少年は大航海へ、旅立たない -4.98-
私は裏口からイベント会場を出ると、すぐ近くに停めていた大型の黒いバイクに近寄った。
メットインスペースから黒のフルフェイスヘルメットを取り出すと、それを頭に嵌め込んだ。
そしてバイクに跨り、キーを差し込んで回した。
エンジンが音を立てる、尻の下から細かな振動を感じた。
(よし、行くぞ……相棒……)
私は、このバイクを”相棒”と呼んでいた。私にとって大事なものは、私の担当するアイドル達と、このバイクだけだ。
(一番近い海岸は南だな)
私は、南へとバイクを走らせた。
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バイクで南へと向かう中で、カナエについて思いを馳せた。
カナエが逃げ出した理由……それは、恐らく昨日のことが原因なのだろう。
(誤魔化してしまえばよかったのだ……)
そう後悔してしまう。私は昔から素直に言葉を発してしまうので、それが起因となるトラブルが発生することが稀にあった。今回のことは、そんな自分の落ち度であったと、今ならば、はっきりと分かる。
(やはり、昔ヤクザをやっていた、というのは若い女の子には刺激が強すぎたのだろうか)
少年は大航海へ、旅立たない -4.98- -終-