第四十五話 悪役令嬢と対決しよう ~マリア・アントーニア王妃の件~
ベッドに入って明かりを消して、しばらくたった。
久しぶりに落ち着ける。
こうやって宿屋で安心して普通に寝られるなんて久しぶりだ。
寝るのがもったい無くて色々な考えが頭をめぐる。
「なあ、カールもう寝たか?」
「いや、起きてるよ」
「なんか久しぶりに普通の世界って感じで安心出来るし寝るの勿体なくてね」
「オレもだ」
カールも同じ理由で眠れなかったらしい。
「カールは親父と兄貴探してるんだよな?」
「探してるというか、2人に追いつきたいって感じかな」
カールは、天井を見ながら答えた。
「アルスはフレイヤを元の世界に戻すためだっけ?」
「そうだな。元の世界に戻してあげたいんだ。
それにここだけの話、俺もその世界から来たんだよな」
カールの動きが止まった。
「ええええええ! そんな大事なこと今まで黙ってたのかよ!」
突然、ベッドから起き上がり叫んだ。
「ちょ、ちょっとカール静かに」
「なんでいきなりそんな重要なこと告白してきたんだよ」
「いや、なんとなく……」
「アルスも召喚者ってことか?」
「ああ……。
向こうでは、こっちの世界で言うところの村人未満のどうしようもない32歳だったんだよな。
フレイヤに言いづらくてさ」
「ふーん。けど、こちらの世界だと年齢なんて意味無いしアルス強いじゃん。
別に教えてもいい気がするけどね」
「いずれな」
カールに俺が32歳のどうしようもない奴だったと告白したが、カールの態度は変わることが無かった。
一晩中とりとめない話をしていつの間にか二人とも眠りについた。
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翌日、宿代を稼ぐためにさっそくギルドへと向かった。
ギルドマスターに一定の強さがあると認められればすぐに冒険者認可が降り仕事をこなせるらしい。
両開きのドアを開きドアをあけると、そこには屈強そうなダークエルフの冒険者達が居た。
亜人族と言ってもノルとは違いライオンやワニなどの強そうな者達もチラホラと居る。
「おいおい、なんだよ。あのガキども」
「ガキと猫と女」
馬鹿にした笑い声も聞こえてくる。
ギルドマスターはスキンヘッドの巨漢親父のダークエルフだ。
「あん? 何のようだ?」
いきなり凄んできた。
「え、えっと。冒険者の認可と仕事が欲しくて」
こういう奴は苦手だ。
「だーっはっはっは!」
スキンヘッドの巨漢親父ダークエルフは大声で笑った。
周りの連中も大笑いしている。
「あの、どうすればいいですか?」
「あん? RPを見せてみな。
RP1万あれば合格だ。
だが、お前さんのRPは蚊ほどにも感じないぞ? だーはっはっは!」
「わかりました。1万ですね」
俺は全員に耳打ちした。
「RP1万だって。控えめに10万ぐらいにしとこう」
「せーの」
全員でRP10万ほどを出力した。
「おおおおおおおお!」
スキンヘッド巨漢親父に周りの人間は驚きの声をあげた。
「わかった。わかった。
す、すまん。
あんた達、そんなに強かったなんて。
王妃様の近衛兵ぐらいの強さはあるよ。
合格、十分だ。
仕事も何でも紹介するよ」
宿代1人5000ペタ。
ギルドの仕事で『ボナコン』という牛が一頭120万ペタだった。
肉が美味しくて高値で取引されるのだが炎の糞を撒き散らす厄介な動物らしい。
1人10万RPあっても捉えるのは厳しいかもと話された。
本当は、昨日の時点で
アルス 2000万
カール 600万
フレイヤ 290万
ノル 260万
アイラ 320万
なんだけどよね。
あっさりと依頼をこなして三頭で360万ペタ手に入れた。
ギルドで換金して外に出ると鎧の兵士が路上に隊列していた。
辺りから村人の話が聞こえてくる。
「マリア・アントーニア王妃がお通りになるらしい」
「なんでも、また税金を上げるとかで領主様に話に来たとか」
「贅沢ばかりして俺達の税金を食いつぶしやがって」
「シッ、静かにしろ聞こえたら首を飛ばされるぞ」
マリア・アントーニア王妃、あまり良い王妃様では無さそうだ。
「ゆ、ゆるせん! なんたる下劣な行い」
突然、アイラが怒り始めた。
アイラは現実世界では国民に愛される王女様だった。
贅沢三昧で国民を苦しめるマリア・アントーニア王妃が許せないのだろう。
「アイラ、おさえて。ここで問題起こす訳にはいかないから」
フレイヤがアイラをなだめた。
「来たニャ!」
ノルが指差す先に馬車から見下ろす王妃様が居た。
黒く長い髪に黒い肌。
大きく尖った耳。
ダークエルフの王妃にふさわしい美しさだ。
しかし、その表情は村人を見下ろし見下すような冷たい視線だ。
「なーんだ。王妃様って言っても感じ悪いの」
カールが頭の後ろで手を組みながら漏らした。
「誰じゃ? わらわを中傷したものは?」
「やっべ、聞こえちまった」
カールはこっそりとアイラの後ろに隠れた。
ダークエルフは大きな耳だけあって地獄耳のようだ。
マリア・アントーニア王妃を乗せた馬車が近くまで来て止まった。
「お主達か? わらわを中傷したものは?」
「ああ、そうだ!」
アイラが叫んだ。
「アイラ、ちょっと何を突然」
俺が止める前にアイラは続けた。
「ワタシの名前は、アイラ・エリザベート。イギリス王家の正当な継承者よ!」
「ほう。王家とな。
見た所、召喚者じゃな。
今日のわらわは機嫌が良いでな。
許してやろう。
自称王家の者よ」
「な、なにを!」
アイラが爆発しそうだったのでとっさにみんなで止めた。
「も、申し訳ありません!
王妃様!
俺達この世界に来たばかりで」
謝りを入れるのは慣れている。
現実世界で伊達に32歳無職だったわけでは無い。
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結局、王妃様はあのまま立ち去った。
宿屋に戻るとキッチリと宿代も昨日のツケと明日の分も前払い出来た。
そして、一階で食事することになった。
「しっかし、アルスさすがだぜ。年の功ってのかな?
あんな時に頭下げられるなんてさ。
大人だよな」
カールが肉を頬張りながら話かけてきた。
「え? アルスってカールと同じ年齢でしょ?」
フレイヤが不思議そうな顔をして言った。
「い、いや。あれだよ。精神年齢が俺が老人並ってことだよ。
な、カール」
「お、おう! そうだ。同じ歳だったな」
カールも不自然に誤魔化した。
こいつ秘密を守れないタイプだ。
いずれフレイヤに俺が召喚者だとバラしてしまいそうだ。
「しかし、あのマリア・アントーニア王妃は許せない」
アイラはまだ憤っているようだ。
「聞こえたよ。
気をつけなさい。
誰が聞いてるか、わかりゃしないわ」
ドラウさんが追加の料理を持って来た。
「けどね。
本当に困るわ。
また税金が増えて、うちもやっていけないかもしれない……」
いつも元気なドラウさんが少し落ち込んでいるようだ。
ドラウさんの話によるとマリア・アントーニア王妃は相当な浪費家らしい。
最近は、その浪費により村人たちの生活まで脅かされているようで、反乱を計画する者まで出てきたようだ。
本当にギリギリの所で宿屋も営業しているとのことだった。




