表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/29

デッド・オア・アライブ③

 医務室でベッドに横たわるシャーロットに明は頭を下げる。

「すまない。頼り過ぎていた」

 パイロットは交代していたが、ワーププログラミングはほとんど彼女任せだった。

「少し休んだら大丈夫よ」そう言うシャーロットに、

「いや、完全復活するまでゆっくり休んでくれ」

「だがどうする?」点滴を調整しながら啓作が聞く。

「セミオートプログラミングで対応するしかない。誰にさせるか・・」

「麗子ちゃんにやらせて。基本は叩き込んどいたから、彼女なら出来ると思う」

 明はシャーロットの意外な発言に驚く。いつの間に?

 明がコクピットに戻ると、マーチンが寄ってきて、

「先の戦闘の影響でプロトン砲の旋回操作がここで出来ない。サブコクピットだと可能だ」

「ヨキにサブに行ってもらおう。ここはグレイに」

 すでにグレイは副戦闘席に座っている。ミサイルを担当する。

「!」

 自動警報が鳴る。

「前方に未確認飛行物体をキャッチしました」

 レーダー席の美理が映像をメインパネルへ映す。失敗し一瞬TV映像が流れる。

「最大望遠です」

 さまざまな宇宙船が向かって来るのが見える。妨害電波のためか映像が乱れる。

 サブコクピットのボッケンから通信が入る。

『約30。重巡洋艦クラス1、駆逐艦クラス5、残りは小型艇。地球の船じゃない、バウンティハンターの集団だ』

「気をつけろ。確かボマーには兄弟がいたはずだ」グレイが警告する。

 麗子は啓作に励まされ通信席へ。ピンニョは一部武器を担当。

 明は主操縦席に座りつつ命令する。

「戦闘準備!敵艦隊を正面突破、そのままワープに入る!」

 早速麗子はワーププログラミングに入る。

 明はレーダー席の美理と通信席の麗子を見る。ふたりは必死に計器と格闘している。

「(すまない。君たちをここまで巻き込んでしまった。そのかわりに・必ず守る!守ってみせる!)アンテナバリアー出力上げろ!先制攻撃、プロトン砲発射!」

 サブコクピットのヨキが発射ボタンを押す。

 ボヴウウ――――ン。

 宇宙船数隻が粉々に吹っ飛ぶ。敵艦隊は散開し一斉に反撃。

 敵のビームはバリアーに弾かれる。

 ミサイル、続けてホーミングレーザー発射。

 <フロンティア号>はすれ違いざまに数隻を沈める。

 ドオン! 被弾。ミサイル1発が右舷に命中。

「爆発しない・・不発か」「ラッキー」

 敵艦隊を突破。

「ワーププログラミング出来ました」

 早い。明の席にワープインポイントデータを送ることも忘れていない。

「爆雷散布!」対ワープトレーサー用のチャフ入りだ。

「ワープ!」

 <フロンティア号>は11光年先にワープした。


 現在位置は地球から約2万光年。前方に惑星状星雲*が見える。蝶が羽を広げたような形をしている。さそり座方向にあるバタフライ星雲に似ている。

 地球の太陽と同じ位の質量の恒星は、一生の終わりに近づくと大きく膨らんで赤色巨星となる。赤色巨星からはガスが放出され、やがて燃えかすのような白色矮星が残る。白色矮星が放つ紫外線などで周囲の放出されたガスが輝いて見えるのが惑星状星雲だ。太陽が生まれたのは約50億年前、生涯を終えるのも約50億年後と考えられている。つまり太陽も50億年後にはこのような惑星状星雲を作ると考えられる。

(*昔望遠鏡で見ると惑星のように観測されたためこの名が付いた。こと座のリング星雲が有名=地球からの距離は2600光年、バタフライ星雲は3800光年の彼方にある)

「きれい・・でも星の最後の姿なんだ」美理がつぶやく。

 星雲内に突入。天王星型惑星の周りに広がる小惑星帯に隠れて、マーチンとグレイとヨキは船体に突き刺さった不発弾の処理に当たっていた。万一に備え特殊宇宙服を着て、グレイは船外から、あとのふたりは船内から。

「外ですまんな」

「いいや構わん。こっちは居候の身だ」

 船内。ミサイルの突き刺さった壁の亀裂が広がっている。

「直径1m全長5m程か・・おい、侵入部分がでかくなってないか?」

「金属腐食液を出して入り込んできている?不発じゃなくドリルミサイルみたいに内部に潜り込むタイプか」

 マーチンはバイザーに手を当て「内部スキャン。・・爆薬じゃない。気体?」

 次の瞬間、不発弾からガスが噴き出す。

「!!」 「毒ガス!」

 ヨキはとっさにESPでバリアーを張る。

 船の対ESPシールドが邪魔で力が弱い。自分の周りにしか張れない。

 ガスに曝された隔壁とマーチンの宇宙服にみるみる穴が開いていく。

 人体に有毒な成分と金属を腐食させる成分が含まれている。

 ヨキが叫ぶ。「対ESPシールドを切って!」

 ヨキは不発弾に近づき、タッチ。

 不発弾をテレポートでどこかへ飛ばす。

 空いた穴から毒ガスごと空気が船外へ洩れる。

「マーチン!」

 返事がない。空気の流出が収まるのを待つ。

 船外からグレイが駆けつける。ふたりでマーチンの宇宙服を脱がす。

 焼けただれ、どす黒く変色した皮膚が覗く。

 ヨキは吐きそうなのを堪え、マーチンと医務室にテレポート。

 ドボン。

 啓作の指示でマーチンをYRZ液の浴槽に放り込む。ナノマシンで自動修復する溶液だ。液内では呼吸が可能だ。

 ひとり残ったグレイは穴の開いた壁の応急修理を終える。

 何かの気配を感じてぱっと飛びのく。

 今までグレイがいた床に穴があく。

「!(何かがいる。目に見えない何かが。不発弾に乗っていた?)」

 銃を抜く。だが敵の姿は見えない。

 床に“魔法のメガネ”が転がっている。ヨキのポケットから落ちたようだ。

 グレイは左手でそれを拾い、ヘルメット越しに目に当てる。

「!(巨大なクモ?)うわっ見なきゃよかった」

 透明な10本足のクモに向け銃を撃つ。 跳ね返される。

「効かねーじゃねーか」クモの攻撃をかわす。

 扉の施錠が外され、白いものが駆け込んで来る。

 ボッケンは一直線にグレイの許へ。

 グレイは自分が斬られるんじゃないかと身構える。

「動くな!」ボッケンにはクモが見えている?

 ボッケンが走り抜けたあと、巨大なクモの死体が転がる。死んだら姿が見えるようだ。

 元ベムハンターのヨキなら名前が分かるかも知れないが、ふたりはその死体を船外に破棄する。このブロックを閉鎖し、医務室へ。


 透明な浴槽にマーチンが浸かっている。

 啓作が明たちに説明する。

「ガスの成分を分析してみないと分からないが、広範囲の熱傷だ。ガスを吸い込んでいなかったのが救いだ。気道熱傷は無い。でも予断を許さない状態だ」

「助かるんだな?」明が聞く。

「8割方はな」

「・・・」明は無言でマーチンに頭を下げる。

「(明くん)」美理は明を励ましたいが言葉が出てこない。

 ヨキは泣いている。こうなると12歳の子どもだ。

 明はヨキを抱きしめる。

「お前はよくやった。宇宙服を脱がせてテレポートしたのも正しい判断だった。すべては俺のせいだ」

「ハグしてくれるなら、美理ちゃんか麗子ちゃんがいい」ませガキ。

 明は無言で微笑む。

 コクピットのピンニョから通信が入る。

『敵艦隊をキャッチしたよ』

 明・美理・グレイはメインコクピットへ。ヨキとボッケンはサブコクピットへ。

 残った啓作が独り言を言う。

「あいつ、助からないって言ったら、デコラスに助けてくれと降伏していただろうな。J(医療用コンピューター)あとを任せていいか?」

「マカサレテ」

「私もついてる。何かあったら呼ぶから」青白い顔でシャーロットが言う。

 啓作も遅れてメインコクピットへ。

 美理がデータを読み上げている所だ。

「約20隻。先程と同じ艦隊です。こちらへ向かって来ます」

「マーチンの弔い合戦だ」ヨキが張り切る。死んでないって。

 先頭の重巡洋艦。その艦橋にいるのはボマーの長兄だ。ボマー兄弟は30人いる。

「ちっ。大した被害は出てないようだな。だがこれでどうかな」

 重巡がミサイルを発射。6つ。他の船からビームが発射される。

「!」ミサイルは先程の不発弾と同じものだ。

 明が命じる。「絶対に撃ち落とせ!」

 プロトン砲発射!

 ミサイル3つを撃破。

 ホーミングレーザーが2つを破壊。残り1つ。

 ミサイルが来る。姿勢制御。回避。

 旋回し戻って来るミサイルをレーザーで迎撃。 撃破。

「よし。仇はとる!」ヨキはプロトン砲を重巡に向ける。「え?」

 ターゲットスコープに映ったのは爆発を起こす重巡とそれに巻き込まれる数隻の敵艦の姿だった。

 大半の艦を失った敵は撤退する。

 明たちは何が起きたのか分からない。

「!」

 ズズーン。

 衝撃が<フロンティア号>を襲う。

「メインレーダーに被弾!でもバリアーで防げた」ピンニョが報告。

「弾道を計算、敵の位置を割り出せ」明が命じる。

 きょとんとする美理と麗子。

 ピンニョが「もうやってる・・左の小惑星帯の中!データを送る」

「攻撃を叩き込め!」

 プロトン砲・レーザーが左舷に向け発射される。

 小惑星が砕けるが、敵の姿も命中した様子もない。

「気をつけろ。ステルス艦か?」

 異様な静寂が辺りを包む。

 次の瞬間、ズズズズ―――ン。

 先程より激しい衝撃が船全体に伝わる。計器が一瞬真っ暗になる。

 船首のアンテナバリアー発生装置が吹き飛ぶ。それは防御力の低下を意味していた。

「ど、どこから?」 「バリアーを貫通したのか?」 

「攻撃ポイントを表示」 

 先程とは数キロ離れた小惑星帯がメインパネルに映る。敵機らしき姿はない。

「(通常)バリアー出力最大!小惑星帯から離れる!」

 上から光が走る。

 コクピットの少し前が吹っ飛ぶ。再び衝撃。

 美理の目の前の球形パネルが真っ暗になる。

「メインレーダー大破あ!・・サブレーダーに切り替えます」

 索敵性能は落ちる。

「正確に狙い撃ちしてやがる」啓作がつぶやく。

「めくら撃ちでいい、撃ちまくれ!弾幕を!ワープ準備!」

『人だ!』サブコクピットのボッケンが叫ぶ。『人がいた!』

 グレイが青ざめる。「殺し屋イエー!?」

「殺し屋イエ―?」明が尋ねる。

「超A級のスナイパー、一匹狼のバウンティハンターだ。逃げろ!」 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ