第十四話 ディシデリーズの塔30層を攻略しよう 前半 ~フレイヤとクロダの件~
イズン師匠にフロアボスとの戦闘中、ノルの記憶を見ることが出来た件を相談した。
通常、肉体を強化するためには、その肉体のイメージと一体化するイメージだけすれば良いらしい。
俺の場合、コントロールが上手くいかず意識まで一体となるイメージをしてしまいノルと意識が一時的に同化したとのこと。
RPは人間を構成する肉体と意識を構成するものであり、物や現象の根源でもあり、全てを生み出すモノらしい。
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30層へ着くと先客が居た。
100人以上は居る。
ヒムロ達だ。
ゴウリキにホソカワも居る。
200人は居るというヒムロの所属する中隊だ。
「あ、貴方達も、まさか、ここまで攻略してきたのですか?」
ヒムロが俺たちに気づいて驚いたように言った。
「ん? ヒムロ、知り合いか?」
中隊のリーダーらしき男が言った。
あれは確か俺の派遣先の会社の取締役だ。
ほとんど面識は無いし接点すら無かったが何度か見かけたことがある。
やたらと笑い声がデカイ奴という印象が残っている。
年齢は60歳ほどだがゴウリキを越える体格と凶暴さの持ち主だ。
何かと暴力的なニュースが出るたびにネットで叩かれる団塊の世代というやつだ。
現実世界でも暴力的だったが異世界に来て一層凶暴性が増しているように見える。
バカでかい斧を背負って、日本式の黒い甲冑をまとい、まるで魔物か魔王か。
「ええ……。古伊屋麗お嬢様も一緒に居るようです」
ヒムロが答えると男は答えた。
「何? あの娘がか?」
「お久しぶりです。クロダさん」
フレイヤから先に声をかけた。
社長令嬢であるフレイヤは当然、取締役は顔見知りだろう。
フレイヤはヒムロの方も見て会釈をした。
「ガーッハッハッハ! 久しぶりだね。古伊屋麗お嬢さん。こちらではフレイヤだったかね?」
空気を振動させるような大きな笑い声は相変わらずだ。
「ええ、フレイヤと呼んで下さい」
「お嬢様が、こんな世界で生き抜くのは大変でしょう。
いつも甘いことばかり言ってましたしね。
ワシのような、あなたに言わせれば暴力的な人間にとってはやりやすいですがね。
今や200名の中隊のリーダーです」
「それは素晴らしいですね。私もパーティーに入って塔を攻略している所です」
「ガーッハッハッハ! パーティーとは、その子供と女だけのかね?」
ホソカワがとっさにクロダへと説明した。
「クロダ様。あの小さな魔女のようなロリっ子は大魔道士イズンです。それに長身のデカイ女はイギリス王室のアイラ様です」
ホソカワが前回痛い目にあったこともあってかフォローを入れたがフォローになっていない。
「誰がロリっ子ですって!」
「デカイ女だと!」
「ニャニャニャニャ!」
イズン師匠とアイラが睨みつける。
なぜかノルも一緒になって睨みつけている。
「き、聞こえてましたか! し、失礼しました」
ホソカワはクロダの後ろに隠れてしまった。
相当怖がっている。
実際にぶっとばしたのは俺なのだがイズン師匠とアイラを恐れているようだ。
「ちょうど良かったわ。フロアボスについて説明するいい機会だわさ」
イズン師匠がその場の全員に向けて話はじめた。
「大魔道士イズンは100層まで到達したと言われています。聞いて損は無いかと」
ヒムロがクロダに助言した。
「ほう……」
クロダもイズン師匠には一目置いているようだ。
「まず、クロダさんだっけ? アナタ達は、ここまでフロアボスを倒して来たのよね?」
「ガーッハッハッハ! もちろん。余裕だったがね」
「あたし達も同じよ。フロアボスを倒して来たわ」
どういうことだ?
フロアボスは何体も居るってことなのか?
「みんな不思議なようね。
フロアボスはパーティー単位で出現するの。
パーティー内のメンバーに攻略未経験者が居た場合、
フロアに足を踏み入れると毎回出現するの」
そういうことか。初めて知った。
クロダ達も驚いている。
「そこで問題。
今回ここにはあたし達のパーティーとクロダさんのカンパニーが居るわ。
どうなると思う?」
「同時に出現するフロアボスは一体だけのはず。
つまり、共闘で有利になるということですか?」
ヒムロが答えた。
「御名答。
しかし、残念ながらこのフロアボスは違うわさ。
『ウィル・オ・ザ・ウィスプ』
天国にも地獄にも行けない者の魂。
ヒトの苦しみや恨みのRPの残像。
戦闘参加メンバーが多ければ多いほど、その中の悪意が多いほど、
ここのフロアボスは数を増やすわ」
「ガーッハッハッハ!
ご説明ありがとう。
心配には及ばんよ。
君達は我々のおこぼれてこの層を突破させてあげよう。
モタモタしていると日が暮れてしまう。
さっそくフロアボスへ挑もうでは無いか」
クロダは自信たっぷりにそう言うと中隊メンバーを引き連れてフロア中央へと進みだした。
中隊メンバーも俺たちをバカにしているのか、俺たちの方を見て指を刺して笑う者や、何か悪口を言っている様子の者が居た。
「これからが重要な話だったんだけどねぇ」
イズン師匠は、そう言うと説明を続けた。
「今回は、アルスはRPをフレイヤに供給し続ける役目。
フレイヤは回復呪文で『ウィル・オ・ザ・ウィスプ』を攻撃する役目よ。
『ウィル・オ・ザ・ウィスプ』のRPは1体1000。
RP1000相当の回復呪文で倒せるわ」
「1体ということは複数出るってことでしょうか?」
イズン師匠に尋ねた。
「そう。ヒトの悪意の数だけね。
クロダの中隊、あれは相当な悪意がありそうね」
「し、師匠、それ知ってるなら共闘しない方が良かったじゃないですか?」
「バカねぇ。数多い方が修行になるし、第一あいつら見捨てるわけにもいかないでしょ」
フレイヤは話を聞くと何か決心したように言った。
「私、頑張ります」
フレイヤもバカにされていたのに人が良すぎるよ。
ヒムロとの間に何があったのか知らないがアイツを助けたいんだろうか?
「フレイヤ、回復呪文には2つあるのは知ってるわね?」
イズン師匠の質問にフレイヤは即答した。
「はい。肉体的回復呪文と精神的回復呪文ですね」
「よく勉強してるわさ。
今回使用するのは当然、精神的回復呪文。
恨み、悲しみ、嫉妬、怒り、様々な負の感情を浄化するのよ」
「わかりました!」
「アルス。あんたはそのバカみたいな量のRPをフレイヤに供給し続けること。
前回の戦いの延長だわさ。
フレイヤ自身に自分を重ねるイメージ」
「わ、わかりました」
わかりました。と言ったものの、ヒムロ達を救うことにイマイチ乗り気になれない。
だいいち、フレイヤとヒムロの関係も気になるし。
「さぁ、行くわよ! クロダ達に置いてかれないように」
イズン師匠は俺の気持ちも知らずどんどん進んでいった。
「アルス。どうしたの? 行きましょ」
1人立ち止まっていた俺にフレイヤが話しかけてきた。
「あ、あ……。うん」
足は重いがフレイヤの後をついて歩いた。
中身は三十過ぎのおっさんだと言うのに気になる女の子の過去が気になるなんて、
俺はいつまでも子供のまま成長が無いのかもしれない。




