第八十八話 ユーサイキヤの層
最上位の層の壁はガラスのように透過している。
まるで展望台のようだ。
左手には地球。
右手には月と遠くに太陽が見える。
遠くには星々が広がっている。
「アルス」
懐かしい声がやさしく俺のことを呼びかけた。
「フレイヤ……」
目の前にはフレイヤ。
いや、古伊屋麗が立っている。
現実世界に居た時の優しい女の子だ。
「あれ?」
俺の手が現実世界に居た時のそれに戻っている。
体型も顔も、現実世界のそれだ。
「フレイヤ。俺は……」
「アルス。いえ、凡田さんですよね」
「いつから……」
「うーん。なんとなく最初から」
フレイヤは微笑んだ。
「見た目も全然違ったのに」
「だって、話し方とか優しいところとか、凡田さんのままなんだもん。それに私も凡田さんの一部なの」
「え?」
「今のあなたにはわかるはず」
目の前のフレイヤの存在を感知し一体となるイメージ。
「ああ、そうか……」
目の前のフレイヤは俺が認知したフレイヤなのだ。
俺の記憶の中にあるフレイヤ。
それなら、そうだ。
俺が思う通りの都合のいいフレイヤとして存在している。
「それは合ってるけど、間違ってもいるわ」
「どういうこと?」
「この塔の周囲をもっと良く視てみて」
この塔は鉛筆のような形をした宇宙船。
地球の衛星軌道上を周回している。
「あ!」
今居る俺を基準にすると直径約60キロ長さ100キロの巨大な宇宙船だが、宇宙に浮遊する物体から見るとその大きさは、ほぼ無い。
いや、ほんの小さな大きさ。
原子よりも、原子を構成する中性子よりも、中性子を構成する微粒子よりも更に小さい。
極小の大きさなのだ。
そして、周囲には俺の居る宇宙船以外にも無数の同じ形をした宇宙船が存在している。
そのうちの一つ、その中にフレイヤが居た。
「この宇宙船はあなたの認識で生み出された世界。けど、周囲の無数のあなた以外の認識で生み出された世界ともつながっている。アルスに対する私の気持ちは、私の認識で生み出した世界の私の影響も受けている」
フレイヤは微笑んだ。
何者かが、地球から俺達を一時的に避難させたのだ。
地球へと戻る事ができるその日のために。
完結しました。
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