?
ブクマ、評価、感想、誤字訂正等いつもありがとうございます!
リゼットは作中聖女とか呼ばれてたキャラです、出番は少ない
シリアスな話に入る前にやりたい事をやっておくスタイル!




