第七十三話 ニヴルヘイムの層へ行こう ~ブライスの秘密の件~
どれだけ時間が経っただろうか?
アイラの死を目の前にしずっと立ち尽くしていた。
「進まなければ」
フレイヤ、ノル、カールの行方がまだわからない。
ディシデリーズの塔を登り次の層『ニヴルヘイムの層』が待っている。
塔の中は静まり返っていた。
灼熱の炎に包まれた外の世界が嘘のように穏やかだ。
試しに身体中を高熱から守るため覆っていたRPを外した。
20度ほどの気温に50度ほどの湿度だろうか?
とても快適だ。
「よし! いくぞ」
自らを奮い立たせるように言い歩き始めた。
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塔の中には虫さえも居なかった。
ただ、ひたすら階段を登ってフロアを上がってゆく。
ブライスが他の生物を全て消し去ってしまったのだろうか。
ブライス。
あいつと戦った時、妙な違和感があり、ブライスの消滅する寸前、その理由がわかった。
ブライスに生き物らしい意思をずっと感じられなかった。
冷徹というより単純なのだ。
そうブライスは人形だったのだ。
何者かにより作られた人形。
RPを人形にし自立して動くようにした人形なのだ。
人形とは言えあれほど巨大なRPを持ち、しかも、自立して動けるのだ。
そんな事ができるのはカールの父親ザムウェルだろう。
一瞬、カールも人形では無いか? との思考がよぎったが、そんなはずは無いと打ち消した。
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100層へ到達すると出口からは青っぽい光がさしていた。
外へ出ると広がっていたのは一面の氷の世界だった。
遠方に見えるのは氷山だろうか。
一歩踏み出すと強烈な冷気が襲ってきた。
氷点下マイナス何十度の世界?
RPを体表に張り外界と遮断するイメージ。
即座に冷気を遮断した。
「これじゃあ普通の人間や動物は生きていけないな」
みんなはRPコントロールが出来るから大丈夫だろう。
ゆっくりと歩みを進めた。
氷の世界は大地は固く凍り、空気はどこまでも静かだ。
進めど進めど景色は変わらない。
「こんな世界に誰か居るんだろうか?」
変わらない景色を後にゆっくりと着実に進んでいく。
地面は固い凍りで滑りやすい。
「そうだ! RPを足に集中させてもっと早く進めないだろうか?」
俺はRPを足に集中するとロケットのように地面を踏み出した。
「おっ! 早い! 早い!」
今までゆっくりとしか進めなかったのが嘘のようにハイスピードですすめる。
足をついた場所には隕石が落ちたかのようなクレーターが出来た。
どんどん進んでいける。
その時、遠方に集落らしき影が見えた。
ちょうど地平線に見えるのでここから5キロぐらい先だろうか?
「よし! 一気に行くぞ!」
と、右足を踏み出した瞬間。
踏みしめた大地が割れ、身体が地面の底へと持っていかれた。
全身を包み込むような低い音がしたかと思ったら俺は水中に居た。
(ここは水中?)
調子に乗って大地を踏みしめていたら水に張った氷だったのだ。
身体がどんどん沈んでゆく。
底なしの暗い底に向けて。
(ま、まずい。どうやって脱出すれば?)
思いっきりRPを放出すれば水上へ出られるだろうか?
と、その時、身体に何かが巻き付くのを感じた。
水上へと身体が一気に引っ張られる。
「お、おおおお!」
空中へ一気に引っ張られたと思ったら地面へ放り出された。
うまく着地すると目の前に水色の長い髪、水色の瞳、白い肌の少女が立っていた。
「大丈夫? 君?」
「あ、ああ……。ありがとう」
「アタシの名前はブーリ、アンタは?」
「俺はアルス。もしかしてブーリが助けてくれたの?」
「ええ、そうよ。池に向かって思いっきり突っ込んでいくの見て驚いたわよ」
ブーリは楽しそうに笑った。
「今、思えば馬鹿な事したって思うけど気づかなかったんだよな」
「え? もしかしてこの世界に来たばかり?」
「ああ、ほんのさっき来たばかり」
「そっかー。それなら仕方無いね。それにアンタ運が良かったわよ」
「え? どういうこと?」
「ほんの最近までアタシも含めて誰も人助けなんてしなかっただろうからね」
「でも、ブーリは俺の事、助けてくれたよね」
「そう、だから運が良かった。アタシの住んでる村『ギンヌンガガプ』に行きましょ」
「ああ、それは助かる。どこを目指せばいいかもわからなかったから」
「じゃ、行きましょ!」
そういうとブーリは、どんどん先へと進んで行った。
最近まで誰も人助けなんてしなかったってどういうことなんだろう?




