表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/29

ハレーGP⑨

 少し前。

「亜空間ドリフト!」明が叫ぶ。何度も言うがそんな技はない。

 トップの2機に遅れ、<フロンティア号>は近日点を通過。タイム差は7秒。

「無茶するぞ」

 明は船をハレー彗星本体に向ける。

「バリアー問題ない。ここで無茶しなきゃいつする?」

 マーチンのバイザーに光が迫る。

 <フロンティア号>はハレー彗星の「コマ」に突入。インのさらにインを突く。

 “ラビットスターエリア”と呼ばれる水蒸気とイオンと宇宙塵の霧の中。「尾」とは比べものにならないプラズマの量。目もレーダーも通信も役に立たない。頼りは勘と運だ。

 速度は落とさない。フルスロットルで駆け抜ける。

「今だ!」

 白い霧を抜ける。 

 ドンピシャ。ななめ前からブースターが来る!

『これは・・彗星のコマの中を飛行して来たのか?無謀だ!・・あ!当たる!』

「バリアー出力最大!!」

「どりゃー!!」明が操縦桿を倒す。

 <フロンティア号>は姿勢制御ノズルを噴射。

 ブースターが主翼に当たる瞬間、機体を回転させて打ち返す。

 カキーン。

 ブースターは彗星とは別の方向へ飛んで行く。

『・・・・・』アナウンサーは絶句。

 ヨキがつぶやく。「ホームラン。」

 はるか彼方で・・・光がきらめく。大爆発。

『じ事故です!②のブースターが外れ、⑰と接触・・はね返って・・反重力爆発が・・』

「!!」ラジオを聴く美理には訳が分からない。

 美理はベッドを飛び出し、階下の談話室へ。TVを点ける。

 凄まじい爆発の映像。

「明くん!」

 <フロンティア号>が映る。美理は胸をなでおろす。

 姿勢制御し、回転を止める。左主翼の一部を失っている。第3エンジン停止。いや再起動。

「目がまわるう~」

「バランサー!まだ飛べるぞ。明!」  

 反重力爆発の影響で<フリーダム>と<デスウィング>はスピードダウンしている。

 <フロンティア号>が1位に躍り出る。

 啓作から通信が入る。

『後は任せろ!お前たちはゴールを目指せ!いいか・・勝て!』

「了解。このまま逃げ切るぞ!」

「エンジンフルパワー!」

 <フロンティア号>は4つの全エンジンを全力噴射。ハレー彗星から離れる。


「こ、こんなバカな」 

 VIP席は静まりかえる。グラスを落とす者もいる。

『初めてトップに立った<フロンティア>!ゴールは目の前だ!』

「行けー!明くん、マーチンさん」早朝の談話室で美理が叫ぶ。

「兄き!がんばれ!マーチンも」ボッケンも応援する。

 月のメインスタジアムは大興奮。大歓声。コールが巻き起こる。

「フロンティアGO!フロンティアGO!フロンティアGO!」

 ヨキもこぶしを突き上げ叫ぶ。

 

「来た」

 Gに耐えながら明がつぶやく。

 小さな彗星のごとき<フリーダム>が猛スピードで迫り来る。

 コクピットでブラッドは不敵な笑みを浮かべる。

 逃げる<フロンティア号>。追う<フリーダム>。

 性能は向こうが上だ。互角に渡り合えているのは太陽が近いため。反重力エンジンである第4エンジンの恩恵だ。

<デスウィング>は遅れる。エンジントラブルに見えるが、意図的だ。

「まだだ。後続のシンクロ機を使って・・」二人の男は焦っている。

 ⑫<TKG48>が来る。シンクロ機だ。

 パイソンを名乗る男は“シンクロ機誘導波”のスイッチを押す。

「・・・!」

 そのまま何事もなく<TKG48>は通過して行く。

「“尾”から離れないとダメだ」

 <デスウィング>はハレー彗星より離れる。再び減速する。

 その<デスウィング>を幾つもの宇宙船が追い抜いていく。

 25位㊲<Jストリーム>が来る。アイドル嵐拓哉のシンクロ機だ。

 男はスイッチに手を伸ばす。

『そうはさせません』強制介入通信。

「!」 「妨害電波!」

 シャーロットは“シンクロ機誘導波”を突き止め、銀河パトロールに伝えた。彼らはそれに対抗する妨害電波を連邦の水星基地から発信、これでシンクロ機誘導は出来ない。

 VIP席に銀河パトロールがなだれ込む。大量の株を売買した投資家達がここに集まっている事が判明したのだ。連中は株で利益を得るためにテロを計画した。

 男達は抵抗せず両手を上げる。その光景をグレイはサングラスに仕込んだ隠しカメラで撮影。後で売り込む気だ。

「ありがとう。あなた方のお蔭で助かりました」

 ミヤンがシャーロットに握手を求める。

「どういたしまして」握手。

「伝説の元少年捜査官とも会えたし」

「え?」

 どうやらグレイにはまだ謎があるようだ。


 一つの光が金星軌道を通過。

 よく見るとそれは一つではなく二つの宇宙船ふねだ。

 <フロンティア号>の後ろに<フリーダム>がピッタリ張り付く。

 後方スクリーンを見ながら、マーチンがつぶやく。

「プレッシャーかけて来やがる。こっちは素人だっちゅーのに」

「・・・」

 エースパイロットに真後ろに付かれ、操縦桿を握る明には全く余裕がない。

 執拗に追い抜きをかける<フリーダム>を明は必死にブロックする。

 月面スタジアムは「フロンティアGO」の大合唱。

「・・・」美理は祈る。「お願い。無事にゴールして」 

 青い星が見えた。

「!」

 <フロンティア号>の第2エンジンが煙を吹く。第3エンジンも停止する。

「悪い・・明。・・エンジンが限界だ。彗星通過で無理しすぎた」

 <フロンティア号>の加速が落ちる。

 明は無言のまま、飛び去って行く<フリーダム>を見つめる。

 さらに2機に抜かれ・・・

 地球軌道上のゴール。<フリーダム>ゴールイン。

 宇宙空間に巨大なホログラフのチェッカーフラッグが振られる。

 優勝はポールツーウイン<フリーダム>。2位<ブラックスワン>。3位<ルルール>。

 <フロンティア号>は4位でゴールする。

 約28時間に及ぶ長い闘いは終わった。50機中完走は29機。


 美理と麗子は緑の中を登校。

 キンモクセイの甘い香りがする。小さなオレンジの花が可愛い。寮から校舎まで歩いて5分程だが、授業開始まで3分もない。

「早く!遅れるよ」

「待ってー」

 美理は涙を拭きながら走る。

「舎監の先生に感謝しなさいよ。校則違反見逃してくれたんだから」

 早朝、パジャマのままテレビの前で号泣していた美理に同情したようだ。

「表彰式も観たかったなー」

「家で録画してもらってるから、週末また来なさい。今は走る!」

 キンコーン・・予鈴が鳴る。

 

 表彰式。

 審議の結果<フロンティア号>は失格となった。彗星通過時に既定のコースから3㎝内側を通っていたことが判明したのだ。②<デスウィング>は途中棄権、逃亡しパイロットは行方不明だ。

 表彰台に上る三組。トロフィーと賞金目録が贈られる。

 明たちは離れた所で拍手する。

『特別賞⑰<フロンティア>』

「え?」

 驚く明とマーチン。普通失格者に賞が贈られる事は無い。

 表彰状だけで賞金はない。マーチンはちょっと残念そう。

 シュポン!シャンパンシャワー。

 ジョーカー=ブラッドが表彰台に上がれと手招きする。

 躊躇する明たちに、ブラッドが

「君たちはハレー彗星を守ったんだ。優勝以上だ。来たまえ」

 明とマーチンはてっぺんに立つ。大歓声が迎える。

 ブラッドがシャンパンを二人にかける。

 明たちはようやく笑顔になる。 

「やったな」 

「ああ」 

 握手する明とマーチン。

 ヨキとグレイは観客と共に拍手する。

 啓作とシャーロットはパドックを片付けながら放送を観る。

 実は泣いているボッケンとピンニョ。

 パチパチパチ。謎の男は360°スクリーンテレビを見ながら拍手する。

「おめでとう。では私からもプレゼントを差し上げよう。」


彗星は氷の塊。中に突入しても大したことないのかもしれません。

でも怖い・強いイメージがあるのは、やはりあの「白い彗星」のせいでしょう。

作中に「ラビットスターエリア」が出てきますが、これは造語です。伝説巨神イデオンのラビットスター現象に敬意を表して。2061年のハレー彗星の回帰ではもっと新しい発見があるかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ