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ハレーGP⑧

 木星軌道を通過。先程と違い木星は遠い。スイングバイは使えない。

 <レッドフォックス>が堰となり後続の船は遅れている。最高速で劣る<フロンティア号>であったが4位をキープ、しかしトップとの差は22秒に広がっていた。

 小惑星帯(アステロイドベルト)突入。

 明は次々と迫る小惑星を避ける。マーチンはラストスパートに備え眠っている。明の操縦も凄いが、激しいGの中で眠れるマーチンも凄い。

「おい」

 明がマーチンを起こす。誰かと違い寝起きはいい。

 3位の⑤<ブラックスワン>に追いつく。黒い流線形の美しい機体。パイロットのハラショー兄弟は機体に似つかわしくなく、でかい・太い・毛深い。

 レースバトルが始まる。

 小惑星の密度が増す。その中をジグザグに2機の航跡が続く。

 <ブラックスワン>を追う<フロンティア号>だが、差は縮まらない。

『出来るだけまっすぐだ。リュウグウ級の星は避けなくてもバリアーで防げる』

 パドックの啓作からの超光速通信。

「前方セレス級!」

『セレス級は避けろよー』セレスは小惑星帯最大の星。月よりでかい。

 <ブラックスワン>は左へ。<フロンティア号>は上へ。

 <ブラックスワン>の避けた先には別の大型小惑星。明たちの前は開けている。

 運も実力のうち。今度は<ブラックスワン>が明たちを追う。エンジンパワーは相手の方が上だ。

 ここで差をつけねば、小惑星帯を抜ければまた追い抜かれる。

 カン。カン。機体に当たる星が増える。明はさらに速度を上げる。

「アンビリーバボー」ハラショー兄弟がぼやく。

 小惑星帯を抜ける。3位。トップとの差は9秒に縮まる。初めて区間レコード樹立。

「エンジンフルパワー!」

 明は前を見据える。

「やるしかない。追いついてみせる!」

 

 月のメインスタジアムに大歓声が上がる。

 ④<青い流星>パイロットのレイジとミヤンは銀河パトロール捜査員である。ちゃっかり同行しているグレイと共に、②<デスウィング>のパドックのドアをノックする。

 返事はない。レイジたちは銃を構え、グレイがドアノブをまわす。

 部屋は空っぽだった。機材どころかテーブルひとつ無い。

 啓作にグレイから通信が入る。

『遠日点のピットも撤去された後だった。限りなく黒に近い。それでも証拠が無いから<デスウィング>を失格にできない。そもそもテロ自体起こっていないし』

「テロが起こってからじゃ遅い」啓作がつぶやく。「テロの目的、何だと思う?」

『さあ?地球連邦への恨みか?目立ちたいのか?』

「軌道を外れたハレー彗星が地球に当たるまで一か月ある。<ネオ=マルス>の光子砲などで衝突は防げる、ハレー彗星は消滅するけどな。テロの成功確率は低い」

『何が言いたい?』

「地球に彗星が衝突するとなれば、地球経済は一時的に大打撃を受ける。危機が回避されれば元に戻るだろうが。逆に移民星の経済は一時的に潤う」

『君は何が言いたいんだ?』通信を聞いていたレイジが尋ねる。『移民星の抗議目的?』

「不審な株の動きと関係があるんじゃないかと思ってね」


 超高速で飛ぶ宇宙船は火星軌道を通過。外惑星に比べ内惑星間は近い。

 美理はベッドでラジオの実況を聴いている。隣りで麗子が寝返りを・・うてない。狭い。あくびが出る。眠いがそれ以上に興奮している。

 ルリウス星の月にいるボッケンもひとり起きてTVを観ていた。


 先頭グループが地球軌道を通過。月のメインスタジアムは大騒ぎ。

『いよいよレース終盤。太陽を周って、地球軌道のゴールに最初に飛び込むのは誰か?』アナウンサーも興奮している。『ゴールに一番近いのはやはりこの男、銀河最速・ジョーカー=ブラッド!①<フリーダム>三連覇なるか?2位は4秒遅れで謎に包まれたシンクロ最速機②<デスウィング>。そして3位は11秒差で無名の新人⑰<フロンティア>!』

 金星軌道通過。太陽が眩しい。

 その太陽の向こう、ハレー彗星が見える。長く白い尾を引いている。

 彗星はほとんど氷でできた天体だ。太陽に近づくと熱で溶けた氷やドライアイスが「コマ」と呼ばれるガス雲を作り、それが太陽風などにより吹き飛ばされ長い「尾」となる(イオンの尾とダストの尾の二つがある)。ハレー彗星本体の大きさは約8x8x16㎞にすぎないが、太陽接近時のコマの大きさは直径約20万㎞(地球の直径は1.2万km)、尾の長さは最大1億㎞以上に及ぶ。

 <フリーダム>は逆噴射。速度を落とす。<デスウィング>もそれに倣う。

 近日点が近づく。ハレー彗星はその先だ。

「インを取った者が勝つ!」

 激しいGに耐えながらジョーカー=ブラッドが言う。

 <フリーダム>は近日点ぎりぎりを周る。

 あとは彗星の「尾」をかすめ、ゴールに飛び込むだけだ。ブラッドは勝利を確信する。

 遅れる<デスウィング>だが、立ち上がりで反重力ブースターを点火する。

 後方映像を見ながらブラッドがつぶやく。

「やられた・・」

 <デスウィング>のコクピットに座っている二人の男は機械とコードで繋がっている。彼らは“シンクロ”のためサイボーグ化されていた。スウィングと名乗る男の口角が上がる。

 カチリ。 ブースターが<デスウィング>から分離される。

「!」啓作の顔が歪む。

『これは事故だ!ブースターが外れて・・』

「?」ラジオを聴く美理は状況がよく分からない。

 映像を観ているボッケンやヨキも似たようなものだ。

『・・このままでは彗星に当たる!』

 ミサイルと化したブースターは一直線にハレー彗星へ向かう。

「くそっ」残念がるグレイ。ブースターを彗星と太陽の間で爆発させる気だ。

 月のメインスタジアムは静まりかえる。

 ヨキはポカンと口を開けて巨大スクリーンを見つめる。

 VIP室の男たちは歓声を上げる。グラスを掲げ、乾杯。カチン。

 ブースターは彗星の「コマ」に吸い込まれて行く。

 その先に・・宇宙船(ふね)

 彗星のコマを抜けた<フロンティア号>が滑り込む。


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