デッド・オア・アライブ⑤
「まるで海賊だな」
ぐちゃぐちゃに潰れた艦橋で白虎は立ち尽くす。既に空気の流出は止まっている。
「敵ながらあっぱれ。だが生きては帰さん。戦闘機発進!白兵戦用意!」
白虎は<フロンティア号>を睨む。コクピットはもう目と鼻の先だ。
その<フロンティア号>では、
「わー睨んでやがる。・・・ヨキ!俺を敵の艦橋へ送ってくれ」
「へ?」ヨキはきょとんとしている。
ヨキが超能力を使えるのは3分間だけ。間もなく時間切れだ。つまりテレポートで行っても帰って来れない。もちろん明は覚悟の上だ。
ボッケンがすかさず「兄き、ボクも行く」
「助かる。・・啓作、あとを頼む」そう言う明に、
「だめ」
明は声の主の方を見る。
「行かないでください」美理が泣きながら訴える。
<死なないで。必ず帰って来て>麻美子と重なる。
明は視線を逸らして、「・・ヨキ!」
「まて。その必要はない」啓作が答える。「麗子くん、ESP波の発信源は分かったか?」
「もう少し・・」麗子が機器を操作中。
啓作はアンテナバリアーとブラスターとの接続をカット。これで船首ブラスターを使える。トリガーを絞る。
発射!
ブラスターは艦橋を掠める。
啓作はマイクのスイッチを入れ、「今度はプロトン砲を当てる。武装解除しろ!」
「え?プロトン砲は(旋回できなくて狙えない)」
「しっ!」グレイがヨキの口をふさぐ。
麗子がにっこりと微笑む。「解析できました。発信源は艦橋上部のメインアンテナ、艦底部のサブアンテナ、艦首上甲板ドームです」
「ホーミングレーザー発射!」
啓作の命令に答えてピンニョがスイッチを踏む。
艦橋に突き刺さった<フロンティア号>から光の矢が飛ぶ。
屈曲し三つの目標へ向かう。
命中。
三つのアンテナが粉々に吹き飛ぶ。
「しまった!」白虎がうろたえる。
特殊ESP波が止む。
それは半催眠状態の明を助けるだけではない。操られていた大銀河帝国の地球人たちの呪縛をも解く。
我に返った人々は混乱し、何がどうなったのか理解できないでいた。操られていた時の記憶は残るようだが、夢うつつの寝起き状態。160隻の艦隊は烏合の衆と化す。
啓作が再度白虎に警告する。「武装解除しろ!さもないと・・」
その時だった。
“重力震なし“でいきなり宇宙船が艦隊の真っただ中に姿を現す。
「!!」
たった一隻。
全長350mの戦艦級。曲線を多用した美しい船だ。船首は鋭くとがっている。
「見た事もない船だ」自称銀河一の情報屋がつぶやく。
勿論<フロンティア号>のコンピューターにも「データが無い。星籍不明です」
宇宙船は艦隊の中をゆっくりと進む。
船体から幾つもハリネズミのハリの様な突起が伸びる。
それが武器と分かった時には先端からビームが発射されていた。
「!!!」
大銀河帝国の巡洋艦が一撃で木っ端微塵に吹き飛ぶ。
白虎は旗艦とは別の戦艦にESP波を出すよう指示(正確には地球からの特殊ESP波を中継する)、兵士たちは再びデコラスの支配下に入る。彼らは臨戦態勢に入る。
大銀河帝国の戦艦が砲撃。大口径主砲のブラスターが謎の宇宙船に命中する。
撥ね返る。
「なんだと?」白虎が慌てる。「集中砲火で沈めろ!」
数え切れないエネルギーの束が宇宙船に降りそそぐ。宇宙船は炎に包まれる。
爆炎がおさまった時、宇宙船は変わらぬ姿を現す。
「馬鹿な」
宇宙船がビームを一斉発射。
それは四方八方に広がり、周囲の数十隻の艦が炎に包まれる。
一方<フロンティア号>。
「味方なのか?」
「分からん。だがズラかるには絶好のチャンスだぞ」
「アンテナバリアー分離。逆噴射!」
<フロンティア号>は艦橋に突き刺さったバリアー発生装置を残し、後進。
旗艦より離れる。使える両翼のエンジンを噴射。ずらかる。
遅れて白虎が命じる。
「撤収!!!」
大銀河帝国艦隊は一斉にこの宙域を離れる。逃げ足は速い。
謎の宇宙船はそれを執拗に攻撃する。
艦隊はワープで逃れるが、既に1/5は破壊もしくは航行不能になっていた。
一方<フロンティア号>はダメージが大きくワープ不可能のため通常航法で逃げる。
謎の宇宙船はしばし静止していたが、新たな標的を見つけて移動を開始する。
「追って来ます」おびえる声で美理が報告する。
「は、速い!」
ピーピーピー・・警告音が鳴り止まない。ほとんどの計器が異常を示し、赤ランプが点滅する。
瞬く間に距離が縮まる。
宇宙船の砲塔が<フロンティア号>に狙いを定める。
発砲。
明は垂直上昇ノズルを全力噴射。間髪入れず左の姿勢制御ノズルを噴射。
敵のビームは空を切る。
そのまま<フロンティア号>は天王星型惑星の衛星へ。
大気圏突入。
土星の衛星タイタンに似たメタンの海が広がる。温度は-200℃。大気成分は殆ど窒素だ。
宇宙船が追う。後上方から攻撃を仕掛けて来る。
明はその攻撃を巧みに避けて逃走を続ける。
避けたビームが氷の島に当たり消滅する。
ズズーン。
敵のビームが右翼を捉える。かすっただけで第2エンジンが爆発。
バランスを失った<フロンティア号>は氷の“山”に衝突、大きくバウンドしてメタンの海へ落ちる。
「飛べる!俺たちはまだ飛べる!」
寸前で姿勢制御、墜落を免れ上昇する。
その時、重力震が起きたことに気付くクルーはいなかった。
放ったホーミングレーザーが宇宙船に命中。跳ね返される。
プロトン砲は旋回できず使えない。明は船体を回転させ背面飛行へ。
「ピンニョ!反重力ミサイル射出しろ!」
ピンニョが発射ボタンを押す。イエ―にやられて推進力は無い、大きい爆雷だ。
敵のビームがミサイルに命中。弾避けになった。反重力爆発!
反重力で<フロンティア号>と謎の宇宙船は飛ばされる。
小さい衛星のため反重力の効果は薄い。再び姿勢制御。船首を敵艦へ向ける。
「プロトン砲!」明が命令。
グレイが即座に反応。一門だが最大出力で発射。
だがそのエネルギー弾は敵艦に跳ね返される。
前から敵艦が迫る。
明は垂直上昇して衝突をかわし、「フルパワー噴射!」
<フロンティア号>は全速力で惑星から敵艦から離れる。
敵艦は急速回頭。再び満身創痍の<フロンティア号>に狙いを定める。
発射。後方からビームが来る。八つ!
美理は思わず目をつぶる。
麗子も。ヨキも。ピンニョも。グレイも。啓作とボッケンさえも。
明だけは前を見据えていた。操縦桿を倒し、姿勢制御ノズルのボタンを押す。
“DEAD OR ALIVE” 生か死か。
諦めない。諦めたら待っているのは死だ。
絶望だらけだが、生きている限り希望はある。最後の最後まで足掻く。
次々とビームをかわす。かわす。かわす・・
残り一つ・当たる・・避け切れない・・
前が光った。何かが来る。
二つの光だ。
ビームが<フロンティア号>に命中する寸前、その光は敵のビームを貫き消滅させる。余波でプロトン砲とサブコクピットが溶ける。
もう一つの光は謎の宇宙船に命中。船体を貫く。
光が洩れる。そして・・・
大爆発。
爆発がおさまる。メタンの海に宇宙船の破片が次々と落下する。
前方、水平線から巨大な船が現れる。翼を有し、上甲板には砲塔が二列に4つ並ぶ。
「・・・・・」
ヨキは大口を開けている。皆無言のまま。
敵なのか?味方なのか?
敵だとしても、今の明たちは戦うことは勿論、逃げることも出来ない。
「でかい。超弩級宇宙戦艦だ」
地球の船に見える。“砲身が長く回転する砲塔”は地球の軍艦の特徴だ。
メインパネルに強制介入通信。人物が映る。
地球人ぽい男性。歳は50歳程か。口髭を生やし、眼光が鋭い。
「誰だ?」明がつぶやく。
美理が叫ぶ。
「お父さん!!」
つづく




