メイドさんと領主邸
バンビート伯爵邸に住む当主チャゴ・バンビートは頭を抱えていた。
この前我が一人娘イアが1人で出かけた日。
イアはガラの悪い連中に捕まりかけたらしい。その時通りかかったメイドに助けられたので無事に帰ってくることが出来たらしい。
その者にせめてもの礼がしたい。イアが言うにはメイドは冒険者をしているらしい。訳ありか、何故メイド服なんかで冒険者をしているのかは知らないが我が家で働かせることが出来るのではと思っている。
気になって調べてみればその者は有名だった。いや、有名になりつつある、期待の新人らしい。
僅か2日でDランクそして次の日にはCランクになったという話を聞く。
1日でDランク依頼を3つも片付ける凄腕の新人、決闘を挑んだ冒険者は返り討ちにあうという。
それだけの力があるなら確かにイアを助けてくれたのは納得だ。
後日、冒険者ギルドのギルマスに頼んでみよう。それなら確実に伝わるし、会って礼が言える。
◇◇◇
私とセーラとラファは依頼が終わり報告に来ていた。
本日受けたのはCランク依頼のキングベーアの討伐。午前中に買い物をしてセーラの武器などを揃えたので午後からその試運転のため1つの依頼にした。結果はまぁ問題ない。武器があればちゃんと戦えるのは本当だった。
ラファの能力は凄かった。治癒魔法はわからなかったけど、防御能力反射は凄かった。全ての攻撃をノーダメージだ。逆に言うと武器が傷つくだけでダメージを受けてしまうのでまぁ私の使い方が大事となる。
ギルドに戻り報告をする。
「終わりました」
「お疲れ様です、そういえばその浮いてるのはなんですか?」
エリンさんはラファを指してそう言う。
「これですか?これは私の精霊です」
「せ、精霊!!」
エリンさんの声が大きく後ろの雑談していた冒険者達がこぞって私たちに視線を向けてきた。
「まぁ新しい仲間ですから気にしないでください」
「はっ!すみませんでした」
自分が失言してしまったと気づいたのだろう。言ってしまったものは仕方ないので別にいいけどね。
「大丈夫だから、依頼完了したからお願い」
「はい、キングベーアでしたね⋯⋯はい、終わりました」
「ありがとう」
「あ、それとギルマスが話があるらしいので今お時間よろしいですか?」
ギルマスが?なんだろ
「わかったわ」
私達はギルマスの部屋に行く。
「ミヤビさんいらっしゃい」
ギルマスの部屋は書類が山積みで仕事が大変そうですねと思った。
「話ってなんですか?」
「はい、バンビート伯爵様がミヤビさんに会いたいとの事で、会っていただけませんか?」
伯爵!?なんでいきなりそんな所に呼ばれないとなの?私何かやっちゃった?
「どうして呼ばれたのかしら?」
ギルマスがメガネをクイッとあげ、1枚の封筒を取り出した。
「なんでも伯爵様の一人娘を助けてくれたのがミヤビさんだとか、それでそのお礼がしたいらしく、空いてる日にこの書状を持って家に来てくれと」
なるほど、イアちゃん伯爵の娘だったのか、それでお礼か。よし。
「わかったわ、行ってくる」
「ではこれをどうぞ。それとその浮いてるのは天使ですか?」
ギルマスもラファが気になるようだ。
「これは私の精霊ですよ」
「ほう!精霊ですか、凄いですね、僕の目に狂いはなかったようです」
「じゃあ明日は伯爵邸に行ってくることにするわ、それじゃあ」
ギルマスの部屋をあとにする。
バンビート伯爵邸前
私たちは伯爵邸前に来ている。書状を門番に渡し、門番の1人が中に走っていく。
しばらくすると、門が開き私たちは1人の騎士に案内され中に入る。
通されたのは応接間みたいな所だ。セーラは大人しくソファに座ってじっとしている。ラファはテーブルにあるフルーツバスケットの中からチェリーを取り出してもぐもぐ食べている。
勝手に食べて、許してもらえるかしら?
しばらく待っていると、扉から1人の男とイアちゃんがやってきた。執事も後ろで控えている。
「ようこそいらっしゃいました、ミヤビさん」
「御機嫌よう、本日はお招きいただきありがとうございます、少々作法が疎いかもしれませんが許してください」
「なに、安心したまえ、今日は礼が述べたくて呼んだのだそれくらいは気にしない、ところでそのテーブルでチェリーを食べている者はなんだね?」
おっと、伯爵様もラファが気になるようだ。
「こちら私の精霊ラファでございます。フルーツに関してはすみません」
精霊と聞き目を開く。昨日今日でほとんどの人が驚いているな。
「なるほど精霊ですか。フルーツは構いませんよ、客用に出しているのです。遠慮なく」
「さて自己紹介が遅れましたな。私はこのチャゴ・バンビートこの町の領主をしている、今日はこの前イアが襲われているところを助けてくれた礼がしたく呼んだわけだ。娘を助けてくれて感謝する」
そう言ってチャゴ伯爵は私に頭を下げた。上のものが頭を下げるなどなかなかないのでこれには驚いた。
「いえ、助けられて良かったです」
「お姉ちゃんありがとう」
イアからもお礼の言葉が飛んでくる。
「どういたしまして」
「それで、感謝とは別に何か欲しいものなどはないか?娘を助けてくれたのだ、何かを返したい」
うーん、特に欲しいものとかはないんだよね。この町にずっと居るわけじゃないから家も要らないし、困りましたねお金も別にいっぱいあるしどうしよう?
「もし何もないのなら欲しいものができた時改めて言って欲しい。可能なことなら叶えよう」
「それでお願いします」
領主に貸1とかやばい字面だね。まぁ困ったら助けてもらおう。
「それでは私達はこれで失礼します」
「ああ、ありがとう、これからの活躍期待してるよ」
「はい、それでは」
領主邸を後にした。
私が話してる間セーラは真面目に聞いていたがラファはフルーツを結構食べていて終わる頃にはフルーツバスケットが半分くらい減っていた。食べ過ぎだよ。
◇◇◇
ガサゴソガサゴソ
Eランク冒険者パーティーが街道でボア狩りをしていると遠くの空に何か黒い塊が複数見えた。
「なんだありゃ」
「嵐でも来るのか?」
「にしては変な形だぞ、まるで生き物みたいだが」
「こんな所に飛んでるのなんて普通の鳥だろ、あのサイズは見た事ねぇよ」
「おい、今すぐギルドに報告に行くぞ」
冒険者のひとりが双眼鏡を取り出して見ていると急にそんなことを言い出した。
「どうしたんだよ、何が見えた」
「⋯⋯いたんだよ」
「なんだって?」
「ワイバーンがいたんだよ!あの中に五体見える、他は普通の鳥に見えるが知らない個体だ」
「なんだと!急いで知らせねぇと」
冒険者一行は慌ててレイジスに引き返す。
この町にとんでもないものが来ると。