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大銀河帝国①

第2章  大銀河帝国


 表彰式は終わった。

 表彰台を降りようとする明をジョーカー=ブラッドが呼び止める。

「君は弓月了の親戚か何かなのか?」

「!」

 弓月了は天才医師ドクターQこと弓月丈太郎の息子。スペースレーサーで、事故死している。明は冷凍睡眠から目覚めるとき、彼の“記憶”を注入されている。

「まあ・・そんなもんです。血の繋がりはありませんが、俺は義理の弟になります」

 ややこしいので端折る。弓月丈太郎は戸籍上義理の父、嘘はついていない。

「そうか・・彼は天才だった。早過ぎる死だった。君もレーサーになるのか?」

「(レーサー・・考えたこともなかった)俺は・・」

 ハレーGPメインスタジアムは熱狂冷めやらぬ。 

「さて帰るか」

 ヨキとグレイが立ち上がる。

 その時、アナウンスが流れる。

『皆さん。平和な時代は終わりました。目覚めの時が来ました』 

「!?」

 観客が一斉に立ち上がる。

「え?」

「おい。どうした?」

 グレイは隣のマニアにーちゃんの肩をつかむが、彼は無言のまま。その目はうつろだ。

 巨大スクリーンに映し出されている表彰台では、

「ブラッドさん!」明が叫ぶ。

 ジョーカー=ブラッドは突然黙り込み、動かない。

 ブラッドだけではない、ペアのシュガーも、2位のハラショー兄弟も、レースのお偉いさんやコンパニオンのお姉さんも止まったままだ。

 マーチンと3位のハット&ラーは状況が判らずきょとんとしている。

 明がうずくまる。「何だ?」頭の中に何かが入り込んで来る感じがする。

「明!」マーチンが声をかける。

「大丈夫・だ」

 意識ははっきりしている。嫌な気分だけだ。

『さあ参りましょう。大銀河帝国のために』再びアナウンス。

 ザッ。観客達は一斉に方向を変え歩き出す。

 何万もの人の群れがそのまま出口へ移動する。

「ななな・・何?」ヨキがあせる。 

 グレイは辺りを見回す。監視カメラを見る。

「このままじゃ目立つ。俺たちも行こう」

 ふたりは観客達に混じって歩き出す。

 パドックからも人々が出て来る。その中に啓作とシャーロットの姿もある。

 グレイとヨキはそっと近づき、「啓作。何なんだ、これは」尋ねる。

「おそらく大規模な集団催眠だ」 

「?」

「このまま人の波に乗って歩こう。ヨキ、建物の影に入ったらテレポートだ」 

「了解・・どこへ?」

「決まっているだろ」

 明とマーチンも人の波に乗って移動していた。

 ハット&ラーも付いて来る。ペルセウス腕から来た彼らは頼る者がいない。

「何が起きたか分からないが、君たちは君たちの船で故郷へ帰れ!」明が説明するが、

「!“#$%&+*¥?」通じない。

 明は彼らの宇宙船<ルルール>を指差し、「ハウス!」

 通じたみたい。ハット&ラーは自分たちの船へ向かう。

 明とマーチンも<フロンティア号>を目指す。


 -パンゲア星- 大都会。

 高層ビルの一室・オフィス。何人もの人々が慌ただしくデスクワークをしている。

 一斉にその指が止まる。通話もなくなり、静寂が訪れる。

 突然人々は立ち上がる。歩き出す。出口へ向かう。

 ―ククコカ星- 広大な農地。

 農作業をする人々。トラクターに乗る人。パワードスーツで果実を収穫する人。

 人々は急に作業を止めて、歩き出す。踏み潰された農作物が残る。

 ―ユバ星― 真夜中の住宅街。

 夫婦がベッドですうすうと眠っている。

 二人は突然目を覚ます。起き上がり、服を着替える。

 ベビーベッドに寝ているわが子を抱きかかえ、玄関から出ていく。

 

 ―ルリウス星― 真理之花女学園の保健室。

 白いカーテンが風になびく。

 運動部のかけ声。吹奏楽やコーラス。風に乗って様々な音が聞こえてくる。

 麗子はベッドの傍に座って文庫本を読んでいる。

 今日は午前中のみの授業。ピンニョはいない。

 目線を移し、「気がついた?」

 ベッドに横になっている美理が目を開ける。体操服を着ている。

 ぼーとしていたが、次第にはっきりしてくる。

 起き上がって「私・・倒れたんだ・・」

「そーよ。体育の授業中にね。驚いたんだから」 

 カーテンを引き、美理は制服に着替える。

「ずっとハレーGPの実況聴いてたんでしょ」カーテンの外で麗子が詰め寄る。

「うん。でもスタート前まで仮眠したよ」 

 着替えを終え、カーテンを開く。

「?」

 何かが違う。さっきとは何かが変わった。でも何が変わったのか分からない。

「表彰式も聴きたかったなあ」とか言いながら、ふたりは保健室を出る。

 違和感。それが何か・解った。 

「音・・」美理のつぶやきに、

「・うん」麗子がうなずく。

 音が・・無い。校内は静まりかえっていた。

 誰もいない。

 校庭にはついさっきまで使われていたと思われるボールや器具が散乱している。

「何が起こってるの?」

 寮に向かうが、そこも無人、もぬけの殻だった。生徒たちはどこに?

 ふたりは校門を出る。

 長い下り坂。生徒約600人と職員による長い列が続いていた。学園だけではない。周りの住宅からも人々が出て来て、規則正しく行進している。老若男女問わず。歩けない赤ちゃんや幼児を抱っこしている人もいる。

 人々の表情を見た美理たちはぎょっとなる。みな無表情だ。

「ゾンビじゃないよね」

 顔色が悪いわけではない。行進も力強い。

「ナオミ!」

 美理は同級生を見つけ、声をかける。

 彼女は無言のまま行進を続ける。その目は虚ろだ。

「どこに向かっているの?」

「宇宙港みたいだ」

 空から舞い降りたピンニョが麗子の肩にとまる。

「いたる所から人々が集まって来ている。上から見るとまるで・・蟻かなんかみたいだ」

「どうすればいい?」

 美理が尋ねる。この中ではピンニョが一番経験豊富だ。

「・・分からない。でもどこかに隠れた方がいいと思う」

 サングラスをかけた黒い服の男達がこちらに向かってくるのが見える。


 月。

 人々の行進は続いていた。延々と続く長い列。その先頭は宇宙港に到着、停泊中の地球連邦の軍艦に吸い込まれていく。

 レースに参加した宇宙船は表彰台近くに停まっている。人影はない。

 ただ一つ<フロンティア号>の周りにだけ十数人の男達がたむろしている。セキュリティシステムのお蔭で中には入れていないようだ。

 隣の宇宙船に隠れてマーチンが尋ねる。

「何なんだ?あいつら」

「わからん。だがフレンドリーって感じじゃないのは確かだ」隣で明が答える。

 サングラスに黒いスーツ。スーツの下に拳銃を携帯している。

「どこかで見た気がする、何だっけ?」明がつぶやく。

 明たちは何も武器を持っていない。さてどうするか・・

 突然明の腕時計型通信機が震える。

『いま大丈夫か?』啓作からの通信だ。

「大丈夫だ。マーチンと船の近くまで来ている」明は現状を説明した。

『テレポートでそちらに行く』

「了か・・」

 言い終わらないうちに、ヨキ・啓作・グレイ・シャーロットがテレポートして来る。セキュリティシステムのため船内へのテレポートは出来ない。

 明は宇宙船の陰から飛び出す。<フロンティア号>めがけて走る。啓作とグレイが続く。

 ヨキはマーチンの肩に手を置き、「じゃ、頼んだぜ」マーチンが消える。

「!」

 明たちの接近に気づいた黒服達が銃を構える。

「!!」次の瞬間、マーチンが黒服達の真ん中にテレポート。

「それっ!」

 バリバリバリ・・・・

 マーチンは帯電体質。1万ボルトの電撃が黒服達を襲う。

 八人の黒服達が倒れる。あと四人。マーチンに銃を向ける。

 ドガッ! 明の飛び蹴りが炸裂。

 反動で飛んで、もう一人にフライングチョップ。

 残った二人を啓作とグレイが殴り倒す。

 ヨキとシャーロットを加え、六人は<フロンティア号>に乗船する。

 コクピットへ。

 主操縦席に着き、明が叫ぶ。「発進準備!」

「エンジン始動!」マーチンが計器を操作「出力20%、オートバランサー異常なし」

「レーダーに敵影なし」今回ヨキが担当。

「ワーププログラミングに入ります」シャーロットは作業に入る。

「まだ短距離ワープしかできねえぞ」マーチンが警告。

 第2第3エンジンは使えない。使えるエンジンも過負荷で無理は出来ない。

「ホーミングレーザースタンバイ」啓作がトリガーを握る。

 使える武器はホーミングレーザーと外し忘れた反重力爆雷1個だけ。

「俺は何すればいい?」グレイが尋ねる。

「そこ座って、ぼーっとしてて」

 ヨキが副戦闘席を指さす。プロトン砲は取っ払っていて無い。

 ピキーン。 「レーダーに反応!戦闘機多数接近!」

「<フロンティア号>発進!」

 明は操縦桿を引く。

 ゆっくりと<フロンティア号>が飛び立つ。反重力航行で高度を上げてから、

 ドギャァァ―――ンンン 垂直上昇エンジンを噴射。倒れている黒服達への配慮だ。

「てえ!」 

 バシュ!両側舷からホーミングレーザーが放たれる。

 光の束は屈曲して敵に向かう。 

 飛来した無人戦闘機に命中。飛散。

「右舷に宇宙船!上昇して来る!」

「発射!」 「まて!」明が制する。 

 ハレーGPに参加した宇宙船<ルルール>。ハット&ラーの船だ。

「援護する。バリアー全開!」明は操縦桿を倒す。

 <ルルール>を庇うように<フロンティア号>はその上を低速飛行する。

 同じころ月面の地球連邦基地ではミサイルが発射されていた。

 ミサイルは放物線を描き上空から飛来する。再度無人戦闘機も接近。

 <フロンティア号>はホーミングレーザーで迎撃。

 爆発。爆発。爆発。

 撃ち洩らした2発のミサイルが<フロンティア号>に命中するが、バリアーに弾かれる。

 <ルルール>はワープに入る。

 コクピットは見えないが、明がつぶやく。「グッドラック」

「ワーププログラミング完了」待ってました。

「よし。俺たちも行くぞ」

 宇宙港から人々を乗せた巡洋艦が飛び立つ。砲塔が旋回、主砲発射!

 ビームが来る。

 明は横を見る。青い地球。

「今は逃げる。だが、俺たちは必ず帰って来る!」前を向き叫ぶ。「ワープ!」

 <フロンティア号>はメインエンジンを噴射。

 それをビームが追う。迫る。

 間一髪。ワープイン。


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