第七十一話 アイラとデートしよう ~アイラの故郷の件~
「ここはどこだ?」
確か俺は……。
爆風に巻き込まれてアイラが代わりに……。
中世風の建物が立ち並び、河が流れている。
河には石畳の橋がかかっている。
だが、今まで居た世界とは明らかに異なっている。
道は舗装されたアスファルトで車が行き交っている。
「アルス殿!」
後ろから呼ぶ声に振り返るとアイラが居た。
白いドレスを来たアイラは花嫁姿のように見えた。
「アイラ……」
そうだ!
ここが現実世界なら俺の姿は元に戻ったのか?
焦って顔を触った。
顔の形を確かめて、手足や体型を見た。
「アルス殿何をやってるのですか?」
アイラが不思議な顔をして聞いてきた。
「い、いや。何でもない」
大丈夫だ。
俺はおっさんじゃない、若いアルスの姿形をしている。
「アルス殿、ここはワタシの故郷であるイギリスです」
「え? イギリス?」
「アルス殿はワタシの世界の事は知らなかったですね。ワタシが生まれた世界のワタシが生まれた国です」
「そ、そうか……」
俺はアイラに本当の事を話していなかったんだ。
本当は俺も召喚者で、今居るこの世界の日本の人間なんだ。
「アルス殿。食事に付き合ってもらえますか?」
「ああ、もちろん。ちょうど俺もお腹が空いてたんだ」
俺の返事も待たずアイラはどんどん街なかへと進んでいく。
アイラに俺が現実世界から来たと言う事を秘密にしているのが気にかかる。
少し足取りも重く感じる。
「アイラ! 待ってくれ」
アイラについて入ったお店は外から店内も見えてこぢんまりとしていた。
アイラは英語で注文するとテーブルに腰掛けた。
「アルス殿も早く座って。座って」
「あ、ああ……」
アイラはいつにも増してはしゃいでいる。
こう見るとアイラは普通の女の子なんだな。
アイラはイギリスの事を俺に教えるように色々な話をしてくれた。
両親や生い立ち、学生時代の思い出。
アイラがそうやって話をしてくれれば、くれるほど、俺も現実世界の人間だと言うことを秘密にしているのが悪く思えてきた。
「アルス殿! 来ましたよ!」
「え?」
テーブルの上に大皿が1つ置かれた。
大皿には見たことも無いぐらいの大盛りのフライドポテトとフィッシュフライが載せられていた。
「ワタシの大好物。フィッシュ・アンド・チップスです!」
「あ、ああ……」
「どうかしましたか?」
「いや、アイラはお姫様だと聞いてたからもっと上品な食べ物が好きだと思ってた」
「王室の食事は味気なくて、フィッシュ・アンド・チップスが大好物なんです」
「あ、ああ。俺もこういう方が好きだな」
「そうですか。良かった!」
アイラは大皿に載せられていた半分に切られたレモンを1つずつ両手に持って、いっきに大皿の上から絞った。
それからテーブルの塩をふった。
「どうぞ!」
アイラに進められて、フライドポテトを口に運んだ。
「うまい!」
「そうですか! よかった」
アイラは嬉しそうに言った。
フライドポテトは日本ではファーストフードで食べるぐらいで、本格的に料理された物は食べたことがなかった。
こんなに美味しいなんて。
「こっちの魚も美味しいですよ!」
アイラに進められてフィッシュにもかぶりついた。
「う、うまい!」
白身魚はホクホクしてパリッとした皮と合う。
レモンの香りが食欲を更に増進させて、塩味の旨さを引き立てる。
「アイラ、本当にうまいよ! こんなの初めて食べた」
「アルス殿も好きになってもらって良かったです。さあ、ここでこのタルタルソースを使ってみて下さい」
アイラは丸い更に盛られたタルタルソースを差し出してきた。
フィッシュをタルタルソースに沈めてたっぷりとつけて口へ運んだ。
「すごい!」
タルタルソースは、自家製なのか刻んだ玉ねぎの風味が生きていて、卵も黄身と白身がゴロゴロしている。このタルタルソースだけでも食べられるぐらい美味い。
「アルス殿! ポテトにはこのケチャップとマスタードもどうぞ」
ケチャップとマスタードも、もしかして自家製?
これまで食べたことが無いぐらい濃厚な味。
ポテトにもフィッシュにも合う。
「アルス殿。タルタルソース、ケチャップ、マスタード、どれも美味しいでしょう」
アイラは俺が、この世界の物を知らないだろうと思って嬉しそうに教えてくれている。
それ故に隠している事がつらい。
「なあ、アイラ」
「アルス殿、どうしたんですか? 急に真面目な顔をして」
「ごめん。秘密にしていたことがあるんだ」
アイラは手を止めて静かに俺の顔を見た。
「実は俺もこの世界の人間なんだ。日本でアイラを見かけた事もある」
一瞬アイラは驚いた表情をした。
「なんだ、そんなことですか」
アイラは笑いながら言った。
「アルス殿が真剣な顔をするから何かと思いましたよ」
「隠してた事について怒らないのか?」
「アルス殿はアルス殿ですよ。何を怒る必要があるんですか」
アイラは俺に気を使ってくれてそう言ってくれたのか、どうかはわからないが、救われた気がした。
その時、あたりが青い光りに包まれた。




