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第十九話 魔法を習得しよう  ~イズン師匠の過去の件~

「80層フロアボスはスライムだわさ」

「え? スライムですか? あのザコの定番のスライムですか?」

「それどこの話だわさ? 直接攻撃が効かないスライムは強敵よ。

 今のアナタ達では勝てる見込みゼロだわさ」


 確かに最近はスライムは強敵みたいな流れがあったな。


「そこで今回は魔法の訓練をして80層フロアボススライム攻略に臨むわさ」

「魔法ニャ! 魔法ニャ!」


 ノルはうれしそうだ。

 フレイヤがイズン師匠へ質問した。


「ここに居るみんな違う系統を訓練するということでしょうか?」

「そうだわさ。各々の資質にあった魔法を習得してもらうわさ」


 それで今日は白い扉の先のこの訓練部屋にみんな呼ばれたのか。

 この部屋には久しぶりに入ったが、白い床が地平線まで続き天井は見えない。

 とにかくだだっぴろい場所だ。


「まず簡単に魔法について説明すると、

 魔法とはRPで自然現象を誘発する事だわさ。

 RP1で大気を振動させ火を起こすとRP1以上の破壊力を出せるわさ。

 RPのコントロールを磨けば10倍にも100倍にも効果は上るわさ」


 俺も魔法を使えるようになるんだろうか?

 今の所、おせじにも魔法とは言えない他の人にRP自体を配るような事しかできない。


「師匠! 俺にも魔法使えるようになりますか?」

「あー、アルス。あんたは無職だから無理だわさ」

「え?」

「無職だからねぇ……」


 イズン師匠は憐れむような目で見ながらポツリと言った。

 やはり無職はこの世界でもピラミッドの最底辺じゃないか。


「と言うのは冗談よ。アルス、あんたがある意味一番魔法適正があるわさ。

 あんたの場合はRPによる副次的な効果じゃなく、

 RPそのものをコントロール出来るわさ」

「し、師匠。冗談は辞めてください。俺が無職気にしてるのしってるでしょ!」

「あら、立派な職業なのにねぇ。無職」


 無職って職業無いから無職なのに。

 無職が立派な職業とは……。


「さあ、さっそくそれぞれ訓練を始めるわよ。まずはアイラ」

「はい!」

「あんたは拳のインパクトの瞬間だけ使用している炎系等の魔法。

 これを遠隔でも利用できるようにするわさ」

「承知しました!」


「次に、ノルちゃん。

 あんたは土系統の魔法よ。

 袋の中に無意識に展開している空間魔法。

 これは土系統魔法の上位空間系統魔法。

 ただの土系統の魔法はすぐに習得可能だわさ」


「ニャ? ニャ? ニャ?」


「うーん、ノルちゃんには難しかったかわさ?

 簡単に言うと石を作って飛ばす魔法よ」

「すごいニャ!」


「そしてフレイヤ。

 あなたは風系統に属するわさ。

 空気を操作して真空を生み出し攻撃する魔法を習得するわさ」

「かしこまりました!」


「最後にアルス。

 あなたはRPで光弾を作って攻撃する魔法。

 魔法というよりこれもRPの形態のうち1つ。

 RP1を消費したら1の破壊力だわさ。

 ちなみに味方にぶつければRPを回復させるようにも可能。

 全てはイメージ次第だわさ」

「し、師匠、それは魔法のメリットがまったく無いのでわ」

「破壊力という意味ではね」


 なんだか意味深だが何か考えがあるんだろう。

 まずは習得だ。

 現実世界で俺は学校の先生や上司の言うことをあれこれ理由をつけてやらなかったが、この世界では違う。

 まずはやってみて出来るようになってから考える。

 俺も異世界へ来てずいぶん成長したな。

 王並のうつわだな。


「ちょっとアルス。またぼんやりして何想像してんの?」

「す、すんません」


 イズン師匠、俺の心の中の妄想の暴走をどんどん敏感に感じるようになってきてるな。


「さあ、各々訓練開始よ!」



---



 3日ほどがすぎると、

 アイラは炎の魔法を10メートルほどの周囲へ焚き火ほどの大きさで出せるようになった。

 ノルは握りこぶし大ほどの石を相当な勢いで飛ばせるようになっていた。

 フレイヤはノルの作った石を真っ二つにするほどの威力の真空を発生させていた。


 そして俺は未だにうまくコントロール出来ず……。


「まあ、あんたの場合は特殊だからね。

 時間はかかるわさ」

「何かヒントないでしょうか? 今の所まったく手応えないです」

「あー。そうね。あんたの場合は全て自分自身と一体となり、その一体となった世界で自分のイメージを具現化するのよ」


 なんだかわかったような。わからないような。

 今までのようにイメージが重要ってことか。

 まずは自分自身と一体となるイメージ。



---



 ロキさん?

 ギルドマスターのダイアナ?

 それにロキさんの隣の女性はロキさんの亡くなった恋人?

 俺は?

 この小さな体に右手の赤いリンゴ。

 イズン師匠の体だ。

 イズン師匠の記憶なんだ。

 

 イズン師匠はロキさんにRPを注いでいる。

 ロキさんは俺の剣を作った時のように塊を打っている。

 ここは俺の武器『レーヴァテイン』をロキさんが作ってくれた工房のようだ。

 ロキさんとイズン師匠がこれから作る武器の素材を囲んでいる。

 その少し離れた場所にロキさんの恋人。

 更に離れた部屋の端にはギルドマスターのダイアナが居る。


「ロキ。やはりやめましょう。危険です」

「シギュン、大丈夫だ。早く魔物を1体ここに転生してくれ」

「でも……」

「早くしてくれ!」

「シギュン大丈夫だわさ。あたしも居ることだし」

「イ、イズンがそう言うなら」


 ロキさんの恋人シギュンと言うのか。

 シギュンが何か魔法を唱えると眼の前にネズミが出現した。

 転生魔法?

 召喚魔法? 

 いずれにしろ高度な魔法には違いない。


 黒い閃光が走ったかと思うとロキさんの前に黒いナイフが出現した。


「実験は成功だ! 武器や道具に魔物のRPを意思と一緒に打ち込めた」


 ロキさんが声高に叫んだ。


「試しに使ってみようかしら」


 ダイアナがナイフを振ると先程召喚したネズミの幻影が一瞬見えたかと思ったら、次の瞬間、ダイアナのナイフを振る手が加速した。

 ナイフを振る手が信じられないほど高速で出し続けられた。


「すごいわ。ネズミの俊敏な性質と体力がそのままナイフを持つ者に宿るようだわ」


 ギルドマスターダイアナは驚愕していた。


「さあ、次はいよいよ本番だ。

 ドラゴン、巨人を剣や斧に宿らせる。

 そして100層を守る門番をいよいよ倒すんだ」


 ロキさんは意気揚々と語っている。

 この頃は、ロキさん、こんなに明るい感じの人だったんだ。

 今は物静かで何か暗い雰囲気が漂っている。



---



「あたしの記憶でも見たのかしら?」


 ほんの数秒だったろうか?

 現実にもどった瞬間、イズン師匠に聞かれた。


「は、はい……」

「あなた、やはり相当共感能力が高いようだわさ。

 全ての根源たるRP、理論上はこの世に存在する全ての生物、無機物、現象、認識全ては一体。

 その全てに共感出来れば全てを自由にコントロールできる」

「お、俺にそんな能力があるのか……」

「通常、ヒトは肉体を持つことで空気を吸わなければいけない。

 食べ物を食べなくてはいけない。

 それらが束縛条件となってRPのイメージの限界を作るわさ」

「要するに俺は自由にイメージ出来るってことですか」


 まあ、確かに現実世界から転生してきたので俺のイメージに限界は無い。

 だって異世界なんだもん。


「ところでイズン師匠はロキさんやシギュンさん、ギルドマスターのダイアナとパーティー組んでたんですね」


 一瞬、イズン師匠の表情が暗くなったように見えた。


「いずれ話そうと思ってたことだわさ。

 暴走した魔獣マウスについて。ロキについて」

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