第2話 彼の日常
下駄箱で紗絵さんと別れて、俺は、1年B組のある2階を目指す。
ガラっと教室の扉を開けると、
「見てたぜー。相変わらず、ほんと、羨ましい奴め」
「俺もあんな風に可愛がられてーな」
「巨乳でお姉さん属性とか最高だよな。勝ち組め」
好き勝手な事をいう男友達。どうやら、紗絵さんは、才色兼備の美少女として学年が違う男子共にも知られているらしい、ということを知ったのは、紗絵さんと恋人になってからだった。最後の台詞は聞き捨てならなかったので、殺意の視線を向けておいた。
「相変わらず大変だね、夢有君」
机でだらんとしていたところに声をかけて来たのは、女友達で一番仲がいい鶴崎霞。活発で男女隔たりなく接する彼女はクラスの人気ものだったが、とりわけ、俺を気に入ったらしく、よく話す仲だ。
「ほんと、人の気も知らず好き勝手いいやがって……」
紗絵さんとの詳しい事情は、霞にだけは打ち明けているので、愚痴る。
「気持ちはわかるけどね。傍から見たら贅沢に見えるのも仕方ないよ」
そう宥められる。
「俺もそれくらいはわかってるんだよ。でも、この子ども扱いされてるもやもやをどうぶつけたものか」
色々と言いたいことが奥から湧き出てくる。
「どうどう。落ち着いて、落ち着いて。それで、今朝は何があったの?」
「別にいつも通りだけどさ。相変わらず、むーちゃんとか言うし、からかってくるし、お姉さん風吹かすし……」
「ふふ。でも、私は紗絵さんの気持ちがわかるなー」
「霞は俺の味方だと思ってたんだけどな」
「それはほんとだってば。でも、夢有君って仕草とか顔とか色々可愛いし、年上じゃなくても、可愛がりたくなるよー」
そんな事を楽しそうに言う霞。
「やっぱりお前、紗絵さんの肩持つ気か?」
「冗談だってば。それで、今日はそれをなんとかするんでしょ?」
霞の瞳が真剣になった。
「ああ、それで、段取りなんだけど……」
以前から相談に乗ってもらった、今日の計画について、改めて話し合う。なんだかんだ言って、こういう相談に乗ってくれるのはありがたい限りだ。
「うん。大丈夫だと思う」
「そっか。ありがとな」
「いえいえ、どういたしまして。紗絵さんと仲良くしてね」
「それはもちろん」
別に今の立ち位置にモヤモヤしているだけで、紗絵さんを嫌いになったわけじゃない。それは確かなことだった。