メイドさんと武器
あと1匹のビックボアは夕方になり明日もう一度来ようと決め、帰ろうとした時に見つけた。レイジス方面への帰り道少しそれた草むらに隠れきれてない巨体を見つけた。
「あーやっと見つけた」
「そうだね、これで依頼達成ね」
そう言って草むらに“アースインパクト”を向けて放ち、息の根を止める。
アイテムボックスに入れ、町に帰る。
町の入口には検問所があり警備をしている。身分証を提示して町の中に入ることが出来る。
「セーラは身分を証明できるものって何かある?」
「私達はあまり里から出ないから持ってないよ」
となるとどうしようかしら、山奥の町から出てきたことにする?それとも襲われてる所を保護したとか?
襲われてるところを助けたとなればそのまま事情聴取を受けてしまう気がする。かと言って山奥の村から出てきたのが嘘だと分かれば結局身元確認とかされてしまうのだろう。
⋯⋯ここは素直に襲われた体で行こう。何かあったら逃げ出せばいい。私はセーラのためならこの町を捨てても構わない。
この町に来て初めて出来た友達だからかな、結構気に入ったのかな。
「じゃあ岩山で襲われてたのを助けたことにするから、エルフだって言うのもちゃんと伝えてみよう。ダメだったら私も一緒に逃げるから、別の町に行こう」
「⋯⋯わかった」
検問所に着き、セーラについて聞かれた。
「お前達身分証を見せてくれ」
「私のはこれ、で彼女は岩山に依頼をやりに行った時に襲われていたから助け出した。身分証は持ってないんだけどどうすればいいかな?」
お金払って町に入り冒険者ギルドで登録って流れができるなら簡単なんだけどな、流石にそれはないかな。
「なに、岩山でか⋯⋯向こうに部屋がある、詳しい話はそこでしよう」
「私がついててもいい?」
「知り合いが近くにいた方がいいでしょう、かまいません」
私はセーラを連れてその検問所内にある部屋の中に入る。
セーラにはまだバンダナをつけたまま、服はボロボロだったからその上にマントを羽織ってる。
「そこに座ってくれ」
私は騎士と向かい合って座り、私の隣にセーラが座る。
「では改めて、俺はディッシュという。この町の騎士団所属だ。今回は岩山で襲われてた彼女を助けたと言うことでいいな?」
セーラはコクリと頷く。
「して、何故そんな所にいた?岩山ということは少なくとも山を超えるか迷いの森を抜けた訳だ。ならそれなりの実力もあるはず、何に襲われた」
「わたしは小型コカトリスにやられかけました。そのコカトリスはミヤビさんが倒してくれました」
「ほう、メイド服着てるからどこかのメイドかと思ってたがまさか冒険者とはな、ギルドカードを見せてくれんか?」
私はディッシュさんにギルドカードを渡す。
「Dランク⋯⋯ミヤビ殿が行ったのは依頼か?」
「ええ、小型コカトリスの討伐を受けていたのよ」
「なるほど、理解した、彼女はどうする?ミヤビ殿が連れていくのであればそれで問題ない。後で身分証を発行してさえくれれば大丈夫だ。それとも俺達騎士団で保護する事も⋯「結構よ」⋯」
「私のパーティーに入れることにするわ、彼女、剣なら使えるみたいだから」
「そ、そうか⋯⋯わかった。では行ってもいいぞ」
私とセーラは検問所を後にした。
町に戻ってきた私達はセーラのギルド登録と私の依頼達成報告をしに、まずは冒険者ギルドに行く。
夕方なので依頼から帰ってきた人達が沢山いていつもより混んでる。当然私達のことを知らない人が多いので視線を集める。私はともかくセーラは可愛い顔してるので余計に。
「あ、ミヤビさんこちら空いてますよ」
「エリンさん、こんばんは」
「お疲れ様です。依頼報告ですか?」
「そうよ、後彼女を冒険者登録お願い」
エリンさんはセーラに紙を渡し書いてもらう。セーラは私の横に並び机を借りて書き出した。
「かしこまりました、では先に依頼報告から聞きますね。どの依頼を終わらせましたか?」
「全部よ」
「⋯⋯はい?」
「3つ受けた依頼は全部完了よ、幻惑花は直ぐに出せるけど他は場所がないと無理よ」
「わ、分かりました、まずは裏庭の方へ行きましょう。先に行っててもらえますか?私はギルマスの所へ行ってから行きます!」
そう言うや否や奥の部屋に入っていってしまった。
取り残された私とセーラ。とりあえず裏庭に行くことにした。
先日裏庭で決闘をやったので場所は覚えてるから良かったよ。
裏庭でしばらく待ってるとエリンさんとギルマスと男が3人くらいが付いてきている。
「お待たせしました」
「いいわよ、とりあえず討伐した証拠を見せますね」
私はアイテムボックスからビックボア2匹とボア3匹、小型コカトリス1匹を取り出す。ついでに幻惑花も出しとく。それだけで広い裏庭の4分の1が埋まった。
「これはこれは⋯⋯Dランクの依頼を1日で3つ終わらせてきますか、凄いですね」
「ビックボアが見つからなくて諦めようと思ってたけどね、帰り道に見つかってよかったわ」
「はは⋯⋯流石だ。ミヤビさんあなたをCランクに昇格します」
ギルマスから昇格の話。Dランクになってから1日しか経ってない。それよりDランクに来るのも1回依頼を受けただけだし、おかしくない?
「そんなポンポン上げちゃっていいの?」
「本来ではダメです、ちゃんと基準があってそれをクリアしませんとダメです」
「なら⋯」
「ミヤビさんは僕が判断した中でこのギルドで1番強いはずです、このギルドにいるのはBランクパーティー1組が1番強かった、でもあなたの剣技や、実績を見てみればをBランクより強いだろうと思いまして、あ、このことは内密にお願いしますね。
だからミヤビさんには是非ともこのギルドの1番手を担って頂きたいのです」
強いのはレベルと装備のおかげだからなー、確かに技術はVRMMOで培ってきたものだから自慢はできるが、そこだけなんだよね。
「私はとりあえずこの町に住んでいますが別の町にも行きたいですし、そのお願いは聞けませんよ。さ、依頼達成したので報酬をお願いします。あと彼女の冒険者登録お願いしますね」
「⋯⋯わかりました。エリン、報酬と冒険者登録を急いであげてください」
それから報酬を貰い、セーラの冒険者登録も無事に終わった。剣を使えば確かに強かった。と言ってもスライムだから当たり前だけど⋯⋯。
それからセーラの冒険者ランクだがGからだと思ったらDからになった。
エリンさん曰く、「ミヤビさんのパーティーに入るならそれくらい強いだろうと思ってだと思いますよ」だって、まぁ強いのは当然なんだけど私とその仲間に対して随分と緩い気がするわね。他の冒険者から嫌な目で見られるからやめて欲しいわ。
ついでに私もCランク昇格をされてしまった。元から上げるつもりだったので別によかったけどこうも楽々上がっちゃう物足りないんだよね。
宿屋は結局フラワの宿にした。どうもこの世界はあの薄味が基本らしい。ならあの宿屋のご飯は美味しい部類なのだろう。自分で料理出来るようになるまではそこに泊まることにする。
「いらっしゃいませ」
「2人部屋お願い」
「かしこまりました、1泊2000ルピアです」
料金を払い、時間もちょうどいいのでご飯を食べる。
今日はボア肉ステーキと野菜スープだ。これで200ルピア結構いい値段だ。セーラも私と同じものを食べてる。
「セーラ」
久しぶりの食事だったらしく無我夢中で食べてる。私の声を聞きもぐもぐしながら首を傾げてきた。
「ふぁに?」
「明日からの予定でも話し合おうか」
「わかった」
「明日は町から出て連携確認とセーラが何を出来るか見せてくれる?その前に買い物もしましょう、セーラの武器と帽子とかを買っておかないとだからね」
「お金ないよ」
セーラは奴隷商に捕まっていたし逃げた先でもお金があるような場所ではないのでお金があるわけがなかった。
「いいよ私が出すよ、セーラはお金が稼げなかったし、これから活躍してくれるはずだから期待してるね」
「まかせて!」
夕食が食べ終わり部屋に戻る。私は夕食の時思い出したことを試そうと思っている。
それは今日精霊魔法を使った時精霊が最後に残した言葉が気になる。
私の武器に語りかけろって言ってたよね。精霊のことだから嘘は言ってないはずよね。
私は聖戦戦斧を取り出して武器に語りかけてみる。
「ねぇ、キミには何が宿ってるの?」
私が語り?⋯話しかけたら武器が眩い光を発し始めた。徐々に強くなり部屋全体を包み込んだ。
「な、な、なに!?」
「セーラ、落ち着いてそのままじっとしてて!」
それからしばらくして光が収まったら目の前に小さな女の子が浮かんでいる。
背には小さな羽が生えていて、頭には天使の輪っか、髪は銀髪で目が黄色い、童顔だけどキリリとした顔つきで幼さは感じない。服装は白をメインに黄色のラインが入ったワンピース。身長は30cmくらいありそう。
「主、やっと会えた!」
出てきてそうそうなんか言い出した。
「あ、主?私が?」
「そう、我は主の武器聖戦戦斧に宿りし精霊」
「あなたがこの武器の⋯⋯」
確かに聖戦戦斧と精霊の間にモヤモヤとした何かが結ばれてる気がするが、これがその証拠か。
「長い時我が武器を使ってくれてありがとう、おかげで主の力になれるように能力の定着が終わった」
能力の定着?長い時って、もしかして私がゲームの時から使ってた時からこの武器は力を貯めていたの?
「じゃああなたは私がここに来る前から私の役に立つためにその能力の定着をしていたの」
「そう、それが先の戦いで完了した。だからその時近くにいた精霊に霊力を流した、そしたら精霊が教えてくれた」
なるほど、この世界に来てからアイテム説明に???が宿るとあったけどまさか精霊だったなんてね。しかも私専用か。
「わかったわ、これからもよろしくね。あなたの名前は?」
「我に名はない、いやあるにはあるが武器名が我の名、是非主につけて欲しい」
「んーあなたはどんな能力が使えるの?」
せっかく天使っぼい見た目してるんだ、どんな能力かにもよるけどそれに近い天使の名前とかつけてあげたいな。
「我は治癒魔法と光魔法が使える。後は■■も使える、後はどんなものも我には効かぬ、全てを跳ね返す力もある。まぁこの力は我に来た物のみだけどね」
治癒魔法か、それと何か聞き取れなかったけどなんだったんだろ、跳ね返すのは自分だけだけど安全面では問題ないのか。じゃあ⋯⋯
「ラファなんてどうだ?」
「ラファ⋯⋯いい、主ありがとう」
名前は大天使ラファーエルから取ってラファにしてみた。私の武器だし、有名な名前をつけてあげたかったからね。
「他になにか知ってた方がいいことってある?」
もし制約とかがあるなら聞いておかないと危険だろう。
「我は武器に宿りし精霊、武器が傷付けば我も傷つく」
まぁ大事に使うのは当然だね。
「ミヤビさんこれはなんですか!?」
お、セーラの頭がようやく理解し始めたかな?さっきまでショートしてたみたいだ。
「私の精霊だよ、ラファっていうの仲良くしてね」
「せ、精霊、凄い」
「ラファ、彼女はセーラ、私たちの仲間だから」
「かしこまりました。セーラさんよろしく」
「は、はい!よろしく、お願いします」
こうして武器に宿っていたのは精霊というファンタジー出来事があり、私たちの新たな仲間が出来た。