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最強の娘と虚名を得た俺は、乱世から逃れられないので終わらせる!  作者: 楼手印
2章 勇者なんて虚名です、神竜より強いわけ無いじゃないですか!
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040話 神竜討伐、準備!

「神竜討伐を成したとあれば、もはや出自など無関係に勇者と認められるでしょう。ミノーに留まらずその名声は広がり、望めばいずれの国家の王とでも謁見や陳情が可能です。事を成した暁には行動を慎重になさってください」

「そんな大層な結果は望んでませんよ、神竜討伐の依頼がいつまでも放置されれば同じ事が起こる可能性があります。何せ今回の件は公表してませんからね」


 相場の変動だのなんだの、そんな理由でいつまでも狙われちゃたまったものじゃない。

 今後を考えれば原因を断つ必要がある。

 詰まるところ、神竜だ。


 普段との微笑みとは少し違う笑みを浮かべ、フェリシア様が興味深げに俺の言葉に頷く。

 

「ですがその存在を知られて以来、神竜は人間に危害を加えていませんよ? どの様な理由でその生命を奪うというのですか?」


 聞いた所じゃその通りだ。

 だが事は俺の家族の命に関わる、一緒にいれば友人や周囲の人間にもだ。


「その存在が邪魔だからです。話し合いで人間の手の届かない所へ出ていってくれ、なんて言った所で聞くとは思えません。ですから、力尽くで消えてもらいます」

「ふふっ……自分の望みの為には法や権威どころか他者の命も踏みにじると?」


 そこ、笑うところですか? フェリシア様。

 

 ――そんな会話をしてから数ヶ月。

 もう秋も終わろうかって季節だ。


「こんな準備必要なの? 勇者なんでしょ?」

「勇者だって準備くらいするよ、ましてや――相手が相手だしね」


 俺は神竜討伐の依頼を持ちかけた少女、イェリンを連れて王都で買い物をしていた。

 せっかくなのでミュリエルも連れてきたが、前回の事があるので街には出られずに王宮でレティシアと会っている。

 

 俺も買い物の大部分は王宮から済ませる必要もあったんで、ちょっと一緒にいたんだが正直邪魔そうだったから、そこそこにして抜け出したんだよなあ。

 あの2人があそこまで仲良くなるなんてのは、思っても見なかった。

 嬉しい誤算ってのはあるもんだな。


「お城の中でも買い物してたのに、めんどくさいなあ……」

「あれは君の持ってきた前金を、換金する必要があったからだよ。額が額だから偉い人に頼むしかなかったんだよ、使いみちもこんな個人用じゃないし」


 なにせ背負い袋一杯の宝石だ。

 換金するだけでも一苦労だし、それで相場が荒れるとも言われてたからな。

 

 なので一度フェリシア様に預け必要な額の金貨を受け取って、宝石は市場が荒れないように適切に流してもらう、というやりとりが必要になった訳だ。

 驚いたのは「必要な予算はこれくらいになるんですが……」と見積もりを渡した所、その場で要求額の金貨を出してこられた事だ。

 フェリシア様がかなりの資産を持ってる事は知ってたが、あんな額を何の目的で貯蓄しているんだか……。

 まあ偉い人の余計な事を知ってしまうとそれこそ面倒だし、俺には関係ないが。


 その金貨の使いみちに関しても、ミノーの国中からかき集める必要があったんで王宮からやらせてもらった方が、色々と話が早い。

 俺個人でやるとまた妙な噂になる可能性が高いし、取引場所の関係で商人とのやりとりもスムーズだったしな。

 

「神竜は火竜、冷却の魔法を込めた魔道具は有効なはずだ。使い方の関係で使い捨てになるけど……まあ仕方ないか」

「普通の攻撃も効くよ? もっとこう……おっきな剣でドーン! で良いのに」

「竜殺しの剣とかがあれば、それでもいいかも知れないけどね……」


 まあ俺には無理だけど。


「待たせたな、これが注文の品だ」


 そんな王族にお願いを聞いてもらっての準備なんかじゃない、個人的な装備を持ってきたのは王都の武具屋の主人だ。

 以前は魔力を持った武具も一定の強さ以上になると、特権を持った商会が独占してたんだが……今はそれも無くなった。

 こうしてそれなりの大きさの店であれば、望む品を発注可能なのだ。

 思ったより時間はかかったけどな。


「なるほど、待っただけあってしっかりした作りですね」

「まあこっちも普段扱わない素材だったんでな、待たせたのは悪かった。しめて金貨で300枚だ、端数は勉強させてもらうよ」

「金貨300ね……300⁉ なんで⁉ 一番高い鎧でも金貨5~60枚だっただろ⁉」


 驚いた俺に対して、店の主人もまた驚いた様子を見せる。

 なに? 俺またボラれてるのか⁉

 

「そりゃ最初の見積もりだろ? 後から追加した左胸の追加装甲、アダマンタイトの表面装甲に内側はミスリルチェインだぞ? 材料費もそうだが、加工だけでもどれだけの手間がかかったと思って――」

「あ~出来たんだ、デザインも注文通りだね~」

「……悪かった主人、大体原因が分かった」


 店に並べられた品をふよふよ飛びながら、別行動で眺めていた妖精さん。

 こっちに飛んで来る際の言葉で、誰のデザインの影響を受けたのかはよ~く分かった。


「ミア! 勝手に発注書書き換えたな⁉ 値段が跳ね上がってんじゃないか!」

「いやほら~いつまでも鞄だと、ちょっと危ないかな~って思って。お金いっぱいあるみたいだし、ここは奮発するとこじゃない?」


 カウンターに載せられた硬革鎧。

 俺が頼んだのは防御力をそのままに出来るだけ軽くすること、敵の攻撃を弾く魔法と素材を強化する魔法をかける事、だ。

 でも左胸に付けられた魔法金属の追加装甲、鎧本体と魔法の数倍の価値があるらしいそれにミアが手をかけて開く。

 ポケットの様になっているその内側には、擦れようと音を立てない魔法金属で編まれた鎖鎧が見える。

 

「う~ん、大きさもバッチリ。やっぱり鉄じゃうるさいし強度も考えればミスリルだよね~」

「……300枚、持ってくるので1時間ほど待ってもらえますか」

「……大変そうだな」


 いやまあ、頼りになるんですよ普段は結構。

 それに戦闘中に、普通の鞄の中にいたんじゃ危ないってのも一理ある。

 今後のミアの安全を考えれば、ため息と一緒に不満は飲み込もう。

 ――でもだな。


「……金貨300枚って事は、ミアの値段の20万倍だぞ? 銅貨15枚だったろ」

「……良い品だけど、銅貨3枚くらいにしない?」

「……しないな」


 神竜討伐の準備にしては間抜けなやりとり。

 保護されてそれなりに良い生活をしていたのか、初対面より小綺麗になっていたイェリンはそれを欠伸しながら退屈そうに眺めていた。

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[一言] 金属だと冷たそう…魔法であっためたり…?
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