銀河はるかに④
絶体絶命。
朱雀が微笑む。
その時、ひとつの光が来る。
それは<フロンティア号>に迫るブラスターに命中。これを飛散させる。
そのまま光はナルシーへ・・・
星を覆うバリアーを貫き、ナルシーに突き刺さる。亀裂が広がる。
「!!!」大爆発。
ナルシーは粉々に砕け散る。接舷していた艦隊は吹き飛ばされる。
その破片は細かい流星となってルリウスに降りそそぐ。
「・・・」
明たちは誰も声を出せない。
我に返った啓作が「明!逃げるぞ!」
明が操縦桿を倒す。
「エンジン全開!フルパワー!ブースターも使え!」
<フロンティア号>は全速力でルリウス星を離れる。
美理と麗子は遠ざかる故郷を見続ける。
街はいつもと変わらずにそこにある。
だが住宅地は静まり返り、夕日に映える学校に生徒の姿はない。
美理がつぶやく。
「さよなら、ルリウス・・」
旗艦の艦橋で朱雀が言う。
「何が起こった?・・あのエネルギー弾はどこから来た?」
「探知不能。突然現れたとしか・・」部下が答える。
『朱雀。』通信先のデコラスが命じる。『追え!何として奴らを倒せ!』
「はっ」
残存艦隊32隻は追撃に移る。
元地球連邦本部・現大銀河帝国総司令本部。
デコラスの隣でその光景を見ていたジェラードがつぶやく。「次元衝撃砲?」
そこへ一人の男が現れる。
囚人服を着たパラドックス首領リッターブーン。拍手をしながらデコラスに近づく。
「よくやった。デコラス」喜ぶリッターブーン。「これで我がパラドックスは・・」
「何か勘違いをされているようですね。」
そう言うとデコラスは拳銃を抜き、リッターブーンの額に当てる。
ドキューン。
どさっ。リッターブーンは倒れる。
玄武は激しい悪心を感じるが、それがなぜかは分からなかった。
デコラスは銃をホルスターに納め、再び朱雀に命令する。
「必ずフロンティア号を仕留めろ!どれだけ犠牲を出しても構わん!」
ルリウス星を離れた<フロンティア号>は約30光年先にワープアウトする。
そこは星のない恒星間空間。つまり何もない真空の宇宙空間だ。
「凄い威力だった・・俺たちに味方がいるのか?」
明の独り言。誰も答えられないのは分かっている。
シャーロットは必死にワーププログラミングを組む。追手がワープアウトするより先にワープインすれば追跡装置は働かない。
マーチンは囮ミサイル(デコイ)を放出する。
「重力震!」ボッケンが危機を告げる。
「できました!」シャーロットが言い終わらないうちに、明は叫ぶ。「ワープ!」
<フロンティア号>がワープすると同時に追撃してきた敵艦隊がワープアウト。
一瞬遅れてデコイがワープする。
「ワープトレーサー!」朱雀が命じる。
敵艦隊は再びワープに入る。デコイを追って・・・ 行き先は暗黒星雲の中だ。
<フロンティア号>はプレアデス星団の近くにワープアウトする。
「うまくまいたようだな」啓作が言う。
クルーからため息が洩れる。
皆疲れ切っていた。
美しいプレアデスの青い光。
ふたりの少女はぼーっと外を眺めている。たった数か月前に修学旅行でここに来たのがずっと昔のようだ。涙がふたりの頬をつたう。
明は声をかけようとしたが、言葉が出てこない。皆に向かい提案する。
「ステルスバリアーを張り、休息しよう」
青い星団をバックに<フロンティア号>の姿はかき消すように見えなくなる。
「やることは山ほどある。まだ休まなくてもやれる」
そう言うマーチンに、明は首を横に振る。
「今は休もう。明日のために」
「ぐおおおおお・・・・すぴ~・・ぐおおおおお・・・」
明は大いびきをかいて眠っている。徹夜で操縦を続けて、もう限界だった。
同室のボッケンは医務室に避難。治療液に浸るピンニョの無事を確かめ、ソファで寝る。
麗子は泣き疲れてようやく眠りにつく。ハンガーにかかる制服が静かに見下ろす。
「おやすみ」
見守っていたシャーロットはそっと離れて二段ベッドの下段に移る。今日だけの部屋変更。兄妹をふたりにしてあげたかったから。
啓作と美理の兄妹は二段ベッドの上下に寝ている。
「美理、聞いておきたいことがある」
「なあに?」
「十字星雲で“シンクロ”を使った後、お前は『この子帰りたがってる』と言った。あれはどういう意味だ?」
「私そんなこと言った?・・覚えてな・い・・」
「この子って<フロンティア号>のことじゃないのか?」
返事はない。寝息が聞こえる。
「・・・」
啓作も目を閉じる。すぐに寝息を立てる。
コクピットのソファで寝ているのはグレイ。
全員が寝静まっている中、機械は動き続けている。
ヨキとマーチンも自室で眠りの中。突然マーチンがガバッと飛び起きる。
「しまった!食糧積むのを忘れていた!」
<フロンティア号>最大のピンチである。




