星の墓標②
<フロンティア号>は星間物質が渦巻く暗い空間を進む。
光は無く、原始惑星が迷走・漂っている。
「ホントだ。太陽が見当たらない・・」
「星が、恒星が消えてしまうなんてあるのか?」明が尋ねる。
「超新星爆発や白色矮星、中性子星の反応も無い。本当に星が消えてしまったのか?」
「移動性ブラックホール?・・反応無しか」
グレイとボッケンの報告を聞いた明は、「どう思う?啓作」
「原始惑星や微惑星は公転しているが、次第に軌道が外へ逸れて行っている。その中心に恒星は無い。だが原始恒星周囲にできる双極分子ガス流の名残がある。恒星が消えたのはつい最近だ」
「救難信号元の第2原始惑星に接近」
大きさは水星に近い。できたての惑星。所々赤い火のようなものが見える。マグマ?
「拡大投影」
凍りつき廃墟と化した建物が見える。
「生命反応なし。無人観測施設でした」
「無駄足だったか」
「あの施設を調べたらこの恒星系に何が起きたのか分かるかも知れないが、今は先を急ごう」
「重力震キャッチ!大型の戦闘艦!」
<フロンティア号>はステルス化し原始惑星の陰へ隠れてやり過ごそうとする。
「単艦?」「データが無いわ。地球のでも銀河連合所属の船でもない」
「いや」メインパネルに映る宇宙戦艦を見てグレイが反論する。「最新鋭の地球連邦の戦艦だ。極秘ファイルを見た事がある。つまり・・」
「デコラス軍か」
戦艦艦橋。ニヤリとする筋肉質の大男がいる、四天王の白虎。
白虎はサジタリウス腕へ侵攻していたが、皇帝のお気に入りの宿敵の出現に自ら指揮を執るべく馳せ参じて来たのだ。
遅れて第66艦隊がワープアウトして来る。
「白虎将軍。第2原始惑星の救難信号は自動発信されているようです。敵の反応はありません。すでにこの星系を離れたのでしょうか?」
部下の報告に、白虎が答える。
「救難信号を無視できる連中じゃない。まだこの星系にいるはずだ。探せ!」
宇宙空母から無人艦載機が発進する。
「兄き」
ボッケンが呼ぶが、明は答えない。
「兄き!」
「わ。びっくりした。何だ?大声出して」
「?・・ボクはサブコクピットに行くよ。有視界戦闘に備える」
「コーティング*忘れるなよ」 *宇宙服に近い気密性を作るスプレーのこと
その光景を見ていた美理にある疑惑が生まれる。
「ピンニョちゃん。人々を操っているという特殊ESP波って地球から出てるの?」
「地球のが一番強いけど、いくつかの基地や船からも発信されてるみたい。一番近いのは、ほら、あそこの大きい船」
ピンニョが指したのは白虎の乗る大型戦艦だ。
ボッケンの代わりにグレイがレーダー席に着く。
荒れ狂う嵐の海の如きこの宙域で小型機の航行は自殺行為だ。
案の定、漂う微惑星と衝突、爆発する。だがその爆発で動いた微惑星が<フロンティア号>に接触、ステルスバリアーが解ける。
白虎の顔に笑みが生まれる。
「やばっ!」
「緊急発進!」
敵戦闘機が襲来。
「じゃま!」
ホーミングレーザーで無人戦闘機を撃ち落とす。
<フロンティア号>は砲火の中を進む。姿勢制御、原始惑星に対し背面飛行に移る。
明が命じる。「ヨキ、後ろの惑星表面をプロトン砲で撃て!」
「え?・・わかった」
プロトン砲が回転し後方を向く。
やや仰角を上げ、発射!
エネルギーの束は艦隊ではなく、原始惑星の凍った地面に命中。凍った溶岩の層を貫く。
次の瞬間、開いた穴とその周辺から溶岩が次々と噴き出す。
「太陽は死んだが、惑星はまだ死んではいない」
溶岩は艦隊を飲み込む。無人戦闘機が爆発。恒星突入能力を持つ敵艦にダメージは与えられないが、驚いたはずだ、目くらましと時間稼ぎにはなる。
数十秒後、噴き出した溶岩は凍りつく。数隻の敵艦を捕らえた巨大な氷の柱が残る。
「全速力でずらかる!」
「あったりめーだ。50隻はいるぞ」
<フロンティア号>は第2原始惑星を離れ、恒星系の”渦の上”へ向かう。
上昇角は低い。ワープするなら星間物質の少ない垂直方向へ転進するべきだが、ワープで振り切れるとは思えなかった。
艦隊が追撃。発砲して来る。
<フロンティア号>は“渦の上“ぎりぎりを系外へ向けフルスロットルで駆ける。
艦隊は追いつけない。距離をかせぐ。
「ワープミサイル!」白虎が命じる。
「重力震!」シャーロットが叫ぶ。
明は操縦桿を倒す。
<フロンティア号>は再び“渦”の中へ。
後方でワープアウトしたミサイルの爆発が起こる。
「アンテナバリアー展開」
濃密な星間物質が広がる。微惑星を避けながら“渦”の流れに乗る。
「潜ったのか」
白虎は艦隊を二手に分けた。一方は<フロンティア号>を追って“渦の中”へ。もう一方は”渦の上”をそのまま航行する。
“渦の中”でもレーダーは効くが、有効範囲は狭い。そのためボッケンは視界の広いサブコクピットで目による情報収集をかって出た。
『右前方・微惑星群!』ボッケンから伝令。
明は船を左へ向ける。
微惑星をもろともせず白虎の大型戦艦が向って来る。 発砲!
自動追尾は効かない。微惑星が盾となる。
戦闘を避けて<フロンティア号>はひたすら逃げる。
ビームの雨の中、無数の障害物をよけながら猛スピードで進む。
「追いつけません」“渦の上“を行く艦隊ですら引き離される。
部下の報告を受けた白虎は命じる。
「奴らを出せ!」
空母より2つの機体が発進する。
<フロンティア号>は原始恒星系の中を外側へ向け逃げ続ける。
「どうだ?」
「艦隊からは離れたけど、高速飛行物体が接近中!」グレイが答える。
「追いついて来たって事か?こっちは目いっぱい飛ばしているんだぞ」
「照合。<タイガーホース><デスウィング>」
「!」明はシャーロットの分析結果に動揺する。
美理がつぶやく。「ハレーGPに出ていた機体だ」
「え?」隣の麗子が驚く。
<タイガーホース>は優勝候補だったがエンジントラブルで棄権した機体。そして<デスウィング>はハレー彗星を地球にぶつけるテロを仕掛けた機体。どちらも強敵だ。
二機からブラスターが発射される。
ビームは微惑星に阻まれる。星を粉々に粉砕する。
「武装してる!」
ヨキがあわてるが、よく考えたらお互い様だ。
「操られているのか」
明のつぶやきに啓作が答える。
「降りかかる火の粉は払うしかない」
「エンジンはまだまだいける」マーチンが励ます。「レースのけりをつけようぜ!」
明は前を見据え、「全速前進!」
プロトン砲を後方に向けたまま<フロンティア号>は更に速度を上げる。
それを追う二機は二手に別れる。
<タイガーホース>はそのまま“渦の中”を飛行。後ろより攻撃を仕掛ける。
<デスウィング>は”渦の上”に出る。
追い越さず<フロンティア号>に並行して飛ぶ。砲塔が旋回。上から攻撃。
姿勢制御。明は機体を回転させて、両方のビームを避ける。
第二波。第三波。敵の攻撃は断続的に続く。
”渦の上”にいる<デスウィング>は<フロンティア号>の前に出て、斜め上方から砲撃を仕掛ける。真後ろからは<タイガーホース>が迫る。
明はメインエンジンの出力を最小まで落とし、「逆噴射!」
急ブレーキ! 前方を<デスウィング>のビームが上から下へぬけていく。
衝突を避けるため、後方の<タイガーホース>は上へ逃れる。
「そこっ!」
ホーミングレーザー発射!この宙域ではホーミングしない。直進するだけ。
<タイガーホース>に命中。バリアーで弱められるが機関部を破壊する。
戦闘用ではなくレース用の機体のため、防御力は無いに等しい。航行不能で済んだのは奇跡だ。
「こんなのを実戦投入するなんて」動揺する明たち。
そこへ右前方から<デスウィング>の発射したミサイルが来る。
明は操縦桿を倒す。フットスロットルを蹴とばす。さらに姿勢制御。
かわせる。だがミサイルが爆発!近接信管だ。
辛うじてバリアーに守られる。
ヨキが汗を拭う。
この間に<デスウィング>は後ろに回り込む。
明はその攻撃を避けながら、”渦の中”を飛ぶ。
『前方に第5原始惑星!』
サブコクピットのボッケンからの伝令。レーダーより早い。
すでに地球の2倍程の大きさ。将来は木星クラスのガス惑星になるはずだった星だ。
瞬く間に第5原始惑星のそばを通過。
「反重力爆雷!」
明の号令に合わせ、マーチンがスイッチを押す。
バシュ。バシュ。 パアッ
反重力爆雷は推進力のない反重力兵器だ。重力を反重力に変える。
<デスウィング>は重力遮断シールドを使用。反重力の影響を受けない。
だが第5原始惑星の反重力により、星間物質がかき乱される。渦が竜巻に変わる。
「!」
巻き込まれた<デスウィング>は微惑星の衝突を受ける。航行に支障ないが、速度は落ちる。<フロンティア号>との距離が広がる。
「役に立たん連中だ」怒る白虎。
明は操縦桿を倒し、”渦の下”に出る。
「このまま逃げ切る。ワープ準備」
「まて。重力震だ!」
右前下方の空間が歪む。宇宙船がワープアウトして来る。
玄武の大型戦艦。そこから宇宙船が発進する。
その機体の名は<フリーダム>。




