第五十七話 『ヴァナヘイムの層』へ行こう ~カールの父親と兄貴の件~
ヘルが落ち着いた頃には他のフロアに飛ばされた仲間が戻ってきた。
「まさか転移魔法とは恐れ入ったね」
カールが一番最初に戻ってきた。
「大丈夫? アルス」
続いてフレイヤ。アイラにノルと全員無事だった。
いくら事前に仕込んだ魔法陣を使うとは言え、かなりRPもある仲間達に出来るのは転移が精一杯だったらしい。
俺はみんなにヘルのことについて話をした。
それにヘルにRPの使い方を教えた男とその仲間について。
黒髪に長髪、冷たい目を持つ男。
巨軀に銀髪、恐ろしい目を持つ男。
「おそらく、それは俺の親父と兄貴だ」
カールは暗い表情で言った。
まさかこんなことを……。
「カール待ってくれ。仮にカールの父と兄だとしてもヘルを操って神々に戦争をしかけようとしたかは、わからないんだ」
「ああ、たしかにそうだ。
けど、あの2人は力を追求するためには他のあらゆる犠牲をいとわない」
俺はヘルに聞いた。
「ヘルにRPの使い方を教えた長髪の男だが、神々へ戦いを挑むように仕向けたのもそいつなのか?」
「わ、わかりません……」
ヘルは、うなだれたままポツリと呟いた。
「自分が動く様子を、ずっと眺めているような感じで、自分の意思とは無関係にどんどん動いて。
辞めたくても自分は眺めているだけで何も出来なくて……」
ヘルは涙を流し口を閉ざしてしまった。
「ヘルは何者かに操られていたってことよね?
それならもうこれ以上責めることは出来ないわ」
フレイヤはそう言うとヘルの元へと近づき抱きしめた。
ヘルは泣きじゃくっている。
自分の手を汚さず他の者を使って、こんなことを。
許せない。
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エゼルさんの宿屋に戻り事情を話した。
ヘルは暫くエゼルさんが預かってくれることになった。
「ちょうどウチも手が足りなくなってきた所だったから助かったよ」
エゼルさんは笑いながらヘルの背中を叩いた。
「あ、ありがとうございます……」
ヘルはまだ元気が無いが、エゼルさんが面倒をみてくれるなら安心だ。
時間が少しづつ癒やしてくれるだろう。
「それで、あんた達はどうするのさ?」
エゼルさんは真剣な表情で言った。
「俺達は次の世界『ヴァナヘイムの層』へ行こうと思います。
そこでヘルを操った者達の手がかりを見つけられれば。
それに、俺達は元々ディシデリーズの塔を攻略する目的で登っているので」
「そうか、今日はもう遅いから夕食を食べて休んで明日出発しな。
食事と宿代は全てアタシの奢りだ!」
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食事を終え俺とカールはいつものように並んだベッドに横になった。
ランプもついていない部屋は真っ暗だ。
この世界は昼と夜があるのだが夜は真っ暗で当然ながら月が出ていることは無い。
夜は、ただ闇が広がっているのだ。
「なあ、カール。
起きてるか?」
「ああ……」
「お前の親父と兄貴って、どんな人だったのかな?」
「う~ん。
親父とは、ほとんど口を聞いたことが無いけど、とにかく怖かったな。
兄貴は俺の5つ歳上で怖くは無かったが、なぜか逆らうことが出来なかった」
「まあ、親父と兄貴って、そんなもんなのかな?」
俺には兄弟が居ないし父親は口は、ほとんど聞いたこと無いが怖くは無かった。
「親父に一緒に火山に連れて行かれた時、一度だけ戦っている所を見たことがある」
カールによると辺り一面炎につつまれた火山地帯に連れていかれたらしい。
正確な場所はわからないが、とにかく炎に包まれていた事が印象に残っているとのことだ。
カールの母親の病気に効くと言われている火山地帯にだけ咲く花を取りに行ったらしい。
その時、複数の火竜が現れカールの父親は戦うことになった。
一瞬の出来事だった。
カールの父親に襲いかかろうとした火竜は次の瞬間、バラバラに砕け散った。
「何が起きたのか?
親父が何をしたのか?
全くわからなかったよ」
「ものすごく強いんだな。
今も塔のどこかにいるんだよな?」
「ああ、ヘルの件もある親父に会って早く話を聞きたいよ」
カールは兄についても話してくれた。
兄はとにかく冷静で、そして残酷だったらしい。
RPの使い方を研究し、ありとあらゆる生物を使い実験を繰り返していたらしい。
「兄貴は正直苦手だったな。
あの冷たい目で見つめられると体が動かなくなって何か命令させるような気がしてさ」
カールは、とんでもない強さなのに、そのカールを従える兄に父親。
この世界は広く上には上がいるもんだ。
「なあ、アルス。
もしオレが兄貴と親父と戦うことになったら力貸してくれよな」
「何言ってるんだよ。
兄貴と父親なんだろ?
戦うなんて……」
俺は返事に困った。
「もし、ヘルを操っていたのが兄貴だとしたら……」
カールは寂しそうな声で言った。




