星の墓標③
『玄武!どういう事だ!』
『皇帝陛下に頼まれた荷物を届けただけだ。感謝しろ』
四天王同士が言い争う。このふたりは仲が悪い。キャラが被るから?
<フロンティア号>の速度が落ちる。
「どうした?明!」啓作は隣の明を見る。
「う・うう・・」
明は頭をかかえて苦痛に堪えていた。意識がうすれていく。
「明!」
「やっぱり」
美理はシートベルトを外して、明の許へ走る。
「明くん!」
自分のカチューシャを外し、明の頭に付ける。
驚く啓作に美理が説明する。
「例の集団催眠の影響を受けているのよ。船の対ESPシールドのお蔭で最初は平気だったけど、効果が蓄積したのかESP波が強いのかわからないけど・・このカチューシャは対ESP効果があるから防げるかもしれない」
啓作は妹の観察力に感心していた。
「はっ」明が気づく。
「行けるか?」啓作が聞く。
「何が?」ピンクのカチューシャはおそろしく似合わない。
不安はあるが、エースパイロットに対抗できるのは明しかいない。
啓作は一言、「頼むぞ」
美理は急いで自分の席に戻る。麗子が親指を立てて合図。
その間にも<フリーダム>は猛スピードで<フロンティア号>に迫る。
明はつぶやく。「ブラッド・さんか?」
<フリーダム>のコクピット。
ジョーカー=ブラッドは無表情で前を見据えている。相棒のシュガーはいない。
ためらいもなくトリガーに指をかける。ビーム発射。
明は難なく左上へ避ける。そのまま<フロンティア号>は再び“渦”の中へ突入。
それを追って<フリーダム>も渦中へ。
「速い!」
瞬く間に距離が縮む。
<フリーダム>に搭載された大型砲が旋回、火を噴く。
うまく避けたのだが、バリアーが一瞬かき乱される。凄いエネルギーだ。
「プロトン砲だ」マーチンがぽつりと言う。
海亀みたいな形状の<フリーダム>の機体の上下に各一基ずつプロトン砲が装備されている。<フロンティア号>のものより小型で砲身は短い。
「プロトン砲安全装置解除」スタンバるヨキに、
「待ってくれ。・・逃げ切ってみせる」
明は速度を上げる。
<フロンティア号>のバリアーに次々と微惑星が当たる。
それでも振り切れない。
後方を向くプロトン砲は<フリーダム>をロックオンしている。
しかしヨキは撃たない。
ロックオンに気付いた<フリーダム>が離れる。
「・・(ありがとう)」明はヨキに感謝。
「後方。ミサイル多数!」
「防御レーザーは使うよ!」
迎撃。ミサイルを破壊。
『左前方に第7原始惑星!』再びボッケンから伝令。
原始恒星系の最果て。元々恒星からも遠く、凍りついている。
「反重力爆雷!」
星間物質の嵐を<フリーダム>はもろともせず迫る。
明は船を第7原始惑星に向ける。
星の周りを回って加速する。一気に恒星系外へ飛び出すつもりだ。
美理と麗子はGや衝撃に震えながら座っている。
「!」
美理は胸に違和感を感じる。
「苦しいの?啓・・」
麗子は啓作を呼ぼうとするが、美理に止められる。
「大丈夫。たいしたことはない・・すぐ治まるから」
心配そうな麗子。美理の背中をさする。
「<フリーダム>ロスト!・・振り切った?」グレイは笑みを浮かべるが、
『星の反対側を周ってる。前から来るよ!』とボッケン。
星を半周し正面より接近する二機。
互いにレーザー発射。
バリアーを貫通しメインコクピットの横・サーチライトに被弾。こちらのは外れ。
すれ違う。
そのまま回頭。<フリーダム>の方が早い。
プロトン砲が来る。
明は機体を傾け辛うじて避ける。
「プロトン砲出力落として撃っていい?」ヨキがたずねる。
「もう少し・・」
「明。お前はリーダーだ。仲間の安全を第一に考えろ」
「・・・」啓作にそう言われ、明は何も言い返せない。
「他の二機と違ってバリアーが強力だ。出力50%位じゃ傷もつかん」啓作が付け足す。
「速度。小回り。武装。どれも相手の方が上だ。遠慮はいらないよ」とマーチン。
「・・ていうか、それじゃ勝てねえじゃねーか」ヨキがつっこむ。
啓作が助言。「あとはパイロットの腕だ」
「それも負けてるし」ヨキがつぶやく。
啓作は首を振り、「催眠状態なら躊躇はしないし疲労も少ない。でも100%の力までしか出せない。勝算があるとしたら・・そこだ」
「100%以上の力・・火事場の馬鹿力ってことか」
ぶつかり合う微惑星。
無数の破片の飛び交う中をゆく二機の宇宙船。光の軌跡が残る。
<フリーダム>が後ろにつく。プロトン砲発射。
<フロンティア号>はきりもみ状態で避ける。
針路上の微惑星をレーザーで破壊、そのまま爆炎の中を直進。
「撃て!」
ヨキは後方へ向け出力を弱めたプロトン砲を発射。
<フリーダム>もプロトン砲発射。
相殺。やはり威力はこちらの方が上だ。
明は疲労の色が濃い。いくつ攻撃をかわしたか分からない。
「がんばれ」
美理の声が聞こえた気がした。明は一瞬微笑む。すぐに「アンカー!」
微惑星に光子錨を打ち込む。急制動。
やり過ごし後ろをとる。アンカー解除。
レーザーを撃つピンニョ。
エンジン制御するマーチン。
回避ルートを教えるボッケン。
明がつぶやく。
「もう一つ・・こっちにしかないもの・・それは・仲間だ!」
レーザーが<フリーダム>の翼に命中。
無表情のブラッド。損傷は軽微だ。
「明、暗黒星雲へ向かえ」
「え?」
明は啓作の意見に同意しかねる。暗黒星雲の中でもレーダーは使えるが、有効範囲は狭まる。ボッケンの目の優位性もなくなる。
「考えがある。うまくいけば・だが」
「了解」
明は操縦桿を倒す。
<フロンティア号>は渦の“下“に出る。
「エンジンフルパワー!」
ドギャアアーーーンンン 力強い咆哮。
「暗黒星雲に突入する!」
暗黒星雲。
それは可視光線波長を発していない星雲(宇宙空間に漂う星間物質の集合体・星間分子雲)。背景の星などを覆い隠してしまい、そこだけが黒っぽく見える。オリオン座の馬頭星雲(地球から1100光年)が有名。暗黒物質とは全く関係ない。
そこは星が新しく生まれる場所。ナカトミ原始恒星系の周りには暗黒星雲が広がっている。いや暗黒星雲の中に恒星系が生まれたと言うべきだ。
明たちは窓の表示を赤外線映像に切り替え、“黒い霧”の中を飛ぶ。
暗黒星雲の中は星間物質が濃いだけで、光を反射しないわけではない。
宇宙船の飛んだ後に“光の道”が一瞬現れる。
無言でブラッドはトリガーを握る。ブラスター発射。
『左!』
ボッケンの指示で明は操縦桿を動かし、ビームを避ける。
「照明弾!」ダメもとで後方へ発射。
目くらまし目的だが、予想通り自動明度調整のため効果はない。
<フリーダム>は続けてプロトン砲を発射。
「!」
垂直上昇。 避ける。
荷電粒子により暗黒星雲を構成する水素分子が電離し発光する。花火の様に、暫く光ったあと、それは消えて闇に戻る。
「そろそろいけるか?・・明、操縦を代わる。呼びかけてみろ」
啓作が操縦桿を握る。操縦交代。
「?」明は啓作の意図を理解出来ずにいたが、マイクのスイッチを入れる。
息を吸い込んで・・「ブラッドさん」
返事はない。
その間にも<フリーダム>の攻撃は続く。
啓作は上下左右に避けながら飛行を続ける。
「やめてくれ、ブラッドさん!俺たちは敵じゃない!」
『ザー』返信なし。
逃げる<フロンティア号>。追撃する<フリーダム>。
唐突に<フリーダム>の攻撃が止む。
『ザー・・俺は・・何を・・ザー』
「ブラッドさん!」
『アキラ、君か・・すまない。俺は・・』
「暗黒星雲の中では特殊ESP波は弱まる。発信源の戦艦から離れたので“呪縛”から逃れることができたんだ」啓作が説明する。
「どうなった?」
旗艦のブリッジで白虎が部下に尋ねる。
「わかりません。<フリーダム>は高速移動中、依然交戦中と思われますが、距離があいており暗黒星雲の中ですし、状況は不明です」
白虎は少し考えて、命令する。
「反物質ミサイル発射!」
「狙いがつきません」
「両者は近くにいるはずだ。<フリーダム>の識別信号にロックオンさせろ」
旗艦から大型ミサイルが発射される。
それは暗黒星雲の中に消えて行く。
用語説明
ESP :超能力もしくは超能力者
ESPバリアー :エスパーが張る防御用のバリアー
対ESPシールド:エスパーによる攻撃(テレパシーやテレポート等)を防ぐ特殊バリアー




