第二十三話 カールと出かけよう ~少年の事が少しわかった件~
「みんな地道な特訓に一ヶ月も耐えたわさ。
いよいよ100層の『餓鬼』へ挑むわさ。
と言う前に」
イズン師匠はホームの広間に全員を集めて話しだした。
「三日間休暇を取るわさ。
各個人自由行動。
でも、出来るだけ誰かと一緒に行動するのが望ましいわさ」
「え? なんで?」
カールが無邪気に質問した。
「そうさね。
三日間の休暇は己自身の覚悟を再確認するため。
訓練漬けだった体を休めるため。
そして、パーティーメンバーお互いを理解するために必要だわさ」
「とくにアルスとカールはね」
イズン師匠がニヤニヤしながら見てきた。
また、何か妄想してるんじゃないよな?
「カールがパーティーに入って一ヶ月ほど。
年齢の近いアルスが一番仲良くなるかと思ったら、
お互いにまだ心を開いてないようだわさ」
確かに言われてみればそうだ。
俺はカールに対するコンプレックスみたいなものがあり、ついつい壁を作ってしまう。
カール自身も俺やみんなに壁を作っている気がする。
いや、何か秘密があるように感じる。
「カール。この街で毎月恒例のお祭りやってるから行ってみようぜ」
中身的には、おっさんで年上なので俺からカールを誘った。
フレイヤに一度誘われたお祭りだ。
俺の知ってるこの世界のイベントなんてこれぐらいしか知らない。
「いいね! わーい!」
カールは素直に喜んでいる。
バカみたいに強い所を考慮しなければ本当にただの元気な高校生だ。
「って、事で俺とアルスはお祭り行ってきます!
行こうぜ! アルス!」
「ああ!」
二人で全力で走って外へと駆け出した。
「ノルも行きたいニャ!」
「ちょっと待って!」
「アルス殿! カール殿!」
ノルにフレイヤ、アイラの止める声を残して勢いよくカールと待ちへ向かった。
たまにはヤロー同士もいいだろう。
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あいかわらずお祭りはにぎわっていた。
「アルス! あれやろうぜ!」
カールが指差す先にはゲーセンによくあるパンチングマシーンがあった。
「最高記録者には賞金100万デジ! さあ! 誰か挑戦する者は居ないか?」
商人が叫んでいる。
一回の参加費は500デジ。
賞金100万はおいしい。
しかし、周囲に居た人々が噂している。
「あれ、無理だよ。
とんでもない奴が現時点の最高記録者。
しかも商人とソイツはグルらしい。
やるだけ金の無駄だね」
「なんでもマイク・サップとか言うチャンピオンらしいぞ」
「あー、あれ詐欺だよな」
酷い言われようだ。
どうもお祭りに有りがちな闇が深い出し物のようだ。
「って! おい! カール!」
カールは既にパンチングマシーンの前でやる気満々だ。
「おお! 少年! 勇気あるぞ!」
商人がニヤニヤとしながら話している。
絶対にハメられた。
「おっちゃん! 10万ポイントってのを越えればいいの?」
カールは商人に質問した。
只今のチャンピオンの記録「10万ポイント」とデカデカと表示されている。
「そうだ。少年。頑張れ!」
商人はカールのような子供が絶対に記録を越えられないだろうとわかっているだろうに。
「それじゃ遠慮なく。せーの!」
カールが思いっきりパンチングマシーンを殴るとその数値が表示された。
30万!
「やったー! おっちゃん! 賞金は俺の物だね!」
商人は口をあんぐり開いたまま呆然としている。
「アルスもやってみなよ!」
「俺はいいよ。こういうの苦手だし」
曲がりなりにも全力で殴ってアースガルズの城壁に穴あけたぐらいだ。
こんなパンチングマシーンどれぐらいの力で殴ればいいか?
検討もつかない。
「ちょっと機械の調整がうまくいってなかったみたいです。
今のは無効になります。
はい、参加料の500デジも返しますから」
商人が突然、無茶苦茶なことを言い出した。
なんて奴だ。
「その調整した機械で俺が挑戦していいですか?」
思わず言ってしまった。
「お! アルス! 俺のカタキをうってくれ!」
カールも面白半分に俺を煽ってきた。
こいつ賞金とか別にどうでも良かったんだな。
商人はニヤリと不敵な笑みを浮かべると何か機械をいじりはじめた。
こいつ絶対何か細工している。
「どーも、すいません。
お待たせしました。
どーぞ!」
商人は自信たっぷりに煽ってきた。
「それじゃ、いきます。せーの」
大人気なく思いっきりぶん殴るとパンチングマシーンは粉々に砕けながら遥か彼方へとぶっ飛んだ。
商人は、さっきの10倍はあんぐりと口を開いて唖然としている。
「逃げるぞ! アルス! アハハハ!」
カールが笑いながら駆け出した。
「待てよ! カール!」
俺も後をついて、その場から立ち去った。
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「見たかよ。あの商人の顔。こーんな感じでさ」
カールはさっきの商人のあんぐりした顔を真似して面白がっている。
「ハハハハハ! 確かにな」
確かに俺たちをハメようとしたあいつのあの顔。
愉快だ。
街外れの草原に腰掛けて二人で笑いあった。
「ありがとうな。アルス」
突然、カールが真剣な顔でお礼を言ってきた。
「え? 何が?」
「こうやって俺と普通に遊んでくれてさ」
「なんだ。そんなこと当たり前じゃん」
カールは突然何を言い出すかと思った。
「俺さ。冒険者として有名なグスタフ家に生まれてさ。
小さな頃からずっと訓練ばかり」
カールが自分の事話すなんて初めてだな。
「それに俺小さなガキの頃からRPが高くてさ。
周りから化物だって避けられてたんだよな。
アルスはそんな俺のこと避けるわけでも無いし、変に媚びることもないし、普通に接してくれて感謝してるんだ」
「なんだ。そんなことか。
俺もRPだけは化物じみてるしな。
化物仲間だよ」
「そうそう。アルスの方がよっぽど化物だよな。アーハッハッハ!」
カールは思いっきり笑った。
「おいおい! それはねーだろ!」
「ごめん。ごめん。やっぱりアルスと居ると面白いや」
そう言えば現実世界でも居たな。
あれは俺が小学生の頃だったか。
小さな頃から家庭教師がついて勉強ばかりで誰とも遊ばない奴。
テストの点はいつも良かったがクラスでは浮いていた。
どの世界でもエリートにはエリートの苦労があるんだな。
「なあ、カール。
なんでディシデリーズの塔を攻略してたんだ?」
「ああ……。
俺の家では男はディシデリーズの塔を一人で越えて初めて一人前って言われてるんだ。
それで半ば強制的に家を出された。
塔を攻略するまで戻ってくるなってさ」
「え? それじゃあ、カールの一家はディシデリーズの塔を攻略したってこと?」
「らしいね。
ただディシデリーズの塔を攻略した親父と兄貴は出て行ったっきり。
本当の所はわからない」
「なんだか複雑だな……」
いつも明るくふるまっているカールだが小さな頃から苦労しているようだ。
「カール。これからもよろしくな」
なんだかカールをなぐさめたくて思わず言葉が出た。
「アルス。こちらこそ」
カールは微笑みながら右手を差し出して来た。
握手して力強く握ってやった。
カールと少しだけ仲良くなった気がした。




