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銀河はるかに⑤

「はっ」

 麗子が起きたのは12時間後だった。昨夜は美理とは別室、ここはシャーロットの居室だ。

 急いでスペーススーツに着替え、顔を洗い、髪を整え、コクピットへ。

「すみません。遅くなりました・・!?」

『さあ真理女代表・山岡、最後の挑戦です。バーの高さは1m98。重力1.05のルリウスで鍛えた山岡、結果を出せるか?』

 コクピットのメインパネルに映っていたのは麗子の陸上大会の映像だった。

 走り高跳び。空気抵抗を極限まで減らした水着の様な服。身体のラインが丸わかり♡。もちろん反重力シューズや重力遮断繊維やナノ風車マシン等は認められていない。バーを見る真剣な表情が麗しい。

『助走にはいる』

 麗子は徐々に速度を上げ、ジャンプ。背面飛びでバーを跳び越す。クッションに着地。だがバーが落ちる。

「おー」「惜しい」明とヨキが歓声を上げる。「使える」何に使う気だ。

「なな何を見てるんですかあー」麗子吠える。

「惜しかったね」ヨキが励ます。もう二ヶ月以上前の事なんですけど。

「集団催眠のチェックだよ」啓作が答える。

 きょとんとする麗子に話を続ける。

「サッカーのユニバーサルカップや流行りのドラマの放送ビデオを調べたら催眠ESP波を検出した。これは大丈夫みたいだな」

 明は入院中にユニバーサルカップのビデオを観ている。今のところ異常はみられない。

 麗子は渡されたリストを見る。「このドラマ、朋ちゃんがハマってた奴だ」他にリストにはニュース番組やヒットアニメなど視聴率の高い番組が書かれている。

「はい」ヨキが対ESP用のメガネと耳栓を渡す。「これ付けた方がいい」

「短時間の視聴なら問題ないわ。それよりおなかすいたでしょ。食堂に食事置いてあるから食べてきなさい。持って来てもいいわよ。食べ終わったら通信担当して」

「はい。ありがとうございます」麗子は返事しつつ美理の姿を探す。

「美理ちゃんなら買い出しに行っているわ。マーチンとグレイとボッケンもね」

 <フロンティア号>は貨物船に化けて<すばるステーション>に入港し、食糧調達中。美理が修学旅行で来たと案内役をかって出たらしい。方向音痴なのに。

 

 プレアデス星団観光用の宇宙ステーション<すばるステーション>は無人と化していた。一行はホログラフで老人に化けている。ボッケンは大型犬の姿。案の定、迷子になったが、ボッケンの嗅覚で解決。

 食糧を買い込んで、無人レジでお会計。カードではなく現金払い。マーチンがポイントカードを出そうとしてグレイに止められる。身元がばれるおそれがあるからだ。後でわかるのだが、この時点で彼らの預金はすべて引き出されていた。

「美理ばあさんや、そろそろ帰ろうかのう」

「そうしようかね、グレイじいさん」 

 老人に化けたのには理由がある。監視カメラ対策だ。敵の監視の目がどこにあるか分からない。デコラスの集団催眠で操られている人々は80歳以下だった。それより年配者や病人は星に残っている。大銀河帝国に不要と判断されたのだ。

 残された人々がどうなるのか?看護や介護のロボットがいるが・・。でも自分たちには何もできない。無力だ。

「ごめんなさい」反重力カートを押しながら美理はつぶやく。


 大量の食糧を買い込んでマーチンたちが帰ってきた。全員がコクピットに集まる。

 明は咳払いをして、「これからどうするか決めよう」

 選択肢は以下の三つだ。

 ①地球へ行きデコラスを倒す

 ②逃げる

 ③仲間を探す=反乱軍を組織する

「①が理想だが250億の地球人と戦うことになる。現実的ではない」グレイが即答。

「②の逃げるってどこへ?」ヨキが啓作に尋ねる。

「パラドックス帝国(大銀河帝国と言うのに抵抗がある)はパンゲア星や十字星雲に集結して銀河中心のあるサジタリウス腕方面への侵攻を準備しているようだ。逃げるなら反対側のペルセウス腕方面になる」

「ペルセウス腕か。ハレーGPに出てたハット&ラーの故郷がある」明がつぶやく。

「③は?俺たちのように集団催眠にかかっていない人がいるかもしれない」

「あら」麗子は通信が入っているのに気づく。ヘッドフォンをかける。

『山岡麗子はいるか?』

「!」聞こえてきたのは自分の名を呼ぶ男の声だった。

 それまで黙っていたシャーロットが手を上げる。

「父に、銀河連合で地球大使をしている父に会ってみるのはどうかしら?少しは頼りにはなると思う」

「そうだった」 「それいいじゃん」

「父はかなり厳しい立場にあると思う。集団催眠にかかっていなければいいけれど」

「敵の侵攻より先に銀河連合本部へ行こう。敵とみなされるかもしれないが、それがベストだと思う」

 明の意見に皆がうなずく。ただひとり麗子を除いて。

『お前の家族は私の手の中にある。殺されたくなければマイクのスイッチを入れろ。』

「!!(ああ・・)」

 通信を聴く麗子は青ざめる。目を閉じ声も出ない。

『スイッチを入れるだけでいい。それでお前の親は助かる。』

 マイクのスイッチを入れればこちらの位置が分かってしまう。

「・・・・」

『山岡麗子はいるか?お前の・・』メッセージはエンドレスで流れている。

「私は・・」

 麗子は歯を食いしばる。涙が頬を伝う。

 手がマイクのスイッチに伸びる。・・押せない。

「あ」次の瞬間。明にヘッドフォンを取られる。

「デコラス!」

 メッセージを聴いた明はスピーカーのスイッチを入れる。

『お前の家族は私の手の中にある。殺されたくなければマイクのスイッチを入れろ。』

 美理は眼を見開き麗子を見つめる。

 視線が集まる。麗子への同情、それよりもデコラスへの怒りが勝る。

「だめっ」

 麗子の制止も聞かずに、明はマイクのスイッチを入れる。

「デコラス!俺たちはここだ!逃げも隠れもしない!!」


「逃げて隠れてるんだよ」啓作がつっこむ。その口元は笑っている。

「メインエンジン始動!」副操縦席に着きながらマーチンが叫ぶ。

「プロトン砲スタンバイ」グレイは副戦闘席へ。

「ワーププログラミングにはいります」シャーロットは麗子と交代し通信席へ。

 最後尾には美理、麗子、ヨキの三人が座る。美理が無言で麗子の手を握る。

 ピンニョの籠は空いたまま。

 レーダー席のボッケンが言う。「重力震キャッチ!来るよ!」

「<フロンティア号>緊急発進!」明の号令と共にGがかかる。

 船は<すばるステーション>を離れ、プレアデス星団の方向へ向けて飛び立つ。

 その後方の空間が歪む。何十隻もの宇宙船が姿を現す。

 プレアデス星団を構成する恒星は(地球の)太陽よりも若く明るく熱い。艦橋の窓は自動で明度を調節するが、まぶし過ぎて追いつかない。朱雀は手で光を遮る。

「・・こちらの位置と星団の位置を瞬時に見極められるのか」

「<フロンティア号>補足」部下が報告する。

「全艦総攻撃!」

「お待ちください。皇帝陛下から通信です」

『朱雀。』

 朱雀はひざまずく。もちろんガルーダもだ。

 スクリーンに映像は無い。時々デコラスの姿が映るが、ほとんど声だけだ。

「どうした?」朱雀が部下に尋ねる。

「散開星団に近すぎるためと推測します」

『計画変更だ。銀河連合艦隊がアルデバラン周辺に集結している。<スペースマン>如き雑魚は放っておけ!』

「白虎と青龍は?突破されたのですか?」

『命令する。直ちにアルデバランへ急行せよ!』

「ハッ!」

 ガルーダは納得いかなかったが、皇帝の命令は絶対だ。

 監視のための数隻を残し、艦隊は反転しワープでプレアデス星団を離れる。


 <フロンティア号>のコクピットでは、

「名演技だったでしょ」ピンニョがウインクしながらしゃべる。

 先程の通信はピンニョがデコラスの声を真似した偽物だった。

「上手い上手い」ヨキが拍手。

「正直、ガルーダに通じるとは思わなかった」

「もういいのか?」

 ピンニョはにっこり笑い、「心配かけました。もう大丈夫」

 明は前を向き直し、「ずらかるぞ」

「待ってください。私を降ろしてください」麗子が嘆願する。

「だめだ」明は即答。

「だって私は・家族を人質に取られて・・迷惑を・・」

「人手が足りない。それにヨキとマーチンの家族も行方不明だ。おそらく同じだろう」

 麗子は驚いてふたりを見る。

「ま俺たちの場合、勘当されてるようなもんだけどな」とマーチン。

「行こうよ、麗子ちゃん」ヨキが手を差し出す。

「君が来てくれると助かる」

 グレイにそう言われて麗子は頬を赤らめる。隣で美理が手で笑った口元を隠す。

「はい。ありがとうございます。よろしくお願いします」

 麗子は深くお辞儀をする。涙が床に落ちる。

「<フロンティア号>発進!」

 <フロンティア号>はエンジンを全力噴射。

 連続ワープで追跡する敵艦を振り切る。


 オリオン腕の端にある移民星パンゲア。

 その近くの宙域に無数の地球連邦改め大銀河帝国艦隊が集結していた。

 艦隊旗艦の艦橋に立つのは四天王の一人・白虎。筋肉モリモリの大男。肩までの長い髪を後ろで束ねて(ヨキと一緒)ワイルドな雰囲気、まるで格闘技チャンピオンだ。

 白虎は腕を組んで前を見据えていたが、右腕を上げて命令する。

「進撃!」

 平和な時代は終わった。


 連続ワープにグロッキーの美理と麗子は医務室で横になっていた。

 明が見舞いに来る。「大丈夫か?」 

 首をふる二人。 

「あったま痛い」「くらくらする」

「歩ける?見せたいものがあるんだ」

 三人はサブコクピットへ来る。別名展望室だ。

「わあ・・」

 窓の外に見えるのは、全天を占める銀河の姿。一言で言えば荘厳。

 なぜか涙が出てくる。

 毎日繰り返される日常。授業、部活、食事、友達とのおしゃべり、なにげない普通の日常・・それが宝物だったんだ。幸せだったんだ。

「こんなにきれいなのに・・・」

 <フロンティア号>は銀河外郭を進む。  


NGシーン


「あら」麗子は通信が入っているのに気づく。ヘッドフォンをかける。

『はあはあはあ・・ねえちゃん何着て寝てるの?』

 ガチャン。←切った


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