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ハレーGP④

 漆黒の宇宙空間を猛スピードで46機の宇宙船が飛ぶ(4機リタイア)。

 木星と土星の間は遠い。土星の太陽からの距離は約14億3000万㎞、木星までの距離のざっと倍だ。もっとも現在土星はコースとかなり離れた所にある。

 <フロンティア号>のコクピット。おにぎりを食べ終えた明が尋ねる。

「ほんとにいいのか?」

「任せろ。一直線だ。目えつぶっていても迷わない」副操縦席のマーチンが答える。

「ワープトンネル近づいたら起こせよ」明は主操縦席の椅子を倒す。

「わかった。わかった」

「俺ナイーブだから・眠れるかな?」明はアイマスクを付ける。

「啓作が言ってたろ、眠れなくても目を休めとけ・・」 

「ぐおおおおおおお・・・・」いきなりいびき。

「どこがナイーブだ」

 笑いを堪えながらマーチンは操縦桿を握る。警報。前を見る。

 前から7位の宇宙船が迫る。それはあっという間に後方へ。


 ルリウス星。12時。食堂。

 美理はラジオを聴きながら、食堂で友達数人とランチを食べている。

「今何位なの?明さんたち」麗子が聞く。

 美理はにんまりしながら答える。「7位」

「え?ほんとに?」 

「何何?何の話?」ナオミが尋ねる。「ハレーGP?」

「美理の彼氏がハレーGPに出てるとか」朋ちゃんの勘は時に鋭い。

 ブー 麗子がお茶を噴く。

「え?マジ?」 「きゃ~」

「彼氏じゃありません!」美理が否定するが、火に油を注ぐだけ。

「きゃ~」

「そこ。静かにしなさい」怒られた。


 同じ頃、月のパドックでは啓作とシャーロットも夕食をとっていた。出前のかつ丼。意外とこだわるようだ。

 メインスタジアムのヨキとグレイも屋台で買って来た焼きそばをがっつく。

 グレイがつぶやく。「やっぱ賭けといてよかった。大穴いただきだぜ」公式のギャンブルは存在しないはずだが。

 同じメインスタジアムのVIPルーム。そこはヨキ達の外野席と違って、ホテルのスイートルームを思わせる調度品の数々。高級ブランドの背広を着た数人の男達が本革の椅子に座りレースを観戦していた。テーブルの上には高級食材がずらり。画面が太陽系の星図に変わる。

「計画は順調です。ハレー彗星の現在位置はここです。近日点を過ぎた所。レース終盤の彗星追い抜きシーンにご注目を。史上最大のショウで地球連邦経済は大打撃を受ける事になります」 

「別にハレーGPの時にしなくてもよかったのではないか?」

「太陽は自殺の名所ですから。通常は防止装置が働いていて侵入が難しいのです」

「成功確率は?」

「最新データで94%」 「ほう」

「四週間後のショウの実現確率は13%。まあ地球連邦も馬鹿ではありませんので、衝突回避の行動を起こすでしょう。正味20日間が勝負です」

「とんだインサイダー取引だな」

 笑う男達。


 土星軌道が近づく。宇宙船の速度はレース最高速に達する。

 原則無重力の宇宙空間では加速するほど速度は上がる。エネルギー補給不要なエンジンが主流だが、フルパワーの長時間使用はエンジントラブルの原因となる。

『おっと!優勝候補の一つ<タイガーホース>。エンジン停止!エンジン停止!』

 2位を航行していた③<タイガーホース>。ミサイルというか昔のロケットの様な宇宙船だ。そのエンジン付近から煙が出て、次々と後続に抜かれて行く。

「よっと」マーチンも避ける。6位。

 席の周囲には食べ終えたお菓子が散らばる。マーチンは機器を操作。エンジンの負担を減らすべく出力を制御する。後ろに追いつかれないように、前に離されないように。それはもはや職人技だ。

明は眠ったまま。

 土星軌道到達。ここから天王星軌道(太陽からの距離は約29億km)までと天王星軌道~海王星軌道(太陽からの距離は約45億km)の間はワープトンネルを使用する。特定の二つの空間を繋ぐ宇宙のトンネル。ハレーGPのための特注だ。火星で明が使ったものと同じだが(第2巻第2章参照)長さは桁違いだ。一瞬で終了する通常のワープと違い、空間をねじ曲げたワープトンネルの中では時間が存在する。

 直径約1kmのワープゲートが見える。船は超高速で飛んでおり、広大な宇宙空間を飛んで来ての幅1kmは針の穴ほどに感じる。

「明、トンネルに入るぞ」

「・・・」明に何の返事もない。暫くして「ぐおおおおおおお・・・・」いびき。

「起きろー!」マーチンが怒鳴る。

 同じ頃、先にトンネルに入った3位④<青い流星>と4位⑧<トゥルーライ>が接触。

 両者は反対方向に弾き飛ばされ、トンネルの壁を突き破り通常空間へコースアウト。

 5位⑥<イエローバッカス>も巻き込まれ、スピン。200mの船体がトンネル入口を塞ぐ。

「!」

 マーチンの目前、回転する<イエローバッカス>が迫る。

 急なG。急ブレーキ。短い姿勢制御。目覚めた明が操作する。紙一重でかわす。

 それも束の間。遅れて来た宇宙船衝突の衝撃波エネルギーが船体を襲う。

 <フロンティア号>は<イエローバッカス>と共に弾き飛ばされる。

『ゼッケン8・ゼッケ17コースアウトお!!!』

 7位⑦<ハードセブン>は<イエローバッカス>を避けるが、トンネルゲートに衝突。

 1位①<フリーダム>2位②<デスウィング>を除く船が次々と巻き込まれる。

 イエローフラッグが振られる。


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