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 間話 悪役令嬢になろう ~アイラが悪役令嬢になった件~

「なあ、アイラ。悪役令嬢になってくれないか?」

「アルス殿。唐突に何ですか? 悪役令嬢とは何でしょうか?」

「悪役令嬢は今人気のキャラクターらしい。

 元々本物の王女様であったアイラにしか出来ないんだ。

 それに正義のためだ……」

「な、何ですって!? 正義のため?

 それならお力を貸しましょう。

 アタシはどうすれば良いですか?」



---



 数十分ほど前。

 街なかの公園をフラフラと歩いていた時だ。

 一人で泣く小学生ぐらいの女の子を見かけた。

 周りの大人は誰も声をかけていない。

 異世界でも事なかれ主義ってのが蔓延してるのかね。


「どうしたの?」

「うぇん。ヒック…。あ、あそこ。…ヒック」


 女の子の指差す先には木の枝にひっかかった人形があった。


「あれか? 取ればいいの?」

「う、うん……」


 いじめられて木の枝にでも投げられたんだろうか?

 酷い事をする奴がいるもんだ。

 軽くジャンプして人形を取った。

 マントに王冠、典型的な王子様の形状をしたプラスチック製の何の変哲もない人形だ。

 プラスチック?


「もしかしてお嬢ちゃんは召喚者なの?」

「う、うん」


 現実世界から持ってきた人形か。

 プラスチックの感触が懐かしくなんとなく右足の部分を触ってみた。

 すると……。


「あ! 足が取れた!」

「え!?」


 女の子の顔が硬直した。

 や、やばい。

 右足を拾ってつけようとしたら……。

 ひ、左足まで!

 おおおおおお! 右手も左手も!

 胴体から外れて落ちた。


「ご、ごめん……お嬢ちゃん」


 最後に王子様の首が地面に落っこちた。


「う、うわああああああああん!」


 女の子が強烈な勢いで泣きはじめた!

 周りの人々が、こちらを冷ややかに見ている。


「ご、ごめん! 何とか直すから!」

「な、なおらないわよ! うわああああん!」

「ご、ごめん! な、なんでも言うこと聞くから! とりあえず泣き止んで」

「なんでも? うわあああああん!」

「そうだ! なんでもだ!」


 女の子はピタリと泣き止んだ。


「そしたらねー。ウルドはぁ。異世界で見たいものがあるの」


 この子、ウルドって言うのか。

 しかし、ピタリと泣き止んだ所といい自分を名前で呼ぶ所といい。

 これは嫌な予感しかしない。

 しかし、異世界で見たいものなら異世界プロの俺からすれば簡単な事。

 なんでも来いだ。


「そっかー。ウルドちゃんは異世界が好きなんだ。

 それで見たいものって何かな?

 なんでもいいよ。

 こう見えてお兄ちゃん異世界に詳しいからね」

「ウルドが見たいのはぁ」

「見たいのは?」

「悪役令嬢!」

「? あくやくれいじょう?」

「そう! 悪役令嬢!」

「いや、異世界って言ったらドラゴンとか魔物じゃないのかな?」

「え? 悪役令嬢見れないの? …ヒック」


 あ、泣きそうだ……。

 まずいぞ、これは悪役令嬢なんてこの世界に居るのか?

 ウルドがどんどん泣きそうな顔になってくる。


「ま、待ってくれ!」


 そ、そうだ。

 アイラが居た。

 アイラに悪役令嬢になってもらおう。

 元々王女だし背が高くて迫力もある悪役っぽいだろう。

 俺は天才かもしれない。


「俺はアルス。

 すぐに戻って来るからここで待っててくれ!」



---



 と、まあ。

 こんな感じの俺を救う正義のためにアイラには一肌脱いでもらいたい。

 アイラには細かな話はいらんだろう。

 言ったら断られそうだし。


「うん! アイラ似合ってるよ!」


 俺が道具屋で手に入れて来た衣装がバッチリ似合っている。

 悪役っぽい。


「アルス殿! これが悪役令嬢と言うやつですか?」

「うん。そうだ。たぶん……」


 SMの女王様のような黒いピッチリした黒い衣装。

 ブーツにムチ。

 そして女王らしく赤いマントをつけてみた。

 アイラの高身長と巨乳なナイスバディが良く似合っている。

 魔王直属四天王と言われても遜色無いほどだ。

 悪役令嬢って言うのはヒロインを苦しめる役ってのは知ってるのだが、少女漫画や乙女ゲームにうとい俺には詳細まではわからない。

 まあ、こんなもんでいいだろ。


「よし! 行くぞ! アイラ!」

「は、はい!」



---



「ウルドちゃん。お待たせ! こちら悪役令嬢のアイラお姉さんだ」

「ウルド殿。はじめまして」


 ウルドはポカーンとしている。


「こ、こんなの違う……」

「え?」

「うわああああああああん!」


 ウルドが豪快に泣き出してしまった。


「ア、アルス殿! これは何ですか! 話が違う! 正義は? 正義はどこにあるのですか?」

「いや、ちょっと待て! アイラ! これには深い訳があってだな」


 その時、聞き覚えのある声で話しかけられた。


「なーにやってんのさ。アルス」


 イズン師匠だ。

 なぜかウルドもピタリと泣き止んだ。


「悪役令嬢とか叫んで出ていったから追いかけて来てみたら……」

「すんません。イズン師匠」

「さ、帰るわよ」

「え? でも。ここの女の子ウルドが……」

「バカねぇ。この子は、このあたりで有名な子よ。

 どうせ人形が壊れたとか言って無理難題ふっかけられたんでしょ?」

「え?」


 ウルドはきまりの悪そうな顔をしている。


「そうなのか? ウルド」

「まあ、バレちゃあ仕方無いわね。

 暇つぶしよ。

 暇つぶし!」


 イズン師匠は呆れた表情で言った。


「ほらね。帰るわさ。

 まったく何やってんのか」


 イズン師匠は背中を向けて歩きはじめた。


「ま、待って下さい。イズン殿!」


 アイラもイズン師匠について言った。


「アイラも最難だったわね。

 ウルドというかアルスに気をつけなさい」


 二人は話ながら立ち去っていった。

 ウルドはふてくされて視線を下に向けている。


「なあ、ウルド。お前、お父さんとお母さんは?

 召喚者なんだろ?」

「居ない。一人でおつかいに出て気がついたら異世界に居たから」


 ウルドは寂しくて構って欲しくてこんなことやってたんじゃないんだろうか?


「今、どこに住んでるんだ?」

「ギルドマスターのところ」


 ダイアナの所か。

 それなら安心だな。


「ダイアナの所か。お兄ちゃんもお世話になってるよ」

「ダイアナのお姉ちゃんには言わないで、心配かけたくないから」

「わかったよ。でも、もうこんなことするなよ」

「わかった」

「今、お兄ちゃん召喚者の友達の女の子が元居た世界に戻れるように頑張ってるんだ。

 もし、戻れることがわかったらウルドにも声かけるから」

「ほ、本当!?」

「ああ、だからイタズラしたりするんじゃないぞ」

「うん。わかった! お兄ちゃん大好き!」


 ウルドは飛びついて来た。


「ま、待て! こんな所、見られたら!」


 フレイヤのため。

 そして、この子のためにもディシデリーズの塔100層を突破しなくてはならない。

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