お前となんか婚約破棄してや………る?
今回のお話は令嬢ではなく、婚約破棄する側視点となります。斬新でしょう?多分。
「リーズシャルテ・カテレア!数々の不正や不貞行為の数々、ましてや俺の他に男を作るなど言語同断!お前との婚約を破棄してや――――る」
俺の元に寄せられた数々の婚約者の不貞行為。愛してるが故に、俺の他に男を作るなんて許せなかった。ましてや平民の男など。
しかし……俺は全て思い出した。これは全てリーズシャルテを婚約者の座から引きずり落とす罠だったということに。
あの時は気が動転していて、あんな稚拙な報告書なんぞに騙されたが、落ち着いてよく見てると、穴だらけだった。
特に決定的なのは平民の男だった。よくよく考えればいつ平民と会える余裕があったんだよという話だった。リーズシャルテは殆ど俺と日夜を共にしてくれていたというのに………。
そして彼女は自殺。自分で喉をナイフで斬って涙を流して死んでいた。その後、俺もあとを追ってリーズシャルテが使ったナイフで喉を突き刺したのだが………。
次に気がついた時はあの日、学園の卒業パーティーでリーズシャルテを婚約破棄してしまった場面に逆行していた。
最初は戸惑った。急に景色が変わるし、なんか未来の記憶が流れ込んでくるしで頭を抱えてしまった。
だからか―――リーズシャルテは一回目の時よりも、とても辛く、悲しそうな顔で会場を出ていった。
「……まっ―――」
「良かったですねぇハルク様ぁ。あんな雌貴族と婚約破棄できて」
俺のところに来てすりすりと甘い声を出して近寄ってきたのはこの国の伯爵令嬢だ。
―――この女………!!
リーズシャルテの報告書を出してきたのは全部この女と女の取り巻きだった。状況から考えるに、主犯はこの女か………。
………早くリーズシャルテを追いかけなければ。早くしないとリーズシャルテが……愛しの婚約者が自殺をしてしまう!
「あ……ねぇハルク様ぁ」
「……っ!触るな!」
バチン!と静寂な会場に俺が伯爵令嬢をビンタする音が響いた。あんな薄汚いメスブタに触られると考えると、吐き気が止まらない。
「今の僕は気分が悪い………潰したくてしょうがなくなる」
「ヒッ………」
ふん………これで逆行前の恨みはこれでチャラにしてやる……早くリーズシャルテを探しに行かなければ…………!
もう一度、伯爵令嬢の顔を見ておく……ブスが。なぜ俺はリーズシャルテを信じきれなかったのか。逆行前の自分をぶん殴りたくなるな。
とりあえず、あの伯爵令嬢と取り巻きは一家離散で。
俺は、険悪な雰囲気の会場を出ていき、リーズシャルテを探し回った。
だがいない。どこにもいない。不味いぞ………これは本当に不味い!!!
学園の中庭にでて必死に探すがどこにもいない。クソ……なんで俺は直ぐにリーズシャルテを追いかけなかったんだ!
と過去の自分に文句を言いながらも視線は忙しなく動き続けている。その時、ふと遠くの方で陰が現れた。視線を辿ると、学園の屋上から飛び降りようとしているリーズシャルテが―――――!!
「リーズシャルテッッッ!!!」
ドンッ!と自分に身体強化魔法をかけて走る。踏み出す度、地面がひび割れ、スピードが加速する。
―――間に合えっ!!!
スライディングでリーズシャルテを抱えキッャチした瞬間に衝撃緩和の魔法を最大出力で使用する。
「リーズシャルテ……リーズシャルテ!」
必死に肩を抱いて呼び掛ける。そのかいあってか、リーズシャルテの目はうすうすと開かれた。
「あれ………ハルク様…………」
「リーズシャルテ!ごめんな……ごめんな!最愛の婚約者のことを信じきれなくて本当にごめん……!」
「ハルク様……信じてくれて……」
「勿論!あの時の俺はどうにかしていた。君以外の女に騙されるなんて……俺は最低だ………」
涙が出てくる。必死にリーズシャルテを抱きしめて前救えなかった命を感じている。
「君と婚約破棄なんてしない。あれは全部パフォーマンスだと父上にも言っておこう。あの伯爵令嬢と取り巻きは一家離散だ」
リーズシャルテの瞳にも浮かんでいた涙を指で拭いてやる。その後、リーズシャルテは弱々しく……しかし、力強く笑って――――
「ハルク様………一家離散とは……?」
「無論。家族全員処刑のことに決まっておろう?俺とリーズシャルテの仲を引き裂こうと画作した輩だからな」