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第七十二話 アイラと話をしよう ~ブライスの怨念の件~

 辺りは炎で囲まれている。

 目の前にはディシデリーズの塔がそびえている。


「夢だった……のか?」


 周囲を見渡しても誰も居ない。

 マグマのように赤く光る地面。

 あちこちに炎の柱があがっている。


 ふと気づくと、

 目の前に光に包まれたアイラが現れた。


「ア、アイラ!」

「アルス殿……」


 アイラは小さな声で俺の名前を呼んだ。

 アイラの体をよく見ると後ろの景色が、ぼんやりと透けて見える。


「アイラ、もしかして……」

「え、ええ……」


 アイラは俺の問いかけに答えた。

 俺の嫌な予感、疑問を言葉にする前にアイラは答えてくれた。


「さっきまで一緒に居た場所は夢だったのか?」

「いいえ、夢ではなく現実です。ワタシの現実です」


 アイラの身体は更に薄くなっていく。

 まるで光として拡散していくように。


「アルス殿、ありがとうございました。最後に故郷で楽しい時間を過ごせました」

「さ、最後って……」


 言葉につまった。

 しかし、俺はわかっていた。

 ブライスのあの全RPを圧縮した自爆攻撃。

 アイラはその全RPを使って俺を守ってくれたのだ。


「アルス殿、ありがとう……」


 もはや残像ほどの姿形しか見えなくなっている。

 

「ア、アイラあぁあああああああ!」


 拡散していく光の中でアイラは笑っているように見えた。

 アイラが消え去った場所は静まり返っている。

 

「アイラ……」


 俺は下を向いたままアイラと出会った時からの事を思い出していた。

 涙が地面に落ちると蒸発して消えてゆく。

 現実世界で見かけたのが初めてだった。

 その時は、他国のお姫様。

 俺なんて、とても近づけるような相手じゃなかった。

 それが、この世界へ来て一緒に冒険することになった。

 豪快でまっすぐで、この世界でも俺は引け目を感じたぐらいだ。

 しかし、アイラはそんな俺にも、俺以外の全ての人に平等にやさしかった。

 アイラが国のお姫様だからと近づきがたいと思っていたのは俺の思い込みだったのだ。

 アイラ自身は微塵もそんな事は考えていなかった。


 俺が悲しみにうなだれているとアイラが消え去った場所に黒い渦が巻き始めた。

 黒い渦は徐々に大きくなっていく。


「ま、まさか」


 俺が、その正体を予想するや否や、ソイツは現れた。


「ハッハッハ! 死ぬかと思ったぞ」


 黒い影だが、そのシルエットと声はブライスだ。


「お前、生きていたのか」

「ハッハッハ! なんだか力が溢れてくるよ!」


 黒い影から、これまでに無い巨大なRPの圧力を感じる。

 

「ハッハッハ! どうした!」


 RPとは意思の力。

 その力が強ければ強いほど。

 その信念が強靭なほど、大きくなる。


 だがブライスのそれは信念では無い。

 怨念と言っても良いだろう。

 悪意の力。

 意思とは真逆のベクトルの力。

 しかし、その悪意による怨念は巨大だ。


「ハッハッハ! どうした! どうした!」


 ブライスの影はより巨大になる。

 RPにして1億はゆうに超える。

 このブライスの悪意を止めることは出来ない。

 今までの俺では。


 アイラの世界をのぞいて何か気づくような感覚があった。

 まだ何かハッキリとは掴めていない。

 だが、この力。

 意思の力。

 アイラを思う力。

 フレイヤ、ノル、カール、そして、イズン師匠に、出会ってきた人々全てを思う力。

 RPの大きい、小さいなんて関係無いんだ。


「ブライス、お前は悲しい奴だな」

「ハッハッハ! どうした! どうした! どうした!

 もう諦めたか!」

「お前は元々生きてさえ居なかったんだな」

「な、なんだと!」


 ブライスの影が、たじろいだように一瞬ゆらいだ。


「この世界にお前は必要無いんだ」


 ブライスが無に帰すイメージ。

 いや、そもそも存在さえしなかった事を認識した。


「や、やめ、やめろぉおおおおああああああ!」


 ブライスは叫んだ。

 黒い影は、ゆっくりと拡散してゆく。


「や、やめ、やめろぉおおおおああああああ!」

「や、やめ、やめろぉおおおお!」

「や、やめ、やめろぉ……」


 黒い影と叫び声は静かに消えていった。

 静まり返った中で再びアイラの事を思った。


「アイラ……」


 炎に包まれた世界は、まるでアイラを追悼するかのように静まり返っていた。

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