Q&A(この世界の概要より)
「……これで。ついにそろった」
最後の一冊を胸に抱いて、その少女は不敵な笑みを浮かべていた。
◆◇◆
【世界についての質問コーナー】
Q1(この世界では科学の代わりに魔法が使われているって本当?)
――――回答者(本当です。これまで、環境の破壊もかえりみずに過度な発展を続けてきた「科学」は、俗にいう「魔法」や「魔道」という科学の上位互換的かつ極めて優秀な知的概念の出現以来、世界の各主要国政府に徐々に見捨てられてこのほど終わりを迎えました。それ以来は魔法が主流です)
Q2(科学がなくなって不便なことはないの?)
――――回答者(当然あります。「科学」の衰退は、科学よりはるかに身近で使い勝手の良い「魔法」に大衆が溺れて、第一次産業の従事者が著しく減ることをもたらしました。このことが災いして、私たちはたびたび世界的な食糧難に直面してきました)
Q3(どうやってその危機を乗り越えたの?)
――――回答者(人類は英知を結集し、生命存続に必要な栄養素を豊富に含んだフランスパン型食料「バケット」を生産することに成功しました。この万能食品によって食糧難は解決されたのです。なお、バケットの起源については諸説あるのですが、一般的には栄養食品を開発する際の試行錯誤の過程で偶然にも原型が創りだされたという説が有力ですね)
Q4(だからバケットをみんな食べているんだね?)
――回答者(世紀の大発明以来、バケット以外の食料は水を除いて不要になりましたし、入手困難なことも相まって、もはや以前ほどは見向きもされなくなりました。だから基本、この世界の住民はフランスパン(バケット)が大好きなのです)
Q5(フランスパンと水だけでみんなは生きていけるの?)
――回答者(いいえ。バケットには唯一「魔法を使用するエネルギー」が不足しています。なので、足りないそれを豊富に吸収できる魔法食材「小説」や「書」などの本をバケットと同じように私たちはしっかり食べる必要があります。場合によっては体力も回復する代物ですから、本を食べるということはとても大事なことです。ただし、栄養豊富な食品なので以前に比べると価値が高くなっていますね)
Q6(小説はそのまま食べていいの?)
――回答者(いいえ。そのまま食べることはできません。本の誤字脱字や、公式ルールで使用できない語を訂正する効果がある『校閲』という魔法をしっかりと施して食べる必要があります。でなければ、魔力の暴発がおきてお腹を壊すことになりかねません。本を食べるときは、前もって『校閲』と呼ばれる専門家に校閲をお願いしましょう)
Q7(一冊の本は何回でも食べられる?)
――回答者(小説や書は、一冊ごとに使用限度が異なります。例えば、紫色の煙を吐き出したり、砕け散ってしまったらそれ以上は食べられません。あきらめましょう)
Q8(食べられる小説や書を手に入れるのは難しいの?)
――回答者(作家や校閲者など、食料供給者側の全体に占める割合は受給者側と比べると、はるかに少ない傾向にあります。なので、校閲済みの小説を奪う行為が世界的に確認されています。ですが、校閲がされていない書物はものによっては食べられません。そのために未校閲小説を捨てる人もいます。つまり、さまざまな場所に破棄された未校閲小説。いわゆる『自然小説』の有効活用や再利用が、本を買うよりもコストの意味でおすすめの場合もあります)
Q9(ぶれっだーっていう言葉を聞いたんだけど。なにそれおいしいの?)
――回答者(ブレッダーは魔道騎士の一族です。特殊な修練を積み、書物の探求に特化している魔道騎士たちは、硬度や殺傷能力がともに高いという理由から、先に述べた「バケット」を独自のレシピで配合した素材と組み合わせ、強度を極限まで高めた、カチカチのフランスパンを主に戦闘用の武器として用い、非常時には、それを食し魔法エネルギーを得て攻撃魔法を使用するといいます)
(バルザック・ケインズ著。この世界の概要より)