第四十四話 新しい世界を探索しよう ~黒い妖精の件~
出口の扉を出ると、そこは『スヴェルトアールヴヘイムの層』
辺りには草原が広がり遠くに森がある。そして山も。
右手には村だろうか? 集落が広がっている。
そして、反対の左手にはお城と城壁が見える。
この世界は巨人のそれと違って普通のサイズのようだ。
大きさが普通というだけで安心できる。
「見てみろよ。村にお城があるぞ」
カールも気づいたようで遠方を眺めながら言った。
「まずは村に行ってみるのはどうでしょう?」
フレイヤが提案した。
「ワタシも村に行くのに賛成です。
どの世界でもお城に住む者達は色々と難しい面があります。
村の方が受け入れてくれる可能性が高いでしょう」
王家出身のアイラらしい。
たしかに別の世界から来た俺達を受け入れてくる可能性は村人の方が高そうだ。
「村に行くニャ! 村に行くニャ!」
ノルは喜びながら村の方向へと走り出した。
「おい! ノル待てよ!」
俺達はノルの後を追いかけた。
しかし、急いだ方が良いのも確かだ。
夕暮れで、もう日が落ちそうだ。
ディシデリーズの塔の中の世界は四方地平線が見えるほどに広く空には雲が広がる元居た現実世界と何一つ変わらない。
不思議なことに日も暮れ朝には日が登る。
太陽は無いので恐らく塔の天井が何かしらの原理で明るくなったり暗くなったりしているんだろう。
現実世界でも太陽は冷たい星で太陽の空のプラズマによる発光により明るいんだとか言う仮説もあった。
そんな原理でここも明るいんだろうか?
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ノルについて駆け足で30分ほどで村に着いた。
中へ入ると人々が行き交いに賑わっていた。
宿屋に武器屋、道具屋にギルドと最初に居た街とかわらない光景だ。
だが、行き交う人々が俺達と全く違う外見だ。
「すっげえ! エルフじゃないか?」
カールが叫んだ。
「けど、みんな暗黒の巨人達のようね」
フレイヤが言った。
村人は大人から子供までヒトと変わらない大きさだ。
しかし、背中には羽根がついていて耳は尖っている。
みんな漆黒の闇のような黒い肌をしている。
ダークエルフというやつだろうか?
「あんた達、どっから来たのさ?」
やたら恰幅のいいオバちゃんダークエルフに声をかけられた。
「は、はい。俺達下の世界から来ました」
「ほう。珍しいね。ならアタシん所に泊まんなさいよ。そこの宿屋よ」
「ぜひお願いしたいのですが、お金はこれで大丈夫ですか?」
俺は持っていたデジを見せた。
「あー。だろうね。来たばかりじゃあね。ここじゃあ使えないわね」
「そうですよね……」
俺がガッカリしているとオバちゃんダークエルフは続けた。
「ギルドで仕事をこなせば金になるし、どうせ泊まる所も無いでしょ。
今日の所は、ツケ払いでいいわよ」
なんという太っ腹。
ノルの習得した白いドアの力でホームに戻ることも出来るんだが、この世界を知るために宿屋に泊まれるのはありがたい。
「ありがとうございます。え~っと……」
フレイヤがお礼を言い詰まるとダークエルフおばちゃんが言った。
「アタシの名前はドラウよ。宿屋のドラウ」
「ありがとうございます。ドラウさん」
フレイヤに続いて俺達もみんなで礼を言った。
「いいってことよ」
ドラウさんは大きく笑いながら言った。
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宿屋は3階建てで1階は食堂と受付にお風呂。
2階と3階は客室になっていた。
男女で2部屋を用意してもらった。
中は広くてベッドが4つあり十分な広さだ。
俺とカールは同じ部屋だがベッドを1人2つ使えるので、思わずはしゃいでしまった。
部屋に荷物を置いて1階の食堂へ降りると夕食が準備されていた。
パンにシチュー、サラダとフルーツ。
なんだか久しぶりに目にするちゃんとした料理だ。
「うっめえええええ!」
カールがテーブルに着くやいなやシチューを口にして叫んだ。
「カールったら行儀が悪いわね。さあ、みんな頂きましょう」
フレイヤがそう言うとみんなも食べ始めた。
「お、おいしい」
思わず言葉が出てしまった。
なんだか懐かしい母親の作ってくれたシチューを思い出す。
そう言えば母さんのことは忘れていた。
現実世界に居る時は数年に一度実家に帰るぐらいで、連絡も数ヶ月に一回入れているだけだった。
連絡つかなくて心配してるかな……。
「おやおや、そんなに急いで食べなくても、まだまだ沢山あるからね」
ドラウさんが、空っぽになったカールのお皿にシチューをよそいながら言った。
「ありがとう! ドラウおばちゃん!」
カールは大きな声で礼を言った。
「そんなデカイ声でおばちゃんってのは失礼だね」
「ご、ごめんなさい。ドラウお姉さん」
カールを見てドラウさんは大きな声で笑った。
「ドラウさん。この世界について教えて欲しいんですが」
俺が質問するとドラウさんは饒舌にこの世界について教えてくれた。
この世界はダークエルフが支配していること。
村の外に魔物などは居ないが凶暴な獣も居るため気をつけないといけないこと。
この世界には五つの村と、その村を治める王が居ること。
しかし、王は実質、妻である王妃の言いなりであること。
最近、王妃の贅沢のため税金が上るばかりで村人たちが良く思っていないこと。
「なんだかワタシの居た世界と似ています」
アイラが口を開いた。
「王や王妃は民衆のために尽くし、その生命を捨ててでも民衆を敵から守るものだと思うのですが、危険の無くなった世界では王や王妃は義務が無くなり権利だけが残り、そして勘違いするのです」
「まあ、立派だねぇ。この世界の王様と王妃様もそんな考えだったらいいのだけど」
ドラウさんは目を大きくあけて言った。
「アイラは元の世界ではお姫様だったようなんです」
俺はドラウさんに教えてあげた。
「まあ、そうなの。お姫様だなんて。この世界の王様と王妃様もアナタのような考えだったらよかったのに」
「私もアイラさんの考えに賛成です」
フレイヤは言った。
そうだフレイヤも社長令嬢だ。それこそお姫様みたいなものだ。
そう言えばフレイヤは俺のことを守ってくれたし、フレイヤの会社は何だかんだ言って社員は給料も安定して平和に暮らしていた。
この世界は魔物も居ないし、ドラウさんのように普通の人達が暮らしているようだ。
しかし、現実世界のように政治的な問題が沢山ありそうだ。
俺達は食事を終えると各自部屋に戻り明日に備えることにした。




