高校一年12月23日:陽キャ美少女と親戚の美少女、校内で邂逅する③
二宮さんの手腕により、騒然としていた教室から見物客が去っていく。
別クラスの生徒まで集まっていた教室は、再び和やかな空気を取り戻した。
「あっ! えーくんの彼女さんに、ちょっと聞きたいことがあるかも!」
「何かな加恋ちゃん?」
「さっき私に『二人って付き合ってたりするのか!?』って質問来たけど、これっておかしくない? 既にえーくんは彼女さんと付き合ってるわけだし」
加恋の言葉に、クラスの男子たちが一斉に反応した。
「「おい聞いたか? 付き合ってるとか、彼女さんとか聞こえたよな!?」」
周りの反応で、『交際中と公言しないこと』『公言したら別れなさい』という、二宮さんのお父さんとの『約束』が、俺の脳内を駆け巡る。
……あれ? 不可抗力で公言された場合は、どう判断を下されるんだ?
今度は学校一の陽キャ美少女の恋バナとあって、クラスの男子たちがまた一斉に集まり始めた。
こうなったらコミュ力カンスト女子の二宮さんに、再び任せるしかないか!
二宮さんはこの絶体絶命の窮地に、何故か嬉しさが抑えきれない感じでドヤ顔になりながら、俺にコソッと呟く。
「ふっふっふ。加恋ちゃんによって公言されたんだし、仕方ないよね?」
「ま、まさか! ちょっと待って二宮さん、早まらないで!」
待ちきれないとばかりに二宮さんは、クラスの男子たちに宣言した。
「私はヨッシーと付き合ってます! 夏休みの頃から内緒で付き合ってました!」
「「そ、そんな……やっぱり吉屋と付き合ってたのか――ッ!?」」
密かに陽キャ美少女に好意を抱いていたクラスの男子たちが悲鳴を漏らす。
元から二宮さんは学校でもイチャイチャしたいと言っていたが、加恋による不可抗力で『約束』は守れなくなった以上、あっさり恋仲の公開に踏み切った。
クラスの男子の反応を見て加恋は『俺と二宮さんが内緒で付き合っていた』ことを把握したが、藁にも縋りたい様子の男子に声を掛けられる。
「あ、あの! カレンさん、って言うんだっけ?」
「うん、加恋だよ。えーくんの親戚で、えーくんにフラれちゃった負けヒロだぜ」
「くっ! こんなに可愛い子を振るなんて、やはり吉屋は二宮さんと……!」
「彼女さん、二宮さんって名前かー。みやちゃんって呼ぼっと。多分みやちゃん、えーくんの家に入り浸りっぽい。今朝もえーくんに抱きついてたし!」
「なん、だと!? う、羨ま……嘘だ……! そ、そんなの嘘だ嘘だ嘘だーっ!」
よりにもよって、クラスカースト下位層のパッとしない俺が彼氏なのだ。
まるで恋人を寝取られたように狼狽した男子が、極度の動揺で声を震わせつつ、二宮さんに質問した。
「家に入り浸りなんて、そんな何かが起きてしまいそうなえっちなこと、二宮さんしてないよね!? してないはずだーっ!」
もはや懇願と言っていい質問に、二宮さんの顔は真っ赤になってしまった。
「実はヨッシーの近くに引っ越したんだ~。よく家には行ってるよ? でもキスの約束を守ってとお願いしても、キスしてくれないくらい健全だったり……」
「え? キス? キスの約束!? 次々となんて事実が……! よ、吉屋ーっ!」
頬を朱色に染めたまま惚気てしまった二宮さんが、凄く可愛い。
確かに可愛いのだが、男子の方は蒼白な顔で、俺に詰め寄ってきた。
「よ、吉屋! いつもみたいなノリのアレだよな? ほら、隠れて付き合っている恋人演技ゲームみたいなさ! 今日の二宮さんの遊びに付き合ってるだけだろ!?」
「そういう付き合うじゃなくて、二宮さんとは本気で付き合ってるが……」
「うんうん、この通りヨッシーとは真剣にお付き合いしてるよ~!」
俺の腕に抱きついて二宮さんが肯定したことで、俺に詰め寄った男子のみならずクラスの男子たちが、昼食を食べる手も止めて呆然としてしまった。
クラスの女子たちからは「だと思った!」という感想が漏れ聞こえてきたので、どうやら付き合っていることを隠し通せたのは、男子たちだけだったらしい。
女子たちからお菓子をお裾分けされた加恋は、おどおどしながら受け取って、ありがたく昼食代わりに食べてから時計を確認した。
昼休みも終わりそうで、これから面接試験のせいか、加恋が顔面蒼白で囁く。
「みやちゃんの名字は二宮……。そういえばパパには『溺愛の二宮さん』っていう駐在員仲間が居たよね……。もしかして、みやちゃんの下の名前って、姫子……? いやいやまさかそんな偶然あるわけないっしょー……!」
何やら不穏な内容が聞こえた気がするが、自称ゴミュ力かつノーえーくん・ノーコミュニケーションと言っていたのだ。面接前で緊張しているのは間違いない。
俺は昔の励まし方を思い出して、加恋の肩をポンと軽く叩いた。
「加恋、そろそろ面接だな。初めての他校で俺の教室まで来れたくらいだ。そんな今の加恋なら面接は絶対に大丈夫だよ。何とかなる。頑張って!」
「え、えーくん! そうだ……今は面接が大事! よーし、やるぜー!」
金髪ハーフ美少女の加恋は、透き通るような白い頬をほんのりと赤くしながら、俺の頬っぺたに本日二度目となる指ぷにぷにをして、教室を後にした。
加恋が口にしていた『溺愛の二宮さん』という単語に、どうしてか若干恐怖感を覚えたが、俺の彼女の二宮さんも、俺の唇に人差し指を当ててくる。
「コレの約束、クリスマスプレゼントで貰えたら、一生想い出に残ると思うな~」
「……ぜ、善処する」
俺にしか分からない甘いおねだりに、こちらの二宮さんも『溺愛の二宮さん』と呼んで差し支えないのでは、と思わざるを得なかった。
この続きは、明日の夕方~明後日のお昼頃に投稿予定となります。
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