第六十六話 フレイヤとの思い出を思い出そう ~現実世界での思い出の件~
フレイヤは現実世界では古伊屋麗と言う名前で知られた社長令嬢だ。
俺は派遣会社の社員でフレイヤの会社へ派遣されていた。
フレイヤの会社は大企業なので一流大学卒の高学歴の新卒者でしか正社員になることは出来ない。
しかし、会社の仕事の大部分を支えるのは俺のように派遣されて来た人間だ。
剛力部長と細川が、俺に嫌がらせでダンボールを一階から最上階まで運ばせる嫌がらせをした。
その時、救ってくれたのがフレイヤだ。
あの日以降、フレイヤはたまに俺の仕事を手伝ってくれた。
俺は社内で雑用係のような立場だった。
社内ネットワークの管理が主な仕事なのだがパソコンや電気機器の故障で駆り出されるのは当たり前。
元来、人からの頼みを断りづらい性格もあいまってコピーや資料整理、ゴミ捨てまで何でも頼まれるようになってしまった。
フレイヤは社長令嬢で大学院まで出た後は会社の役員に就任する事になっていた。
会社の様子を大学生の内に知りたいとのことで会社に顔を出していた。
当然、大学生のフレイヤに振られる仕事は無く新卒と同じ研修を受けた後は他の人が割り振られないような仕事を自分で見つけてこなしていた。
立場は違うし、フレイヤはあくまでも自主的に探した仕事。
とは言え俺と同じ雑用をこなす事が多かったのだ。
「凡田さんは色んな事が出来てすごいですよね」
ある時、フレイヤは俺に話かけてきた。
「え? そんな大したこと出来ないですよ」
「だって、私のパソコン直してくれたし、会社のネットワークは全部管理してるんですよね?
この前はLANケーブルって言うんでしたっけ?
フロアに敷いて私の机のパソコンもネットが使えるようにしてくれたし」
「そんな事で。
パソコン直したって言ったってリカバリーしただけだし、
ネットもケーブル繋いでルーターの設定しただけだからね。
こうやって不要な紙をシュレッダーにかけるのと何もかわらないよ」
俺は社内資料をシュレッダーにかけながら言った。
「そんな事無いですよ。私には全然わからないですし」
フレイヤはシュレッダーにかける紙を俺に手渡しながら言った。
「それよりも古伊屋お嬢様の方がすごいですよ。
こんな老舗の大企業の役員になるなんて」
「生まれた家が恵まれていたというだけで全然すごくないですよ。
私は自分の手で何か作ったり、出来たりするようになりたかったんですよ。
凡田さんみたいに機械を自分で修理出来たり、パソコンやインターネットに詳しい人には憧れます」
フレイヤは微笑みながら言った。
本当に自分で手を動かして何かやることが好きなんだろう。
俺はフレイヤに褒められたような、憧れられているような気がして嬉しかった。
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「フレイヤ……」
そう言えば、そんな事もあったんだな。
忘れてた。
突然、異世界に転移して、それから今までフレイヤを現実に戻すため必死だった。
現実世界でパッとしない俺のことを慕ってくれたフレイヤ。
絶対に救い出して現実世界へと戻す。
フレイヤには俺が凡田だと話していない。
この世界に来て俺だけが何故か推定17歳さわやか水色ヘアーに青い瞳の細マッチョに転生していたのだ。
32歳何の取り柄も無い凡田なんて事は絶対に言えない。
1人黙々と塔を登った。
話す相手も居ないと昔の事が頭の中へと次々と浮かんでくる。
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「凡田さん、やっぱりすごいですね」
「え? こんなの全然ですよ。古伊屋お嬢様」
俺はウェブサーバーをターミナルを使って設定していた。
パソコンにうつる黒いウィンドウとコマンドの文字列がフレイヤには珍しいらしい。
「すごいですよ。まるで呪文みたいだし。
あと、1つお願いがあるんだけどいいですか?」
「お願い? 古伊屋お嬢様が俺に?」
「その古伊屋お嬢様ってのを辞めて欲しいんです」
「うーん。古伊屋お嬢様は、古伊屋お嬢様だしな」
「麗で、いいですよ。凡田さんは歳上だし」
「うーん。なんか呼び捨ては偉そうだし麗ちゃんはどうかな?」
「うん! その方が凡田さんらしいかも」
フレイヤは嬉しそうに言った。
名前の呼び方だけで、こんなに喜んでくれるなんて本当に純粋で何もかもが楽しいんだろうな。
「凡田さんは、結婚してるんですか?」
「え? 急になんだい? 結婚なんて出来ないよ」
「どうして? 凡田さん色々出来るしモテそうですよ」
「俺なんて全然ダメですよ」
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今、考えるとフレイヤは現実でもそれなりに親しかった。
いつも雑用を一緒にやっていた仲もあったんだろう。
そんな事忘れてたな……。




