高校一年12月22日:陽キャ美少女と、自称負けヒロな金髪ハーフ美少女②
外国人の女子の知り合いは居ないはずだが、どこか不思議と懐かしさを感じる。
「えっと……。前に俺と会ったことありますか? あっ、日本語通じるかな」
俺に質問された少女は、小さく微笑んで自分のことを指差した。
その笑みを見て、幼稚園の頃に交流があったハーフの子の姿が脳裏によぎる。
「えーくん、私のこと覚えてないのー? 小さい頃、一年間だけこの街に住んでた親戚の初乃加恋ちゃんを忘れるとか、えーくんったら薄情になっちゃったぜー」
「し、親戚? あ……ああっ! 毎週日曜、遊びに来てた加恋か!」
「おうおう、遠い親戚の加恋ちゃんだし! でも引っ越し先のお隣さんが、まさかえーくんなんてビックリなんだけど! えーくんもここに引っ越してたんだ!」
下の名前の衛司からつけられた「えーくん」というあだ名で呼ばれて、ようやく加恋のことを思い出した。
幼稚園に通ってた頃の加恋は、今より明るい金色の髪と鮮やかな蒼眼だった。
当時の加恋は内気な性格だったが、今は何だか明るいノリや金髪なのも相まってギャルっぽくて、スクールカーストも高そうな雰囲気である。
「さすがに十二月下旬ともなると寒いー! えーくんのパパやママは居ないみたいだけど、リビングにお邪魔しちゃっても良い? ねー、良いでしょー?」
「加恋ごめん。実は部屋で彼女を待たせてるから、また今度でも良いかな」
丁重にお断りの言葉を伝えて、俺はゆっくりと玄関のドアを閉めようとする。
だが加恋は冗談だと思ったらしく、ドアに手を掛けて開けようとしてきた。
「またまたー! 幼馴染だった女の子が、金髪ハーフのこんな美少女に成長して、しかも胸だって高校一年にしてDカップで高身長という有望っぷりに、えーくんが照れちゃうのも分かるけどー!」
「いや……俺自身、未だに信じられない心境だけど、本当に彼女が出来たんだ」
「そ、そんなの嘘に違いないし!」
まだ加恋は信じてくれなくて、強引にドアを開けて玄関に入る。
――と同時に、二宮さんの声が聞こえてきた。
「ヨッシー、引っ越しの挨拶はどう~? 助け舟は必要なさそうかな?」
どうやら玄関の騒ぎを聞きつけて、二宮さんがやって来たようだ。
対する加恋は二宮さんの姿を見た途端、その場でへたり込んでしまった。
「あぁーっ! 信じない信じない! せっかくえーくんと運命的な再会ができて、内緒にしていた初恋が再び始まると思ったのに、彼女が居るなんてー!」
初恋というのは俺にとっても初耳なのだが、陽キャ美少女の二宮さんは持ち前のコミュ力で、一切面識のない加恋に話しかける。
「あの~。そこの可愛い外国人の女の子は、引っ越しの挨拶に来たんだよね?」
「外国人じゃなくてハーフなのでヨロシクー! ちなみに厚手のニット生地の服を着ているのに、彼女さん中々良い胸のラインしてるけど何カップ!?」
「Eですね~。本邦初公開の情報です。ぱちぱち~」
「む、胸のサイズでも負けたーっ! 私、負けヒロインだ! 負けヒローっ!」
加恋は勢い良く立ち上がると、そのまま玄関を飛び出して、引っ越して来た隣の部屋に帰ってしまった。
嵐のように去っていった加恋に面食らいつつも、俺は二宮さんに声を掛ける。
「隣に引っ越して来た子が、幼馴染だった遠い親戚の女子でビックリした。めちゃくちゃ明るい性格になってたなあ……」
「親戚の子なんだ? ヨッシーが初恋相手だって言ってたけど、引越し先が初恋の男子の隣なんて、恋愛マンガだったら運命の人フラグでは~!」
「そのフラグは二宮さんが期せずして、バキバキに折ってたから安心して」
幼少だった頃の想いとはいえ、好意を向けられていたことは嬉しいのだが、俺は二宮さんのことが好きなので、加恋の気持ちには答えられそうにない。
だが二宮さんは、付き合い始めてすぐに父親から『交際の公言禁止』と言われて不完全燃焼が続いているせいか、加恋のことが気になるようだった。
「そういえばヨッシーから『幼稚園の時、頬っぺたにキスされてた頃がある』って聞いたことあるけど、ま……まさか……!」
「うん、加恋のことだね。本人に会ったからか、ぼんやりと思い出してきた」
「だ、ダメ押しで運命の人フラグ乱立! 神様助けて~!!」
「キスの話は母さんからの又聞きだけどね。記憶も曖昧だし、恋心は無かったよ」
「ホントかな~! あんなに可愛い金髪ハーフ女子は卑怯だ~!」
俺のフォローもむなしく、今度は二宮さんが廊下でへたり込んでしまった。
心配しなくても大丈夫なのにと思ったが、嫉妬されるのは嬉しいかもしれない。
「キスの話を聞いた当時は『ピュアですね~』なんて呑気な返事をしたけど、頬にキスとか羨ましすぎなのですが! 私はキスの約束、放置されてるのに~!」
あっ……。見事に話題がキスの約束へと戻ってしまった。
頬を赤らめながらゆっくりと立った二宮さんは、廊下の壁に俺を追いつめる。