第三十八話 RPコントロールの修行をしよう ~黒い巨人の白いロッドの件~
「全ては5人の黒い巨人が来てから変わったんですじゃ」
ブーリ村長は神妙な面持ちで語った。
何でも数年前に漆黒の闇のように辺りの光を吸収するかのような黒いシルエットの巨人が突然現れたらしい。
名を「空人」「風人」「火人」「水人」「地人」と言った。
キャジンは、このヨトゥンヘイムの層の塔の100層に住み、他の巨人も塔にそれぞれ住んでいた。
そして、塔の外に居たアジンは、いつもこの村へ食料等を調達しに来ていた。
この時までは村の収穫物の一部を差し出すだけだったのだが、ほんの数日前から状況は一変した。
アジンがどこかへ消えてしまったのだ。
そして、塔の50層に居たバジンが代わりに村へ来るようになった。
バジンはアジンに比べ気性も荒く、何より下っ端のアジンが消えた事で自分が一番下になり相当苛立っているようだ。
「もしかして消えたアジンってのは」
カールが静かに口を開いた。
「ああ、そうだ。お主が持っているその斧だ」
ロキさんが鋭く答えた。
「ブーリ村長。申し訳ない。その5人の黒い巨人は我が生み出したのです」
ロキさんはブーリ村長に全てを話した。
「我が責任を持って残りの巨人も片付けます」
ロキさんは厳しい表情で強く約束した。
「ふむ。そのような事情であったか、お主の探しているシギュンさんと言ったかの。
白いロッドを使ってはおらんかったかの?」
「なぜ、それをご存知なのですか?」
ロキさんは驚いた表情を見せた。
「ふむ。最も巨大なキャジンの右肩に白いロッドが刺さっているのが見えたんじゃ。
漆黒の闇のような体の右肩だけが光っていて目立っておったよ」
ロキさんはシギュンさんの事を思い出したのか、その話を聞くと押し黙ってしまった。
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ロキさんとダイアナは一旦、アースガルズへ帰った。
このユミル村で、俺とカールがイズン師匠の指導の元、RPのコントロールの訓練をするためだ。
4人の巨人の戦力が不明な以上、可能な限り隠密に行動し1体ずつ確実に倒す必要がある。
どれほどの戦力かわからない巨人に徒党を組まれた時の事を考えたら1体ずつ順番に戦うのが安全だ。
「この訓練は一週間以内で完了させるだわさ」
「はい!」
俺とカールは元気よく返事した。
ユミル村の宿の庭で修行することになったのだが、庭とは言えとにかく広いので俺達にとっては大自然の中の草原だ。
俺とカールは、何も無い草原でただ何もせず目をつぶって立っていた。
「さあ、とにかく存在感を消すイメージだわさ。
自分自身の肉体さえも体の中心に全てが吸い込まれて、この世界に何も無くなるイメージをするわさ」
存在感を消すイメージなら簡単だ。
だいたい今までの人生、存在感あった事の方が珍しい。
そうだな。
存在感を消すイメージはあれだ。
俺は学校や職場でトイレに行こうとした時、知ってる奴が居たら相手に気づかれないように存在感を消してやりすごす。
その時のイメージだ。
急に動いたら気づかれる。
目が合ってしまったら気まずい。
そうならないようにゆっくりとまるで体が空気中へ霧散していくようなイメージで離れるんだ。
「え! 何なの! あんた達」
イズン師匠の驚く声が聞こえてきた。
アルス RP0
カール RP5
「カールは元々RPのコントロールに長けていたからこれぐらいはイケると思ってたわさ。
それでもこの短期間というか始めたばっかりで!
そして、アルス、あんたは何なの! RP0なんて前代未聞よ。
そんな領域に達した者は今まで聞いたこともないわ」
イズン師匠は驚いているようだ。
だが、俺は平静を保ち仙人タイムを維持する。
齢30を越えた俺の仙人タイムの精神は、もはや植物の域。
いや、路傍の石すら越えて、無を超越した認識の範囲外なのだ。
「ちょっと、アルス、いったん、いいわさ。二人とも目を開けて」
俺とカールは目を開けた。
「ほんと、あんた達には驚かされるわさ。
今の感覚を常に維持出来るようにこの村で普通に暮らすだわさ」
「はい!」
俺とカールは自信げに返事した。
「しっかし、アルスにはRPのコントロールでは負けない自信あったのに今回は完敗だよ」
カールは悔しそうに言った。
「ふっふっふ。カール。君はまだ若い。
俺の仙人タイムは人の認識の外側にあるのだよ」
「ちぇっ、なんだよ。同じ歳なのに。
しかし、人の認識の外側とかカッコいいな。
俺も人の認識の外側のイメージでやろうっと」
カールのような輝くエリートが俺の領域に達するには何年かかることやら。
まあ、生温かい目で見守ってやろう。
「下らないこと言ってないで、今からスタードだわさ」
妄想してたらイズン師匠に怒られた。
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一週間後、俺達の訓練を終え。
ロキさんとダイアナも合流した。
「あ~ら、少年達驚きだわね」
ダイアナは関心している。
アルス RP0
カール RP3
結局、カールはRPを3までしか下げることが出来なかった。
しかし、これでも世界トップクラスだろうと言うことだ。
ちなみに俺は仙人の領域だ。
「アルス、あんたほんと凄いわね。天才的な才能だわさ」
「いや、なんか、そう面と向かって言われると褒められているよりもけなされているような……。
しかし、大変でしたよ存在感なさ過ぎて村の巨人に何度踏み潰されそうになったことか」
「うん、やりすぎだわさね。
これからは行く場所に応じてちょうどいいRPにするわさ」
「は、はい……」
うん、なんだか無意味な天賦の才な気がしてきた。
けど、敵から隠れる時とか役に立ちそうだし良かったはずだ。
「ところでロキさん。黒い巨人の白いロッドの件ですが……」
俺は恐る恐るロキさんに聞いてみた。
「ああ、あれは我がシギュンにプレゼントした物だよ。
5体の黒い巨人との戦いで最後に持っていたのもあの武器だ」
ロキさんは少し寂しそうな表情をした。
「必ずシギュンさん見つけましょう!
やっと手掛かりが見つかったんですから」
俺は励ますためと思って勢いよく言った。
もっと上手く言えただろうが、俺にはこれが精一杯だ。
「ああ、ありがとう」
ロキさんは少し笑った。
「さあ、行くわさ。
このヨトゥンヘイムの層、塔の攻略と黒い巨人の討伐だわさ。
そして、必ずシギュンを救うわさ」




