銀河はるかに①
第3章 銀河はるかに
見えない“箱”に閉じ込められた麗子は、傷ついたピンニョを手に包んだまま、美理の後ろ姿を見つめる。
美理は竹刀を中段に構え、朱雀と対峙している。
「手を出すな」
部下にそう言うと、朱雀は二本のビームダガーを抜き両手で構える。
肩にとまっていた青い小鳥は空に飛び立つ。
美理は意外と落ち着いている自分に驚いた。
いま戦えるのは自分しかいない。その責任感と開き直りが彼女を強くした。
相手は何とか四天王と言った。相当強いはず。こちらは殺傷力のない竹刀、勝っているのはリーチだけ。
「ふう」美理は呼吸を整える。「はあっ!」狙うは一点のみ。
朱雀はじりっじりっっと間合いを詰めて来る。
美理はゆっくりと後ろにさがるが、あと数歩で麗子たちの捕らわれている“箱”だ。リーチを生かすには打って出るしかない。
ザッ。地面を蹴る。
「小手え!」叫ぶ。
朱雀の右腕を狙う・と思わせて、そのまま突き!
満身の力をこめた一撃は朱雀の喉に決まる。不意をつかれた朱雀が宙に舞う。
ドスン。地面に落ちる。
部下の黒服達は啞然としている。
「気をつけて・・本体はそいつじゃ・ない」麗子の手の中でピンニョが言う。
「え?」
上空から青い物体が急降下。
スカートがまくれる。風が通り過ぎたあと、美理の持つ竹刀が真っ二つに斬れる。
「!!」
青い小鳥が電燈の上にとまっている。
ガルーダ。ピンニョと同じ改造された元実験動物だ。
「朱雀の本体はあの鳥、女は操り人形だ」ピンニョが説明する。
「娘を捕らえよ」
ガルーダがそう命令したのと同時だった。彼のいた電燈が吹っ飛ぶ。遅れて銃声。
次の瞬間、美理の目前に明がテレポートして来る。
「きゃっ」
起きかけた朱雀(*)と衝突。明が押し倒す形になる。再び彼女は気を失う。明の手が胸を触っているのは偶然か?本能か?
(*ガルーダが朱雀の本体だがややこしいので、操られている女性の方を朱雀と呼ぶ)
黒服達をパラライザーで黙らせて、明は美理に駆け寄る。
「明くん!」
ドン。胸に飛び込もうとした美理を明は突き飛ばす。美理は“箱”に衝突。
ガルーダが来る。
明は銃を構えるが、諦めて体をひねり、避ける。
羽手裏剣が明の脇を掠め地面に突き刺さる。ガルーダはふたりの傍を飛び去る。
明は銃を構え直すが、追いつけない。
明は朱雀から奪ったカードキーを操作する。ピッ。
麗子とピンニョを閉じ込めていた“箱”が消える。喜ぶ少女たち。
そこへヨキがテレポートしてくる。
「手を!手をつないで!」
手をつなぐ四人と一羽。ヨキは触れたものしかテレポートできない。
屋上の駐機場に停まっているWC-001の中にテレポート。
エンジンをかける。
ガシャーン。天窓を突き破り、ガルーダが向かって来る。
緊急発進。WC-001は垂直に飛び上がった後、エンジン全力噴射。
Gがかかる。迫り来るガルーダを引き離して、機体は上昇して行く。
「ふう・・みんな無事か?」
操縦しながら明が尋ねる。
「なんとか」
ピンニョが答える。傷が痛むのか顔をしかめる。
「はい」
麗子も元気ない。家族が敵の手に落ちたからだ。
「大丈夫・・」そう答えた美理だが、
瞳に前席に座る明が映る。ぽろぽろ・・その瞳から大粒の涙が溢れる。
明に会えた。明が来てくれた。「わあん」泣きだす。
つられて麗子も泣きだす。ふたりの涙は異なるものだったが、大合唱。
WC-001は大気圏を突破。月へ向かう。
移民星ルリウスには二つの月(衛星)がある。一つは球形の大きな<ナデシコ>。
もう一つはより内側を周る小型の<ナルシー>。こちらは火星の衛星の様ないびつな形をしている。プロトン砲を預けた民間ドックは後者ナルシーにある。
ナルシーは長径15km、三日月型とか勾玉型とか言われるが、実際は凹に近い。鉱物採掘工場が数多くあり、凹んだ部分に宇宙船ドックがある。
明たちと別れた後、<フロンティア号>はステルス航行のままナルシーに近づく。
ドックに巡洋艦が接舷している。その周りにおびただしい数の何かが転がっている。
「人間?・・パラドックスいや大銀河帝国軍の兵士達だ」啓作が言う。
巡洋艦から白い物体が出て来る。ボッケンだ。
「あいつ、ひとりで巡洋艦を制圧したのか?」マーチンが驚く。
ボッケンが走り出して<フロンティア号>を誘導する。こちらが見えているのか?
<フロンティア号>はドックに入る。
中でUターン。バックで駐機。
先に工場に入ったボッケンが操作して入口にバリアーを張る。
再会。
「何とか守ったよ」ボッケンが語る。「・・みんな丸腰だった」言い辛そう。
「何?」
「武器を持たずに爆弾を抱えて歩いて来た」
集団催眠で操られたルリウス星の民間人だ。
ボッケンの刀は有機物を斬れなくする事もできるが、宇宙服が切れたらまずいからと、今回使ったのは本当のみねうちだ。その数300人。気絶させた後、爆弾を破棄。艦橋に殴り込み、指揮官を倒した。催眠状態じゃない者は艦橋にいたほんの数人だった。
「こんな使い方をするのか!」グレイの声は怒りで震えている。
「ドックのおやっさんも出て行ってしまった」
「しめしめ預かり料金踏み倒せるかも」こらこらマーチン。
「みねうちしてでも(おやっさんを)止めるべきだった」ボッケンが悔やむ。
クルーは作業に入る。
マーチンと啓作はプロトン砲の取り付け。グレイは反重力ミサイルを含む武器の補充。シャーロットはコクピットで周囲の警戒。ボッケンは休ませた。
「明くん!」
美理の声で明は眼を覚ます。居眠り注意のアラームも鳴っている。
「ね寝ていたのか?俺」
「徹夜レース明けだもんな」
助手席のヨキにそう言われ、明は頬をパンパン叩いて前を見る。
ナルシーへ向かうWC-001の行く手に大銀河帝国艦隊が立ち塞がる。
ルリウス星から飛び立った宇宙船は既にいずこかへワープしていた。残っているのは約50隻。コバヤシ彗星の近くからナルシーに向かっていた。
プシュー。美理と麗子にスプレーで簡易宇宙服コーティングを施す。
短時間だがスペーススーツ並みの機能をもたせる事ができる。万一機体が傷ついても酸欠や宇宙線被曝を防げる。ボッケンは全身に明たちも顔など露出部に使っている。
「ジェットコースターは好きか?」明が尋ねる。
「は、はい。割と」
「大好きでしょ、麗子は」
「上等。敵を引き付ける。口を閉じて大人しくしていてくれ、舌を噛む」
明はそう言うと操縦桿を動かす。Gがかかる。
艦隊から光が来る。ブラスターだ。
避けつつWC-001はルリウス星へUターン。
艦隊の約半分25隻ほどが向かって来る。
「そうだ。追って来い」
艦載機発進。敵影は7倍に増える。一斉に発砲。
WC-001は速度を上げる。後方からの砲火をかいくぐる。
大気圏突入寸前、明は進入角度をわざと浅くする。
案の定、機体は大気圏で弾かれる。追跡してきた敵機の多くはそのまま大気圏へ。
WC-001は大気圏ギリギリを飛ぶ。速度を上げ、敵を振り切る。
そのまま星を一周。遠心力を利用し加速する。ナルシーへ。
先程二手に分かれた敵艦隊より先に到着する。
「こちら明だ。バリアー解除してくれ」
バリアー解除。その瞬間にWC-001はドックに進入する。
バリアー展開。追撃機はバリアーに弾かれる。
着陸。
WC-001は倒れている兵士達を避けて走行し<フロンティア号>に近づく。
ボッケンが(休めと言われたのに)兵士達を敵艦に運んでいるが、まだ半分以上残っている。気付いて前足を上げて合図。明も親指を立てる。
麗子は手の中のピンニョに話しかける。
「着いたよ。もう少しのガマン・・ピンニョちゃん?」
ピンニョは答えなかった。




