その1 青春、それは真剣勝負
新キャラ登場
谷川昴、二十六歳。
スレンダーで切れ長の目を持つ「かっこいい系」の女性であり、生徒からの人気も高い、将来を嘱望される教師であった。
そんな彼女の担当教科は国語。本年は二年三組の副担任を拝命し、ベテラン教師・佐島とともに、にぎやかでアツイ魂を持つ生徒たちを指導する毎日を送っていた。
「あなたたちねぇ……」
五時限目の授業が始まり五分、副担任・谷川は大きくため息をつき、ダラケきった二年三組の生徒たちに厳しい視線を向けた。
「授業は始まってますが?」
「だぁってさあ……」
「眠いっすよー」
ああもうやっぱり、と副担任・谷川はため息をつく。
本日は十二月二十三日、二学期最終日の前日。この日は開学以来の伝統行事となっている「クラス対抗ドッジボール大会」の開催日であった。なぜこの日なのか、どうしてドッジボールなのか、その由来には悲しくも美しい恋物語があったのだが、すでにその伝承は途絶えており、伝える者もいないのでここでは割愛する。
「午前中のあの元気はどうしたの?」
伝統行事ではあるがレクリエーション色の強いドッジボール大会、基本的には和気藹々と楽しむものである。
しかし、である。
「私は負けるのが嫌いだぁぁぁぁぁぁぁっ!」
カリスマ委員長・木葉咲夜の叫びを聞き、二年三組の面々は奮い立った。エゲツないほどガチの本気で戦い、その本気度を見た他の生徒もボルテージを上げ、ラグビー・W杯も顔負けの熱い戦いが繰り広げられた。
激闘と死闘の果てに、二年三組は優勝。
優勝を喜び、涙を流してクラスメイトを讃える委員長・木葉と、彼女を胴上げし優勝を祝うクラスメイト。その感動的な光景は全校生徒を涙させ、「ドッジボールっていいな」と思わせたとか、思わせなかったとか。
まあいずれにせよ、終わったことである。
「がんばりすぎましたー」
「せんせー、自習にしてくださーい」
そうしてやりたいのは山々だが、そうもいかないのが大人の事情である。とはいえ、普通に授業をしたところで生徒たちに届きはしないのは明らか。
仕方ない、と副担任・谷川は教科書を閉じた。
「わかりました」
「え、まじ、自習ですか!?」
おおっ、と生徒たちが喜びに沸きかけたが、副担任・谷川は「違います」と首を振った。
「疲れたからと授業をやめるわけにはいきません」
「えーっ、いいじゃーん!」
「なので、今日は特別授業です」
特別授業? と首を傾げる生徒たちに、副担任・谷川は言葉を続ける。
「ペンは剣よりも強し、という言葉を知ってますね?」
はーい、と声を合わせて返事する生徒たち。ちょっとかわいい。
「言葉というのは、時には武器よりも強いもの。人類の歴史には様々な名言が残されていて、その言葉により多くの命が失われることもあれば、助かることもありました」
もっとも「ペンは剣よりも強し」は、権力者が「お前の命など、私のサインひとつで吹き飛ぶぞ」的な意味であるが、説明がめんどくさくなるのでここでは伏せておく。
「というわけで、そんな偉人たちが残した言葉の中で、最強の言葉とは何か。それについてディベートをしてみない?」
詳しくは戯曲「リシュリュー」でググろう




