高校一年12月23日:陽キャ美少女と親戚の美少女、校内で邂逅する②
お昼休みの教室――。
二学期の終業式を明日に控えて、教室には既に冬休みムードが漂っている。
幾度となく行われた席替えも「目が悪いので最前列お願いします」で、俺の隣の席をキープし続けている二宮さんが、席に座ったまま話しかけてきた。
「未来の転校生が試験を受けている最中だとは、皆思っていないだろうね~」
「勉強より引っ越し作業を優先させてたから筆記テストには自信あるだろうけど、昔の加恋から考えると、面接は苦手意識を持っていそうだから心配だな」
「そういえば今朝の加恋ちゃんも、面接あるから緊張するって言ってたね!」
二宮さんと昼休みの雑談をしていると、廊下が少しずつ騒がしくなってきた。
俺の唯一の男友達・友木が教室に戻ってきたのだが、興奮した面持ちで俺の席にやって来る。
「なあ衛司。他校の制服を着た外国人の女の子が『エージ、ヨシヤ、ドコ?』って片言でお前のことを探してたぞ。あんな可愛い金髪美少女と知り合いなのか?」
「か、片言? 加恋は日本語ペラペラなのだが……」
「とにかくだ。この教室に衛司は居るってジェスチャーで伝えたからな」
片言という情報に首を傾げる俺だったが、二宮さんが目を丸くして声を上げた。
「ヨッシー、加恋ちゃんがこの教室に来たよ!」
「そんなはずは……うお、マジだ!」
加恋はどこかのお金持ちのご令嬢みたいな微笑みを周囲に見せながら……しかしご主人とはぐれた子犬のような雰囲気で、俺を探しているではないか。
慌てて俺は席から立ち上がり、加恋を手招きして、俺の席へと座らせた。
ぱっと見、日本語が喋れなさそうな他校の金髪美少女が現れて、昼休みの教室はあっという間に人だかりで騒然となる。
面接も心配だったのだがそれ以前に加恋は、俺が思っているよりも根本の性格は変わっていないのかもしれないと感じた。
「あのさ加恋、俺みたいな知り合いが誰もいない所では対人恐怖症気味になる癖、まだ治ってなかったりする?」
俺の耳打ちに、加恋はコクコクと涙目で頷いた。
そして今度は加恋がぎこちない作り笑顔のまま、俺に小声で耳打ちする。
「えーくん正解だぜ! アイ・ハブ・ア・ゴミュ力! ノーえーくん・ノーコミュニケーション! ヘルプミー!」
自称負けヒロに続いて、ゴミュ力なる造語を使って、助けを求めてきた加恋は、何枚かのA4用紙を俺に手渡した。
二宮さんと一緒にその紙に目を通してみると、転入試験の連絡用紙だった。
既に筆記テストは午前中に終了していて、昼食の休憩を挟んで午後から面接試験開始と書かれていた。
「面接試験前に、もう一度えーくんに会いたいって思っただけなのに、この教室に来るだけでも……あ、頭が真っ白に……!」
まさしくノーえーくん・ノーコミュニケーション状態となった加恋の独り言に、人だかりの男子たちから質問が飛んで来る。
「あれ? 日本語ペラペラで上手だ! 他校の制服着てるけど試験って?」
「えーくんって衛司のこと? もしかして二人って付き合ってたりするのか!?」
テンパってる人に何個も一気に質問するのは、あまり褒められた尋ね方ではないと思ったが、コミュ力カンスト彼女の二宮さんが助けに入ってくれた。
「加恋ちゃんは未来の転校生だよ~。この後は面接試験だから緊張してるみたい。今日は私とヨッシーに任せてね。恋の質問はノーコメントということで!」
「俺たち、試験前の子を緊張させちゃったみたいだ。ゴメン!」
「お気持ちありがと! 加恋ちゃんはヨッシーの遠い親戚だから万事任せて~」
「そうか……。二宮さんたちって、元からその子と知り合いなんだ」
見事に質問の嵐を防いでササッと人だかりを解散させた二宮さんのコミュ力に、コミュ障の俺と、自称ゴミュ力の加恋は、感動して静かに拍手を贈る。
前作と今作がランキングに載ったみたいです。ありがとうございます!
※ヒロインが甘々オーラを教室で滲ませる場面まで、本日は投稿予定です。